デジタルテレビジョン放送の空き周波数帯域(TVホワイトスペース)を選択して 無線通信するためのワンチップ可変SAWフィルタを開発 ~ 周波数資源不足の切り札となるコグニティブ無線通信端末を 実現するためのキーデバイス ~(バイオロボティクス専攻 田中秀治 教授)

2014/02/24

東北大学は,村田製作所,情報通信研究機構(NICT),および千葉大学と共同で,デジタルテレビジョン放送の空き周波数帯域(TVホワイトスペー ス)を選んで無線通信するためのワンチップ可変表面弾性波(surface acoustic wave,SAW)フィルタを世界で初めて開発し,NICTが開発してきたTVホワイトスペース対応のコグニティブ無線機に搭載して,通信デモンストレー ションに成功しました。TVホワイトスペースの利用にあたっては,空き周波数帯域を選択するためのフィルタの小形化が課題でしたが,今回開発したワンチッ プ可変SAWフィルタは,TVホワイトスペースを利用する無線通信システムを携帯電話やスマートフォンなどで利用することに道をひらきます。

スマートフォンやモバイルWi-Fiルータが普及し,無線通信トラフィックは年率2倍程度の勢いで増えています。今後,動画視聴の増加,多様なアプ リケーションソフトウェアの利用,さらにはクラウドコンピューティングの拡大,膨大な数の無線センサが世界を覆うセンサネットワークの普及などによって, 無線通信トラフィックはさらに増えると予想されています。一方,移動体通信に適したおおよそ200 MHzから6 GHzまでの周波数範囲で,移動体通信に新たな周波数帯域を割り当てることは難しいのが現状です。

このような問題を解決するために,世界中でTVホワイトスペースの利用が検討されています。我が国では,デジタルテレビジョン放送は470 MHzから710 MHzの周波数範囲を利用し,帯域幅6 MHzのチャネルが40チャネル,割り当てられています。しかし,たとえば仙台地域では,そのうちの6チャネルが使われているに過ぎません。それ以外の使 用されていない周波数帯域,つまりTVホワイトスペースを他の通信システムで利用することができれば,限られた周波数資源をより効率的に使用できます。そ のため,TVホワイトスペースを利用する様々な通信システムの国際標準化が進められており,たとえば,Wi-FiシステムでTVホワイトスペースを利用す るために,IEEE 801.11afの仕様策定が進められています。また,TVホワイトスペースを他の通信システムで利用するにあたって,テレビジョン放送を保護するための 運用ルールの策定が各国で進んでいます。

TVホワイトスペースの利用では,地域や時間帯によって空いている周波数帯域が異なるため,状況に応じて利用する周波数帯域を選択しなくてはなりま せん。従来,携帯型無線情報端末の周波数選択には,SAWフィルタや薄膜バルク弾性波共振子(film bulk acoustic resonator,FBAR)フィルタが使われてきました。これらのバンドパス特性は固定ですが,既存の通信システムでは,限られた数の割り当てられた 周波数帯域を選択すればよいため,それぞれに対応するフィルタが搭載されていました。しかし,TVホワイトスペースを利用する通信システムでは,状況に よって使用できるチャネルが異なるため,チャネル数分の送受信フィルタとそれらを切替えるためのスイッチを準備する必要があり,システムの小形化と低コス ト化は難しいと考えられてきました。

今回,本学工学研究科の田中 秀治 教授を中心とするグループは,SAWフィルタ上に薄膜可変容量をモノリシックに集積化し,バンドパス特性を変化させられるSAWフィルタ(可変SAWフィ ルタ)のワンチップ化に成功しました。薄膜可変容量は,電界によって誘電率が変化するチタン酸バリウムストロンチウム(barium strontium titanate,BST)でできており,10個のSAW共振子それぞれに直列または並列に接続されています。薄膜可変容量の静電容量を変化させる と,SAWフィルタのバンドパス特性が変化します。回路設計は千葉大学工学部電気電子工学科・橋本 研也 教授が担当しました。この可変フィルタを実現するにあたり,以下に説明する新開発のヘテロ集積化技術が利用されています。

  • BST薄膜は,良好な誘電率可変特性を実現するために,600℃程度の高温で形成しなくてはなりません。一方,SAW フィルタを形成するタンタル酸リチウム(LT)基板は熱に弱く,高温にさらすと特性が劣化します。したがって,BST薄膜可変容量とLT上SAWフィルタ とをモノリシックに集積化することは困難です。
  • そこで,BST薄膜をサファイア基板に高温で形成し,可変容量の形にパターニングした後,SAW共振子を形成したLT基板に転写します。続いて,SAW共振子とBST薄膜とを薄膜配線で繋ぎ,可変SAWフィルタを構成します(図1)。
  • BST薄膜をサファイア基板からLT基板に転写するため,レーザー支援剥離技術を新たに開発しました。BST薄膜にサ ファイア基板側からレーザーを照射し,下地である白金薄膜との間の密着力を弱めることで,前記サファイア基板とLT基板とをBST/白金/金薄膜を介して 接合し,分離すると,BST薄膜がLT基板に移ります。

試作したワンチップ可変SAWフィルタ(図2)を,NICTワイヤレスネットワーク研究所スマートワイヤレス研究室(原田 博司 室長)が開発したIEEE 802.11af暫定仕様に準拠したコグニティブ無線機に搭載して,通信デモンストレーションに成功しました。今回開発した技術は,TVホワイトスペース を利用する通信システムの小形化に貢献でき,携帯型無線通信端末への応用が期待されます。

 

この研究成果は,内閣府の最先端研究開発支援プログラム(題名:「マイクロシステム融合研究開発」,中心研究者:東北大学・江刺 正喜 教授)の一環として得られたものです。試作したワンチップ可変SAWフィルタとそれを搭載した通信デモンストレーション用システムは,同プログラムの成果 を公開するFIRST EXPO 2014(2月28日~3月1日,ベルサール新宿グランド,http://first-pg.jp/expo2014/)において展示されます。

 
図1 ヘテロ集積化によるワンチップ・可変SAWフィルタの作製法
 
図2 実装済みのワンチップ・可変SAWフィルタ(左)とその断面構造(右)
 
 
【お問合せ】
東北大学工学研究科・工学部情報広報室
TEL/ FAX:022-795-5898
E-mail:eng-pr@eng.tohoku.ac.jp
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