垂直磁化型低抵抗強磁性トンネル接合素子(MTJ)の高出力化に成功

2016/08/19

東北大学の手束准教授(工学研究科知能デバイス材料学専攻・スピントロニクス学術連携研究センター)とキヤノンアネルバ(株)は、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)の大容量・高集積化に必要とされる垂直磁化型低抵抗強磁性トンネル接合素子(MTJ)の高出力化に成功しました。垂直磁化を強磁性電極に有する低抵抗な強磁性トンネル素子において、室温248%という高いトンネル磁気抵抗比を示し、トンネル磁気抵抗(TMR)比の印加電圧特性が良好であり、200mVを超える出力電圧を達成しました。

磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)は、DRAMに代わる不揮発性のワーキングメモリとして期待されています。大容量・高集積化のためには、高い出力電圧を示し、スピン注入磁化反転(STT)で書込みを行うことが求められ、そのためには、強磁性電極は垂直磁化を有し、かつ、低抵抗で高いTMR比を有することが求められています(垂直磁化型低抵抗MTJ)。つまり、次世代のSTT-MRAMには、垂直磁化型低抵抗MTJによる高出力電圧が要求されています。

今回、スパッタリング装置NC7900(図1)を用いて、MTJ(極薄MgO絶縁障壁層、CoPt垂直磁気異方性多層膜、および、MgO/CoFeB界面磁気異方性膜)を作製しました(図2)。W層の挿入により寄生抵抗を大きくすることなく垂直磁気異方性を向上させることができ、抵抗×面積=10Ωμm2の低抵抗素子において、TMR比248%、出力電圧200mV以上を達成しました(図3)。また、STTによる磁化反転も確認しています。これらの結果は、現在のDRAM等に匹敵するSTT-MRAMの開発を期待させるものです。

本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費補助金の助成を受けて行われました。


  • 図1 MTJ多層膜成膜装置:NC7900

  • 図2 MTJの構造

  • 図3 出力電圧の印加電圧依存性
【用語説明】
  • MRAM:不揮発性磁気メモリ。MR素子を使って、記録、読出しを行うランダムアクセスメモリです。電源を切っても記録状態は保持されます。
  • STT-MRAM: 磁性層の磁化反転にスピン注入磁化反転を利用した次世代のMRAMです。 垂直磁化型: 磁性膜に対して垂直方向に磁化させた記録方式です。垂直磁化型に対し、磁性膜に水平に磁化させた記録方式を面内磁化型と言います
  • 強磁性トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction:MTJ): Tunnel Magneto-Resistance (TMR) 効果によって電気抵抗が変化する素子です。
  • MR 比: 磁気抵抗比。電気抵抗の変化率を意味します。この値が高いほどMRAM の大容量化に有利と言われています。トンネル抵抗を用いたものをTMR比と呼びます。
【問い合わせ先】
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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