選択塩化法による電炉ダストからの亜鉛回収法を開発しました(金属フロンティア工学専攻 佐藤讓名誉教授、朱鴻民教授)

2014/03/05

東北大学大学院工学研究科金属フロンティア工学専攻の佐藤讓名誉教授、朱鴻民教授らは、電気炉で鉄スクラップを溶解する時に発生する煙灰(電炉ダストと言う)から選択塩化法・溶融塩電解により、亜鉛を効率よく回収する方法を開発しました。

【研究の背景】

電炉ダストは電気炉で製造される鉄鋼の1.5~2%、国内で年間、約50万トン発生し、その中には25~30%の亜鉛が含まれています。元々は錆止めとして自動車用鋼板等に使われた亜鉛めっきです。その量は国内で生産される亜鉛の30~40%にも上ります。亜鉛の国内市場は1,000億円規模であり、日本は亜鉛鉱石を全量輸入していますので、極めて貴重な国内資源です。しかし、電炉ダストは多くの不純物を含み、有害産業廃棄物ですので電気炉メーカーでは処理費を払って処分しています。これは日本に限らず世界的な問題になっています。電炉ダストの一部は化学処理後に埋め立てられ、国内では7~8割が亜鉛原料になりますが鉱石の代わりに直接、製錬に使うことはできません。その理由は、亜鉛が鉄亜鉛酸化物という処理困難な化合物となっていること、鉛やカドミウム等の重金属を含むこと、さらに塩ビ等に由来する塩素を多く含むためです。このため現行の処理法では、図1に示すようにウェールズ法と呼ばれるセメント製造設備に似た大型回転炉で膨大なエネルギーを使って鉄亜鉛酸化物中の亜鉛を還元・蒸留し、再酸化によって粗酸化亜鉛を作り、これを製錬工程に回しています。しかし、この粗酸化亜鉛は純度が低く塩素も残るため、亜鉛の原料にするには溶媒抽出法等の追加の工程が必要となります。即ち、効率の低い高コストの方法で回収されているのが現状なのです。

【研究成果の概要】

今回、開発された回収法では図2に示すように、粗酸化亜鉛を経ることなく、選択塩化法と呼ばれる方法で電炉ダストを約1,000℃において、塩素と空気の混合ガスで直接塩化して、電炉ダスト中の亜鉛を塩化亜鉛としてガス状で分離します。この際、残りの大部分を占める鉄は酸化鉄として固体のまま残ります。得られた塩化亜鉛を食塩(塩化ナトリウム)と混合して溶融塩という液体にしてから鉛等の不純物を除いて浄化し、亜鉛の融点より高い450℃で電気分解して高純度の亜鉛を製造します。

【研究成果の意義】

今回開発した方法は、従来法と比べると以下の利点があり全体の回収コストを大幅に削減できると共に、世界的な問題である廃棄物としての電炉ダストの処理に貢献するものと考えられます。

  • 電炉ダスト中の亜鉛を選択塩化することで塩素が障害とならず、容易に亜鉛と鉄を分離できます。
  • 従来法よりも亜鉛の回収率が高い(95%以上)と見込まれます。
  • 塩化亜鉛は食塩との混合溶融塩として不純物を除いた後で溶融塩電解を行い、高純度(99.99%)の亜鉛を得ることができます。これは現在の最高純度規格を満たします。
  • 溶融塩電解は電流密度を大きくできますので、設備がコンパクトで生産性が高くなります。
  • 得られる亜鉛は液体状なので、水溶液電解で必要な、電極からの電着物の剥ぎ取り工程が不要です。
  • 塩化後に残る酸化鉄等は、鉄源として電気炉に戻すことにより廃棄物を大幅に削減できます。
  • 全体の工程が短く単純なので、高温ではありますがエネルギー消費は少ないと考えられます。
 
 
図1 従来の電炉ダスト処理法   図2 新しく開発された電炉ダスト処理法
 
【お問い合わせ先】 東北大学大学院工学研究科
名誉教授 佐藤 讓
TEL/FAX: 022-795-5004
E-mail:satoz@material.tohoku.ac.jp

【お問合せ】 東北大学工学研究科・工学部情報広報室
TEL/ FAX:022-795-5898
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