「まだ誰も知らない謎を解き明かしたい」
国際宇宙開発レース、世界一へ。
東北大学 大学院 工学研究科・工学部
航空宇宙工学専攻 スペーステクノロジー講座 宇宙探査工学分野
極限ロボティクス国際研究センター センター長
教授 吉田和哉
人生が大きく変わり始めた岐路は、
「引き出し」の中身が宝物に変わった瞬間。
大学卒業後は大学院への進学を選んだ。1980年代前半、日本のロボット技術が花開いた時代。吉田教授は工学部の知識を活かし、卒業研究としてロボットの研究を志す。しかしここでも、第一志望の研究室には入れなかった。「その研究室は人気でね、ジャンケンで負けたんですよ。結局第二志望の研究室で1年間過ごして、大学院修士課程に進む時ようやくロボット系の研究室に入ることができました」研究を進めるうち、大学院の博士課程に残りたいという思いが膨らみ、予定している博士論文のテーマを教授に相談すると、意外な答えが返ってきた。「そのテーマはすでに先輩が書いてしまったから駄目なんだよ。君は趣味で宇宙をやっているそうじゃないか。だったら宇宙開発に関わるロボットをテーマにしてみたらどうだ」この言葉で人生が急激に変わり始めたと、吉田教授は振り返る。遠回りなように見えても、無駄などなかった。「宇宙が好き」という純粋な気持ちを持ち続けた結果、宇宙とロボット工学が結びついて今が生まれたのだ。「引き出しに取っておくことって大事なんですよね。いつか突然、引き出しにしまいっぱなしにしていたものが宝物になって輝く時が来るんです。みんなきっと同じようにそれぞれの宝物を持っているはず。それが輝くチャンスに気づいていないだけなんじゃないかな」


「日本が月に行くという時には、
自分たちの技術を提供しよう」
1995年、東北大学の助教授となり、1997年から月を探査するロボットの研究に携わり17年。「日本が月に行くという時には、自分たちの技術を提供しよう」という思いを胸に、ひたむきに研究に取り組んできた。3億km彼方の小さな天体に行き無事に帰還した「はやぶさ」の開発チームとして、貴重なプロジェクトにも関わった。そして2011年、東北大学の機械系研究室教授9名が所属する「極限ロボティクス国際研究センター」を立ち上げた。「読んで字のごとく、様々な極限状態で活動するロボットを研究するセンターで、宇宙探査はもちろん、災害への応用、医学への応用などを視野に入れています。まさに新しい活動をスタートさせようとした矢先の3月11日、あの震災が起きたんです。急いでロボットを現場に送り出さなければならなくなりました」待ったなしの状況だった。まだまだ研究段階だったロボットを3ヵ月で実用化させ、異例の早さで福島第一原子力発電所へと送った。それまでの下地があったからできたことだった。結果、吉田教授らがつくったロボットは、放射能で汚染されてしまった原子炉建屋の1階から最上階までをくまなく探査し役目を全うした。

まだ誰も知らない謎を解き明かすこと。
それは、何よりも大きな情熱の源。
「日本は新しい技術を常に磨いてきたんです。世界には絶対負けないという強い気持ちがありますよ」2007年に打ち上げられた日本の月探査衛星「かぐや」が、高解像度のカメラで、まだ誰も気づいていなかった月面の地底への入口を発見した。この新発見がアドバンテージとなり、モチベーションは高まるばかりだ。「日本が見つけた“月の地底”を、日本が、自分が、探査したい。これまで積み上げてきた技術と着手の早さで、世界に勝ちます」目覚ましい発展を遂げる日本の航空宇宙工学技術。その最先端で走り続ける吉田教授には、まだ叶えていない夢がある。「チャンスがあったらぜひ月に行ってみたいと思うんです。日常で体験できない世界に行くことはやっぱりワクワクするじゃないですか。宇宙は選ばれた人が行く特別な場所じゃなく、旅行の行き先の一つとして選ぶような時代になればいいと思っています。いや、なると思う。その時代は、すぐ近くまで来ているはずです」まだ誰も知らない謎を解き明かすこと。それが研究者の仕事であり、何よりも自分が楽しいと思う情熱の源なのだという。未知を探究する醍醐味を、これからも多くの学生達と分かち合いたい。だからこそ吉田教授は、東北大学という学術の場をホームに選んだのだろう。Googleが開催する国際宇宙開発レースのゴール期限まで、あと1年半。世界一の瞬間は、着実に近づいている。


東北大学 大学院 工学研究科・工学部
航空宇宙工学専攻 スペーステクノロジー講座 宇宙探査工学分野
極限ロボティクス国際研究センター センター長
教授 吉田和哉

1984年、東京工業大学工学部卒業。1886年、同大学院工学研究科修士課程を修了し、東京工業大学助手、マサチューセッツ工科大学客員研究員等を経て、1995年より東北大学へ。2003年より現職。研究分野は、宇宙ロボット工学、ロボットのダイナミクスと制御、探査工学、超小型衛星の開発。1998年より国際宇宙大学の客員教員として、国際的な宇宙工学教育にも貢献している。