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低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 ―フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子としての応用が期待―

2018/01/05

【発表のポイント】
  • 従来材料では210Kが最低温度であった超弾性注1に付随する冷却効果(弾性熱量効果注2)が、Cu-Al-Mn系超弾性合金において22Kまで得られることを確認。
  • フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子として、超電導デバイスや液化ガス用の冷凍機等への応用が期待。
【概要】

東北大学大学院工学研究科の新津甲大博士(現・京都大学材料工学専攻)、貝沼亮介教授(金属フロンティア工学専攻)の研究グループは,銅を主成分とする超弾性合金を用いて、極低温環境での超弾性効果による大きな冷却効果(弾性熱量効果)を実現しました。

一般に材料は低温になるほど固くなり、伸縮性を失います(低温脆化)。これに対し本研究グループでは、形状記憶合金にみられる『大きく変形させる力を除くと元の形に戻る性質(超弾性)』を活用することで、極低温(4.2K)まで約7%もの伸縮が可能な銅合金(以下,Cu-Al-Mn合金)を開発していました(図1)。

プレスリリース:
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2014/01/press20140121-01.html

今回、この伸縮時に得られる冷却効果(弾性熱量効果)を評価し、22Kまで冷却効果が得られることを明らかにしました(図2)。これまで報告されている超弾性合金における弾性熱量効果発現の最低温度は210Kであることから、応用可能な温度幅を大幅に拡げる成果となります。この成果により、超弾性合金の低温域におけるアクチュエータや冷却ユニットとしての応用や、超伝導・液化ガス・宇宙工学分野での応用が期待できます。

弾性熱量効果とは、応力の印加・除荷に応じて結晶構造や磁気構造が変化する変態(一次変態)において、変態前後でのエントロピーの差に相当する発熱や吸熱が起こる効果です。断熱環境下で変形させることによりこの効果を利用した冷却が可能になる(図3)ことから、フロンガスを用いた従来の冷却手法に代わる技術として注目を集めています。しかし、低温では一次変態時の摩擦発熱が相対的に大きくなるため、この効果を用いた冷却技術は実現困難と考えられてきました。今回開発したCu-Al-Mn合金は、摩擦発熱が極低温でも非常に小さいことが特長であり、例えば10Kにおいては医療分野で広く利用されているニッケル-チタン超弾性合金(以下,Ti-Ni合金)の2%以下にまで低減されていることがわかりました。この結果、22Kという非常に低い温度まで冷却効果を得ることが可能になりました。

この研究成果は,2018年1月5日(英国時間)に英国科学雑誌「NPG Asia Materials」でオンライン公開されます。

【参考図】

図1:今回開発したCu-Al-Mn合金の低温域(4.2K~160K)における超弾性(応力:単位断面積あたりの荷重、歪:単位長さあたりの変形量)


図2:主な形状記憶合金の弾性熱量効果による断熱温度変化


図3:弾性熱量効果を用いた冷却技術の概略図
【発表論文】
タイトル:Cryogenic superelasticity with large elastocaloric effect
著者名:Kodai Niitsu, Yuta Kimura, Toshihiro Omori, Ryosuke Kainuma
掲載誌:NPG Asia Materials (2018) 10, e457
doi:10.1038/am.2017.213
【研究の背景】

形状記憶効果注3と超弾性効果を示す形状記憶合金は、主にアクチュエータや医療機器として応用されています。これらは室温以上での用途がほとんどであり、低温ではあまり応用されてきませんでした。他方で、低温ではゴムなどの高分子だけでなく金属もしなやかさを失い破断しやすくなります(低温脆化)。形状記憶合金の持つ超弾性効果は、結晶構造の変化によって大きな回復歪を生み出すことを可能にすることから、低温環境下でもしなやかさを失わない材料としての応用が可能であると考えました。2014年には本研究グループにて、4.2Kまでの極低温域まで超弾性が可能なCu-Al-Mn合金を開発しました。超弾性合金は、変形するときの荷重は除荷するときの荷重より高い特徴があります(図1)が、この合金では極低温でも荷重差がほとんど増大せず、良好な超弾性を得ることができました。

また近年、超弾性に伴う熱の移動を活用した新しい冷却現象(弾性熱量効果)が、フロンガスを用いた従来の冷却手法に代わる技術として注目を集めています。この効果の大きさは、超弾性時の構造変化に伴う潜熱による冷却効果と変形摩擦による発熱効果のバランスによって評価されます。今回、極低温域での弾性熱量効果の大きさを、Cu-Al-Mn合金やTi-Ni合金、磁場による形状記憶効果が可能なニッケル系ホイスラー形状記憶合金(以下,Ni基ホイスラー合金)などに対し調査しました。

【本研究で得られた成果】

極低温での超弾性は、Cu-Al-Mn合金だけでなく、Ti-Ni合金やNi基ホイスラー合金でも発現可能です(図4)。しかし、Ti-Ni合金やNi基ホイスラー合金は低温になるほど超弾性に際しての応力ヒステリシスが大きくなる傾向があることがわかります(図4挿図)。これは大きな摩擦熱(発熱)を生じることになり、極低温環境では熱汚染につながることから、超弾性の発現が可能であっても優れた冷却効果を得ることは困難です。一方、今回開発したCu-Al-Mn合金は4.2Kに至るまで非常に小さい応力ヒステリシスを示すことから、超弾性に際しての発熱が非常に小さいことが分かりました。このような発熱の影響は、例えば10KにおいてはTi-Ni合金の場合の2%以下にまで低減されている計算になります。この結果、弾性熱量効果により冷却効果が得られる最低温度は22Kと見積もられました(図2)。従来報告されている応用可能温度は210Kが最低であったことから、実に188Kも応用可能温度を低温側に拡大させたことになります。

本研究成果により、Cu-Al-Mn合金の極低温域での超弾性応用へ大きく前進したばかりでなく、MEMS注4の冷却ユニットへの実装など冷却機構としての応用可能性も期待されます。また、本合金は約370Kまで同様の特性を保持できることから、温度変化の激しい宇宙空間などでの応用も期待できます(図5)。


図4:主な形状記憶合金の60Kにおける超弾性(挿図:応力ヒステリシスの温度依存性)


図5:主な形状記憶合金と弾性熱量効果応用例の使用温度域
【研究プロジェクト】

本研究は,独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助金により実施されました。

【用語の説明】

注1) 超弾性
最大10%程度の極めて大きなひずみ(変形)を与えても,荷重を除くだけでひずみが0に戻る(変形が回復する)特性。通常の金属の弾性では,最大1%程度しかひずみが回復しない。なお,形状記憶合金は成分比などに応じて,変形が加熱で回復する形状記憶効果か,荷重を除くだけで変形が回復する超弾性特性のいずれかを持つ。

注2) 弾性熱量効果
応力の印加・除荷に応じて結晶構造や磁気構造等が急激に変化する(一次変態)際に、変態前後でのエントロピーの差に相当する発熱や吸熱が起こる効果。断熱環境下で変形させることによりこの効果を利用した熱交換が可能になる。

注3) 形状記憶効果
通常であれば塑性変形してしまうような大きな変形(最大10%程度)を加えても、加熱すると、変形前の形状に復元する効果。通常の金属では,最大1%程度しかひずみが回復しない。

注4) MEMS
Micro Electro Mechanical Systems(微小電気機械システム)の略称。機械要素部品、センサ、アクチュエータ、電子回路等を微細加工技術によって集積化したデバイスを指す。

【お問合せ先】
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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