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長距離核スピン偏極の観測に成功 ~半導体チャネルを用いたスピン流デバイス実現へ大きな前進~

2018/04/20

【発表のポイント】
  • スピン注入素子において長距離にわたる核スピン偏極を観測
  • 多端子スピン検出電極を用いることで、核スピンの空間的な広がりを検出
  • 半導体をチャネルとしたスピン流デバイスの開発に大きく貢献
【概要】

塩貝 純一(東北大学金属材料研究所 助教)、好田 誠(東北大学工学研究科 准教授)、新田 淳作(同教授)らの研究グループは、野島 勉(東北大学金属材料研究所 准教授)、Dieter Weiss(ドイツ・レーゲンスブルク大学 教授)の研究グループと共同で、強磁性半導体(Ga,Mn)Asを用いた横型スピン注入素子において、弱磁場下で半導体GaAsチャネル中の核スピン偏極を観測することに成功し、核スピンが20 μmの長距離にわたって偏極していることを明らかにしました。核スピンは電子スピンに比べて、その情報を長時間保持することが知られているため、本研究成果は、半導体を用いたスピンデバイスの研究開発に大きく貢献すると期待されます。

本成果は、2018年3月27日に米国科学誌「Applied Physics Letters」にオンラインで公開され、「Editor’s pick」(編集部による注目論文)に選ばれました。なお、本研究は、独立行政法人日本学術振興会 科学研究費助成事業の助成を受けて行われました。

【研究背景】

近年、電子の持つ「電荷」と「スピン」の2つの自由度を電気的に操作することにより、新しい機能を備えたスピントロニクスデバイスの開発が精力的に行われています。中でも、GaAsをはじめとするIII-V族半導体は、電子スピンのゲート電界制御が可能であり、かつ直接遷移型のエネルギーギャップを有することから、スピントランジスタのチャネル材料やスピン発光ダイオードの候補物質として注目されています。これらの物質においては、GaとAs原子が有限の核スピンを有するため、電子スピンとのフリップフロップ過程で核スピンが偏極すると、最大で数テスラに及ぶ核磁場を生み出します。これが電子スピンの寿命を大きく変調させることになります。よって核磁場とスピン流の相互作用を直接観測しその機構を理解することは、半導体を用いたスピン流デバイス研究開発において重要な課題となっています。

これまで、GaAsを母物質とした薄膜素子では、強磁場下での量子ホール状態や円偏光スピン発光ダイオード素子において、核スピン偏極が調べられてきましたが、スピントランジスタの基本構成要素である微小な横型スピン注入素子のチャネル中における核スピン偏極の空間的な広がりとスピン流に及ぼす影響に関する知見はありませんでした。

【研究成果】

図1に本研究で作製した横型スピン注入素子を示します。スピン検出端子を複数配置しているため、磁気抵抗効果から電子スピンの偏極率の距離依存性を測定することができ、核スピン偏極率やその空間分布をスピン電圧として読み出すことが可能です。

図2に検出端子における磁気抵抗測定の結果を示します。電子スピン蓄積を示すゼロ磁場付近のピークに加えて、核スピン偏極を示すサテライトピーク(逆三角)が観測されました。このサテライトピークが観測される磁場の値が、スピン流が感じる核磁場の値に相当します。スピン注入端子から20 μm離れた検出端子においてもサテライトピークが観測されていることから、スピン注入源から20 μmの長距離まで核スピンが偏極していると考えられます。また、注入端子から離れるに従い、サテライトピークが弱磁場側にシフトしており、核スピン偏極率(スピン流が感じる核磁場)がスピン流の伝搬に伴って小さくなっていることが分かります。

本研究結果は、半導体横型チャネルにおいて、スピン流と核スピンの相間を明らかにした初めての結果となります。核スピンは電子スピンと比較して、スピンの情報を長時間にわたり保持できることから、量子情報におけるメモリの役割が期待されています。本研究では、微小なスピン注入素子を用いることで、これまでの量子ホール系やスピン光学素子と比較して、比較的弱磁場かつ電気的に核スピン偏極とその検出に成功しました。これによって、スピン流を用いたスピン情報の書き込み・読み出しの基盤技術が確立できたと言えます。

本研究で得られたスピン流と核スピンの相互作用に関する知見は、将来の半導体スピントロニクスデバイスへの応用が期待されます。

論文情報
雑誌名・号・ページ:Applied Physics Letters 112, 132403 (2018)
論文タイトル:Spatial variation of dynamic nuclear spin polarization probed by the non-local Hanle effect
著者:J. Shiogai, M. Ciorga, M. Utz, D. Schuh, M. Kohda, D. Bougeard, T. Nojima, D. Weiss, and J. Nitta
URL:https://aip.scitation.org/doi/10.1063/1.5020314
DOI:10.1063/1.5020314
【お問い合わせ】
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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