知能デバイス材料学専攻の高村仁教授らのグループが全固体電池のための新しいリチウムイオン伝導体 KI-LiBH<sub>4</sub>を開発しました。

2014/05/21

研究の概要

東北大学大学院工学研究科知能デバイス材料学専攻の高村仁教授と宮崎怜雄奈博士(現・(独)物質・材料研究機構研究員)らのグループが全固体電池のための新しいリチウムイオン伝導体KI-LiBH4を開発しました。
本研究では従来から知られている酸化物系や硫化物系の固体電解質に比べて飛躍的に成形性が高く、電極材料と良好な接触性を示す水素化物系固体電解質LiBH4 (水素化ホウ素リチウム) に着目しました。これまでにLiBH4は115℃以上で安定な高温相においてLi+イオンが高速で移動できることが知られており、LiBH4は高容量負極材料であるLi金属と良好な界面を形成し全固体電池の高出力密度化を実現しうる電解質として注目されています。
しかし高いLi+イオン伝導を示すLiBH4高温相ではイオンの二次元的な伝導が示唆されており、結晶のある方向ではイオン伝導性が低く電極反応に寄与できない可能性があります。
本研究では、Li+イオン伝導において異方性を示さない等方的な岩塩型構造のLiBH4に着目して新規材料開発を行いました。

研究の背景

リチウムイオン電池はモバイル機器のみならず、電気自動車や非常用電源などの大型用途にも広く利用されていますが、リチウムイオン電池はその動作電圧が約3.8 Vと高いことから、電解質に耐電圧の高い有機溶媒が使用されています。これらは可燃性であり、最近のB787の火災事故のように発火・破損事故が報告されています。
そこで、有機溶媒に代わり固体電解質1)を用いて安全性を高めた全固体電池の開発が行われており、電池が不揮発性・不燃性の固体材料のみで構成されれば安全性の大幅な改善が見込まれ、電極材料や電池形状の自由度も向上します。

研究のポイント

岩塩型構造のLiBH4は200℃以上、かつ、4万気圧以上の極限状態でのみ存在します。従って、固体電解質として応用するためにはその高温高圧下の岩塩型構造を常温常圧まで安定化することが求められています。本研究では岩塩型構造が常温常圧で安定であるKI(ヨウ化カリウム)中にLiBH4をドープするという、従来とは逆転の発想により岩塩型構造のLiBH4の合成に成功しました。図1に示すように母格子であるKIの格子定数がLiBH4の添加量の増加により収縮していることがわかります。これはKIの構成イオンであるK+とI-がそれぞれイオン半径の小さなLi+とBH4-で置換されたことを意味します。すなわちLiBH4が岩塩型の結晶構造中に溶け込み、常温常圧下において岩塩型LiBH4が合成されたことを示しています。

 
図1:KI-LiBH4系の格子定数    図2: 25 mol%LiBH4ドープKIのイオン伝導度
 

合成された固溶体のイオン伝導度の温度依存性からは、陽イオン空孔を導入することで伝導度が飛躍的に向上する可能性があることを示唆する結果となりました(図2)。したがって第3の添加元素を探索する必要があるが最適組成などに関しては今後の課題となります。特筆すべきは、特にLiBH4の濃度の低い試料における伝導機構です。

図3: 25mol %LiBH4ドープKIの抵抗測定結果 (a: 直流、b: 交流)
 

図3に示すようにLi電極を用いて直流法と交流法で測定した抵抗値はほぼ等しい値となり、この結果はKI–LiBH4の固溶体中では主にLi+イオンが電流を担っていることを表しています。すなわちドープしたLi+イオン濃度が少ないにもかかわらず、電流はLi+イオンによって担われていることがわかりました。
この結果は、Liを全く含まない材料中にLi含有化合物をドープし、Liを“寄生”させることで純Li+イオン伝導体を合成可能であることを示唆しています。我々はこの一見奇妙な伝導機構を“Parasitic Conduction Mechanism”と呼んでいます(図4)。

図4: Parasitic Conduction Mechanismの模式図
 

波及効果

本研究では同じ結晶構造を有する全く異なる化合物に目的化合物のドープを行いました。この手法は水素化物系のみでなく、他の材料系についても応用可能なアイデアであり、未だ構造安定化が実現されていない高イオン伝導性材料を得る新しい視点を提供します。
また今回明らかになった“Parasitic Conduction Mechanism”は、従来の「Li+イオン伝導体は十分にLiを化合物中に含まなければならない」という先入観を排除し、新規Li+イオン伝導性材料開発の手法となります。着目した材料系の固溶域2)が限られていても、Parasitic Conduction Mechanismが発現すればLi量に無関係に純Li+イオン伝導体を合成可能であり、固溶限による制限を受けないため材料選択の自由度が飛躍的に向上します。現状では高イオン伝導度、成形性、負極との電気化学的安定性や大気中での安定性など応用面において好ましい特性を全て併せ持つ電解質は未だ開発されていないが、Li+イオン伝導材料に全く関係の無い母格子を選択し、そこへLiを少量ドープするという今までに無かった発想で材料系の開発が可能になるものと期待されます。

本研究はR. Miyazaki, H. Maekawa and H. Takamura, “Synthesis of Rock-Salt Type Lithium Borohydride and Its Peculiar Li+ Ion Conduction Properties”としてAPL Materials (Open Access)に2014年5月20日に掲載されました。
http://scitation.aip.org/content/aip/journal/aplmater/2/5/10.1063/1.4876638

 
語彙説明
  1. 固体電解質
    固体でありながら結晶中をイオンが移動できる材料。室温近傍でLi+イオンが高速で移動できるものとして酸化物系、硫化物系材料が良く知られている。
  2. 固溶限
    ある固体にその構成元素と異なる元素を加える場合に、その元素が溶解しうる限界の量
 

【お問い合わせ】
東北大学大学院工学研究科 知能デバイス材料学専攻
教授 高村 仁
TEL:022-795-3938
E-mail: takamura@material.tohoku.ac.jp

東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp

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