糖アルコールからオレフィンを合成する触媒の開発

2016/08/26

工学研究科の中川善直准教授、冨重圭一教授らの研究グループは、バイオマスから生産される糖アルコールを水素還元し、炭素-炭素二重結合を含む化学原料に高収率で変換する高性能な触媒を開発しました。バイオマス由来の化成品創出により二酸化炭素排出削減に貢献することが期待されます。

開発した触媒は、酸化セリウムに金とレニウムを担持したもので、グリセリンからはファインケミカル原料として重要なアリルアルコールを、エリスリトールからは合成ゴム原料として重要なブタジエンを合成できます。還元剤として安価な水素を使用し、触媒は固体で生成物との分離が容易であり、また活性低下なく再利用も可能です。この成果は2016年8月23日付で米国化学会発行の学術雑誌ACS Catalysis(注1)電子版に掲載されました。本研究は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業・先端的低炭素化技術開発(ALCA)課題「微生物変換と触媒技術を融合した一環工業プロセス」(研究代表:株式会社ダイセル・新井隆)の一部として行われました。

(注1)ACS Catalysis:触媒分野の最有力誌の一つ。2015年のImpact Factorは触媒分野学術誌で最高の9.307。

ACS Catalysis
http://pubs.acs.org/journal/accacs
論文DOI: 10.1021/acscatal.6b01864
1.背景

石油の枯渇と二酸化炭素排出削減の観点から、バイオマスによる石油代替が注目されています。特に、付加価値の高い化成品が最終製品の場合は、経済的に実用化へのハードルが低く、二酸化炭素排出削減に大きく貢献することが期待されます。我が国では、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業・先端的低炭素化技術開発(ALCA)に特別重点技術領域「ホワイトバイオテクノロジー」を設定し、バイオマス由来の化成品製造の技術開発を推進しています。株式会社ダイセルと東北大学は、日本大学・株式会社ちとせ研究所とともに、微生物変換と触媒技術を融合して化成品を製造する工業プロセスの構築を目指し、本領域に参画しています。

バイオマスから誘導される化合物は、グリセリンなど糖アルコールを代表に水酸基を多数含むものが多いのに対し、石油化学において重要な化学原料はブタジエンを代表に炭素-炭素二重結合を含むものが多いため、水酸基の炭素-炭素二重結合への変換はバイオマスの化学原料への利用における鍵技術と言えます。

今回の反応系ではグリセリンとエリスリトールを変換します。グリセリンはバイオディーゼル燃料の副産物として大量に得られ、かつ現状相当量が廃棄されている物質です。エリスリトールは発酵により得られる炭素数4の糖アルコールで、現在甘味料として用いられています。エリスリトールの製造については参画しているALCA課題において高効率化研究を実施しており、低コスト化が見込まれています。合成ターゲットであるアリルアルコールとブタジエンは、いずれも石油化学にて合成・使用されているきわめて重要な化学原料です。グリセリンおよびエリスリトールからアリルアルコールおよびブタジエンの合成は、隣接する水酸基を除去して同時に炭素-炭素二重結合を生成する反応で、有機化学の基本反応の一つジヒドロキシル化の逆反応にあたり、均一系レニウム触媒を用いた反応系が報告されていました。しかし、既報の逆ジヒドロキシル化の反応系は還元剤として水素を用いることができず、より高価な他の還元剤を必要としていて、工業的に魅力的な反応系ではありませんでした。

2.研究成果概要および本成果の意義

 今回開発した反応系では、主たる活性金属であるレニウムと添加剤である金を酸化セリウムに担持した触媒を用います。レニウムは原子レベルで高分散に担持され、金はナノメートルサイズの微粒子として担持されています。金の粒子サイズの制御は重要で、金触媒としてよく使われる3ナノメートル以下の超微粒子ではかえって副反応が増加し、10ナノメートル程度と金触媒としては大きな粒子の方がよい結果を得ました。この触媒をグリセリンまたはエリスリトールの1,4-ジオキサン溶液に加え、80気圧の水素で加圧して140 ℃で反応させ、アリルアルコールを収率91%、またはブタジエンを83%の収率で得ました。1回の反応での触媒回転数(生成物と触媒のモル比)は300に達し、また使用後の触媒は、濾過により回収後、300℃の焼成による再生処理を施すことで活性低下なく再使用が可能でした。既存の逆ジヒドロキシル化触媒は収率の点では同程度のものも報告されていますが、ほとんどが回収の難しい均一系触媒であり、また全て触媒回転数も60以下(グリセリン基質について)と少なく、さらに3-オクタノールやトリフェニルホスフィンといった水素より遙かに高価な還元剤を用いるものでした。活性点であるレニウムが高分散に酸化セリウム上に担持されていることと、添加剤の金が効率的に還元剤の水素を活性化し、かつ金が他の貴金属と異なり生成物中の炭素-炭素二重結合の水素化等の副反応を起こさないことが、本触媒で高性能を得た要因と考えられます。

本研究によるバイオマス由来化合物の変換は、グリセリンからアリルアルコール、およびエリスリトールからブタジエンへの変換として工業的な実用可能性のあるはじめての報告となります。今後共同研究先でありかつALCA課題の研究代表である株式会社ダイセルと協力し、工業化に向けた研究を続けていきます。

【お問い合わせ先】
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
ニュース

ニュース

ページの先頭へ