東北大学工学研究科・工学部
過去ニュース一覧

NEWS

2011/07/01

金属フロンティア工学専攻の大森俊洋助教、貝沼亮介教授、石田清仁名誉教授らの研究グループは、変形強度の温度依存性が極めて小さい鉄系超弾性合金(形状記憶合金)の開発に成功しました。

東北大学大学院工学研究科金属フロンティア工学専攻の大森俊洋助教、貝沼亮介教授、石田清仁名誉教授らの研究グループは、変形強度の温度依存性が極めて小さい鉄系超弾性合金(形状記憶合金)の開発に成功しました。
開発したFe-Mn-Al-Ni合金は強度の温度依存性が極めて小さく、-200℃から150℃までの広い温度範囲において超弾性特性が利用できる特徴があります。自動車部品や宇宙材料をはじめとする工業製品などへの応用が期待できるほか、安価な材料からなり加工が容易なため、建築用制震部材などの大型部材としての利用も期待できます。

1.研究の背景

形状記憶合金には、材料を変形しそれを加熱すると元の形に戻る形状記憶効果の他に、大きく変形させても変形力を除くと元の形に戻る超弾性と呼ばれる性質があります。この特性を利用して、工業、医学等、種々の分野への実用化が盛んに進められています。現在、実用的に利用されている超弾性合金は、材料特性に優れたニチノール(Ni-Ti合金)がその殆どを占めています。しかし、ニチノールは冷間加工が難しく、素材や製造コストが高くなる点がその適用拡大への障害となっています。また、超弾性合金は温度が高くなると強度が高くなる性質があり、機械的性質が温度に左右されやすい上に、超弾性を発現できる温度範囲に制約がありました。

2.研究成果概要および本成果の意義

今回開発された鉄系合金は、Fe、Mn、Al、Niを主成分とする新型形状記憶合金です。この合金では従来研究が行われてきた鉄合金とは逆の結晶構造変化を示すことを発見し、これを利用することで超弾性を得ることに成功しました。

さらに、熱力学解析に基づいて材料設計を行うことで、超弾性合金における変形強度(超弾性応力)の温度依存性が極めて小さくなる性質を見出しました(図1)。この温度依存性は0.5MPa/℃と極めて小さく、実用材料であるニチノールの約10分の1です。また、ニチノールでは、材料組成を変化させても実用的に超弾性を利用できる温度範囲はおおよそ-20℃〜80℃に限られていました。Fe-Mn-Al-Ni合金では、ひとつの材料で約-200℃〜150℃の温度範囲で比較的安定的に超弾性を利用できます(図2)。そのため、温度変化に曝される環境、例えば、宇宙空間での利用や自動車用途にも適していると考えられます。

Fe-Mn-Al-Ni合金は安価な鉄をベースとし、高価な元素を含まない上、優れた加工性を有しているため板や線などへの加工が容易で、コストを大幅に低減させることが期待できます。そのため、建造物の制震構造への適用など、大型部材での利用可能性をも開くものです。

この成果は2011年7月1日付の米科学誌サイエンスに掲載されます。

図1. 開発材料と既存超弾性合金における超弾性応力(変形に必要な力)の温度依存性. Fe-Mn-Al-Ni合金では-196℃〜240℃の温度範囲で測定.
※画像クリックで拡大表示
図2. 超弾性が安定的に発現する温度範囲と利用分野に求められる温度範囲
※画像クリックで拡大表示

3.今後の展望

今後、東北大学では、温度依存性の小さい新しい鉄系超弾性合金の数年内の実用化に向け、量産技術確立のために素材メーカーとの連携を進めて行きたいと考えています。また、建築、自動車、航空宇宙をはじめとする工業部材やその他分野において、ニーズを有する企業との意見交換や共同研究を提案します。

4.本プレス発表の内容についての問い合わせ先

東北大学大学院工学研究科 助教 大森 俊洋
TEL 022-795-7323
FAX 022-795-7323
E-mail omori◎material.tohoku.ac.jp(◎は@に置き換えてください。)

【お問合せ】

東北大学工学研究科・工学部情報広報室
TEL/ FAX:022-795-5898
E-mail:eng-pr@eng.tohoku.ac.jp

このページの先頭へ