「水で戻せる乾燥ゲル電極を開発」 しっとり柔らかいゲル電極が”丈夫になって”乾燥保存も可能に

2014/06/10

工学研究科バイオロボティクス専攻の西澤松彦 教授の研究グループは、乾燥した状態で保存し、水分を吸わせて(水で戻して)使用できる、生体に安全な有機物の電極を開発しました。伸び縮みしても断線しない導電性のウレタンゴムを作製し、これを、変形に強いハイドロゲル(ゼリー)の表面に接合する技術を開発したことによって、乾燥と水戻しで体積が変化しても壊れず、高圧水蒸気による滅菌消毒も可能な、安全・衛生的で「丈夫な」ゲル電極が実現しました。このゲル電極は70%以上が水分であるため生体にしっとりと馴染み、神経や筋肉の活動計測、および通電治療などに有効です。また、体内埋め込みによる脳・神経機能の補助などにも適しています。
本研究は、地域イノベーション戦略支援プログラム「知と医療機器創生宮城県エリア」の一環であり、成果の一部が2014年6月10日にドイツ科学誌「Advanced Healthcare Materials」にオンライン掲載されます。

【研究の詳細】

(1)背景と経緯

最近、身体に貼り付ける“ウェアラブル”なデバイスによって神経や筋肉の活動をモニタする健康管理システムが話題になっています。また、人工内耳をはじめとする体内埋め込みデバイスの研究も急速に進んでいます。このようなデバイスと生体の電気的な接続を担う「電極」には、貼り付けても煩わしくない柔軟性や、体内に埋め込める安全性などが求められ、そのための材料や構造の改良が精力的に行われてきました。例えば、最近の印刷技術の進歩によって、ラップフィルムのような極薄のプラスチックに電気回路が作製できるようになり、その優れた柔軟性が注目されています。しかし、これらは材料としては硬いプラスチックであり、物質の透過性もありません。我々の身体のように水を主成分とするハイドロゲルを用いれば、しっとりと肌に馴染み、体内に埋め込んでも組織液の循環を妨げない、理想的な生体親和性の電極が実現するはずです。そのような期待の下で、ハイドロゲルを基材とする電気回路の開発が進められてきましたが、乾燥などによってゲルの体積が変化すると断線するなどの“脆さ”が実用化のネックでした。今回、導電性のウレタンゴムを配線材料とし、変形に強いダブルネットワーク型のハイドロゲルを基板材料に用い、さらに、これらを強固かつ柔軟に接合する電解重合技術の開発によって、ゲル電極の弱点(脆さ)を克服し実用化への道を拓くことができました。
図1 ウェアラブルな柔らかい電極シート: ラップフィルム電極とハイドロゲル電極の比較

(2)新技術開発: 伸縮しても断線しない導電性ウレタンゴムとハイドロゲルを接合

伸縮性の配線材料は、生体安全性に優れるウレタンゴムと導電性高分子を混合して作製しました(以下、導電性ウレタンゴムと呼びます)。混合割合を最適化して、2倍に伸ばした状態でも導電性(70 S/cm程度)が保てる様になりました。一方、基板材料に用いたダブルネットワークゲル(DNゲル)は、水分を70%程度含むにもかかわらず破断応力が1MPaを超える、非常に丈夫なハイドロゲルです。今回、これら2種の材料(導電性ウレタンゴムとDNゲル)を接合して電極基板を作製する方法を開発しました(図2)。先ず、ガラス板に導電性ウレタンゴムの配線を描き(a)、その上にDNゲルを被せてからPEDOTという材料の電解重合を行います(b)。その際、電解重合の原料(モノマー)はDNゲルに染込ませておきます。最後に、PVAをお湯で溶かして完成です(c)。断面写真(d)では、PEDOTがゲルの内部に成長して絡み付き、強固な接合が得られている様子が分かります。
図2 丈夫なハイドロゲル電極の作製方法: a 導電性ウレタンゴムのパターンを作製,b ゲルシートを貼りPEDOTを電解重合,c ガラス板から剥がして回収,d 断面の顕微鏡写真

(3)得られた成果: 丈夫で実用的なゲル電極が実現

上述の新技術で作製したゲル電極の安定性(丈夫さ)を、図3に示す様々な方法で検証しました。 “分子が素通し”の生体親和性ゲル電極の実用性が一気に向上したと言えます。
  1. 関節などに生じる50%の引っ張り歪(ひずみ)を100回加えても断線しませんでした。
  2. 乾燥させて干からびても、水に浸すと5分程度で元の形状まで膨らみ、導電性の劣化も生じませんでした。導電性ウレタンゴムとDNゲルの剥離も起きません。これにより、春雨や干しシイタケの様に乾燥状態で販売・保存することが可能となります。再び乾燥させる事もできます。
  3. 高圧熱水によるオートクレーブ滅菌(120℃、2気圧、20分)ができたので、医療分野でも使えます。
  4. 細胞に毒性を示さないことが確認できたので、体内への埋め込みも検討できます。
  5. 図2のガラス板に換えて針を使うと、ゲル内部への配線も可能でした。
図3 ゲル電極の安定性(丈夫さ)の検証
<論文名・著者名>

“Highly Conductive Stretchable and Biocompatible Electrode-Hydrogel Hybrids for Advanced Tissue Engineering” M. Sasaki, B. C. Karikkineth, K. Nagamine, H. Kaji, K. Torimitsu, M. Nishizawa, Adv. Healthcare Mater., http://onlinelibrary.wiley.com/journal/10.1002/(ISSN)2192-2659

本成果は以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
地域イノベーション戦略支援プログラム「知と医療機器創生宮城県エリア」
研究課題名:ソフトウェット電極で創るウェアラブル診断治療シートデバイス
研究代表者:西澤松彦(東北大学大学院工学研究科 教授)
研究期間:平成24年11月~平成29年3月
【お問い合わせ】
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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