知能デバイス材料学専攻の小山 裕教授がテラヘルツ波で紙幣等の変造・損傷を非接触で検出する技術の開発に成功しました。-非接触で紙幣等に貼付された極薄テープ等をイメージング-

2015/09/11

東北大学大学院工学研究科の小山 裕 教授の研究グループは、光と電波の両方の特徴を併せ持つ新しい光 「テラヘルツ波」の光源を独自に開発し、それを用いて、紙幣等に貼付されたごく薄いテープ(髪の毛の半分から1/4程度)を高速に非接触で検出する技術の開発に成功しました。

紙幣等の変造や損傷修復のために、ごく薄い樹脂テープ貼付が行われることがあり、これらの検出には、現在主に接触式の段差計測によって行われるのが一般的な方法です。しかし接触式であるため、極薄テープ検出に限界があり、検査速度にも制限が生じており、場合によっては紙幣等の損傷を招く場合もあります。

今回、我々の研究グループでは独自の電子デバイステラヘルツ光源及びレーザーテラヘルツ光源を開発し、非接触でごく薄い貼付されたテープ等を検出することに成功しました(図1)。

本研究成果は、テラヘルツ光の人体に安全でありながら、紙幣や樹脂等には高い透過性を示す特徴を十二分に活かした「キラーアプリケーション」の一つであり、この成果により紙幣等の変造検出等の事務実務分野で世界中に普及する可能性が広がりました。

本研究は、ローレルバンクマシン株式会社との共同研究の一環であり、成果の一部は2015年8月に韓国釜山で開催された2015 CLEO (Conference on Lasers and Electro-Optics) Pacific Rim Conference等で発表されました。

【研究の背景】

テラヘルツ波とは、携帯電話等に使われているものの数十倍から数千倍も高い周波数の電波です(図2)。このような大変高い周波数の電波は、これまで発生させる事も検出することも極めて困難だったため、「未踏周波数帯」とか「未使用周波数帯」などと呼ばれていましたが、近年、その重要な応用への期待の高まりとともに、我々の研究グループを初め、世界中で種々のテラヘルツ光源が開発されてきています。これほどの高い周波数の電波は、電波であると同時に、光の性質も併せ持ち、これまでにない広範な応用分野が期待されています。発生光源や検出デバイスについては、電子デバイスや非線形光学現象に基づく種々の提案がなされ実現されてきましたが一方で、テラヘルツ波の特徴を活かした応用(キラーアプリケーション)が中々具体的には示されていませんでした。

その未開拓の周波数帯域「テラヘルツ波(THz波)」を発生する研究が東北大学で行なわれ、1983年の本学西澤・須藤の先駆的な研究成果から始め、近年の可変波長レーザーの進展に相俟って本学伊藤弘昌教授らのグループにより2001年に発表され、それに引き続き本学西澤・須藤・田邉により広帯域・高強度連続周波数可変テラヘルツ光源(図3)が2002年に実現されました。それとは別に、西澤潤一教授の発明に係るタンネットダイオードデバイスは発振周波数が半導体デバイスとしては極めて高い700GHz(0.7THz)帯に突入し、0.06THzから0.7THzまでカバーするテラヘルツ小型光源デバイスとして用いる事が出来るようになりました(図4)。

【研究成果の詳細】

我々の研究グループはテラヘルツ光源開発及びそのための非線形光学結晶の結晶成長から行っております。各種レーザー励起光源や電子デバイス光源を自ら構成し、医薬品やタンパク質等の広範な有機物のテラヘルツデータベースの構築や、様々な有機・無機材料のテラヘルツ物性を収集そして解明してきました。それが本研究成果の基盤となっています。

今回、更に、小型テラヘルツ光源として独自に構成した種々の周波数を発生する半導体電子デバイス等を用い、独自のテラヘルツイメージング装置を設計しました。その上で、色々な材質が用いられる紙幣類や樹脂テープ類のテラヘルツ透過特性をデータベース化し、テラヘルツ光の反射特性を把握した上で、最適な撮像条件により、紙幣類に貼付されたごく薄いテープ(髪の毛の半分から1/4程度)を明瞭に可視化する事に成功しました。

このテラヘルツ光を使った新しい検査法によれば、世界中で日常的に行なわれている紙幣類の点検作業が大幅に効率化出来ます。現在の検査法では、接触式の段差計測が主要であるため、検出できるテープ類の厚さや検査速度に限界があり、また紙幣の損傷を招く場合も考えられます。しかし、今回開発されたテラヘルツ方式の検査法では、非接触で検査が可能であるため、検査の高速化が望めるとともに、損傷を与えることもありません。更に、従来の透過検査に用いられるエックス線やガンマー線等の放射線と違い、安全に非接触・非破壊で高効率な紙幣類の検査を実現する事が出来ると言えるでしょう。

【今後の展望】

実検査装置に必要な高速試験体検査設計を進め、さらに実検査に耐えうる装置構成に仕上げたいと考えております。更に本研究成果は、紙幣類検査分野のみならず、同様の各種有価証券などの紙葉類の非破壊検査に広く適用可能であるので、幅広く検査対象を広めていく予定です。そのために、未だ整備されていない各種無機・有機材料のテラヘルツ分光データベースの整備を進める必要があると考えております。

【お問い合わせ】
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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