花色を生み出す酵素複合体

2018/03/29

【概要】

東北大学大学院工学研究科の中山 亨 教授,高橋 征司 准教授,和氣 駿之 助教(バイオ工学専攻応用生命化学講座)は,金沢大学(山下 哲 准教授),静岡大学(本橋 令子 副学長),オーボアカデミ大学(Konstantin Denessiouk博士,フィンランド),サントリー(田中 良和 博士)との共同研究により,多彩な花色で知られるキンギョソウやトレニアの花色発現に関わる酵素群が花弁細胞内でユニークな複合体(メタボロン(注1))を形成していることを明らかにしました。花色発現に関わるメタボロンが実証されたのは初めてのことであり,得られた知見は代謝工学(注2)の進展にも大きく貢献するものとして注目されます。この共同研究の成果は3月23日付の専門誌「ザ プラント ジャーナル」(電子版)に掲載されました。

【詳細な説明】

キンギョソウは南欧原産で,その花弁の独特なかたちとともに,赤,クリムゾン,オレンジ,ピンク,黄色,白などの多彩な色調によって鑑賞花として世界中で愛され,またエディブルフラワー(食べられる花)として私たちの食卓にも彩りを添えています。このキンギョソウの多彩な花色のおもな原因は,花弁に含まれるフラボノイド(注3)と呼ばれる植物適応代謝物の一群です。植物におけるフラボノイドの生合成やその調節の仕組みは,遺伝子レベルではかなりの部分が明らかになってきましたが,そのタンパク質レベルでの詳細——例えば,どの酵素が花弁細胞内のどの場所でどのように働くことによりフラボノイドが生成するのか——はほとんど明らかにされていませんでした。同研究グループは,キンギョソウのフラボノイドの生成に関わる酵素の細胞内局在性や酵素どうしの結合をひとつひとつ丁寧に調べ,そのデータを花弁中の酵素遺伝子発現やフラボノイド色素の蓄積のパターンと照合しました。その結果,花弁の赤色の原因となるフラボノイド(アントシアニン)の生合成を司る酵素群は,フラボン合成酵素という別のフラボノイドの生成に関わる酵素を足場にして,細胞内の小胞体という細胞小器官(注4)上に集合し,複合体(フラボノイドメタボロン)を形成することを明らかにしました。そして,キンギョソウの花色発現プロセスが,フラボノイドメタボロンの形成様式の変化で合理的に説明できることを示しました。フラボノイドの生合成に関わるこうした酵素群のメタボロン形成様式は,同じシソ目の花であるトレニアではよく似ていましたが,シロイヌナズナ(アブラナ目)やダイズ(マメ目)のものとは異なっており,フラボノイドの構造が植物種によって多様であることをメタボロン形成様式の多様性の上からも裏づけるものとなりました。また今回の発見は,近年活発化している代謝工学研究において,こうしたメタボロン形成を考慮して代謝経路を設計することの必要性を裏づける実例としても注目されます。



図.フラボノイド合成に関わる酵素どうしの結合様式。
背景の写真はキンギョソウ花弁で,ピンク色はアントシアニン,黄色はオーロンというフラボノイドにそれぞれ起因する。
【用語解説】

注1 メタボロン
生命現象は,生体内でおびただしい数の化学反応が起こることによって成り立っている。これらの化学反応はほとんどの場合,ある反応の生成物が次の反応の基質になり,その反応生成物がその次の反応の基質になるというように,連続した反応経路を形成している。こうした生体内の反応経路のことを代謝または代謝経路と呼ぶ。代謝経路を構成する反応の一つ一つはそれぞれ,反応加速作用をもつ「酵素」というタンパク質のはたらきによって円滑に進行し,反応が異なれば担当する酵素も異なる。40年ほど前から,代謝経路を構成する酵素群は細胞内ではお互いにゆるく結合しながら複合体を形成しているのではないかと推定されてきた。この酵素複合体のことをメタボロンという。メタボロンを形成することにより,例えば不安定な代謝中間体を速やかに次の酵素に受け渡せたり,有毒な代謝中間体を細胞内に拡散させることなく即座に次の酵素反応に提供することができたりするなど,代謝を進める上で様々な利点があると考えられている。しかしながら多くの場合,メタボロン形成のもととなる結合力は弱く可逆的であり,検出の困難さもあってメタボロンの存在の実証には至らなかった。

注2 代謝工学
遺伝子組換え技術などを用いて,生物の細胞内に代謝経路を人為的に改変または構築し,特定の代謝産物を量産化したり生産を制御したりすることを目的とする学問。

注3 フラボノイド
コケ植物以上の高等植物がつくる,C6–C3–C6の基本構造をもつ化合物群。花色の赤・青・紫はほとんどの場合,アントシアニンという種類のフラボノイドに起因し,またキンギョソウやコスモスなどいくつかの花の黄色い花色はオーロンというフラボノイドに起因する。フラボノイドは植物において,花色発現を介して植物の生殖に関わるばかりでなく,病害虫や環境変化に対する応答機構や微生物との共生関係の樹立に関わるなど植物の生存に不可欠の役割を果たしている。フラボノイドはまた,これを摂取したヒトに対しても,動脈硬化予防効果や発がん抑制効果などの健康に好ましい効果を示すことが知られている。

注4 細胞小器官
特定の機能を受け持つ,膜で囲まれた細胞内構造物のことで,オルガネラともいう。小胞体は一重の脂質2重層で囲まれた細胞小器官で,タンパク質の合成や加工,脂質合成などを司る。本研究では,小胞体がフラボノイドメタボロンの足場となっていることが示された。

【論文情報】
Fujino, Naoto; Tenma, Natsuki; Waki, Toshiyuki; Ito, Keisuke; Komatsuzaki, Yuki; Sugiyama, Keigo; Yamazaki, Tatsuya; Yoshida, Saori; Hatayama, Masayoshi; Yamashita, Satoshi; Tanaka, Yoshikazu; Motohashi, Reiko; Denessiouk, Konstantin; Takahashi, Seiji; Nakayama, Toru
Physical interactions among flavonoid enzymes in snapdragon and torenia reveal the diversity in the flavonoid metabolon organization of different plant species.
The Plant Journal 2018; 94:2 doi: 10.1111/tpj.13864
【お問合せ先】
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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