金属製積層造形材の疲労強度を1.6倍に向上 - 泡による衝撃力を用いた圧縮残留応力の導入と砥粒による平滑化を併用 -

2019/02/08

【発表のポイント】
  • 金属製積層造形材は,材料の金属粒子に起因した表面粗さのために,疲労強度が極端に小さいという弱点がありましたが,新規に開発した表面改質法により,金属製積層造形材の疲労強度を66%向上できることを実証しました。
  • 開発した表面改質法は,キャビテーション注1という泡を使って金属をたたいて圧縮の残留応力を付与すると同時に,砥粒の衝突作用により表面粗さを低減する手法です。
  • 水中ウォータージェットを用いた加工なので,曲面や複雑形状も加工できます。
  • 超音波ではなく,ノズルを使ってキャビテーションを発生させるので,効率よくキャビテーションを発生できます。
【発表概要】

航空機部品や生体用インプラントへの適用が望まれている金属製積層造形材は,材料の溶け残りなどのために表面粗さが著しく大きく,バルク材に比べて疲労強度が極端に小さい,という弱点があります。金属製積層造形材の実用化のためには,表面を平滑化して疲労強度を向上し,かつ,複雑形状に適用可能な表面改質法の構築が望まれています。

東北大学大学院工学研究科ファインメカニクス専攻の祖山均 教授とボーイング社のDaniel Sanders氏らからなる研究チームは,水中に砥粒を混濁させてウォータージェットを噴射する表面改質法を考案し,金属製積層造形材の疲労強度を66%向上できることを実証しました。本表面改質法は,水中ウォータージェットにより発生させたキャビテーション気泡の気泡崩壊時の衝撃力を用いて積層造形材に圧縮の残留応力を導入すると同時に,砥粒の削食効果により金属積層造形材の表面粗さを低減させる方法です。

本研究成果は,最先端の航空機材料および加工法が発表されるASM International (American Society for Metals)主催のAERO MAT 2019(2019年5月6日~8日,リノ,アメリカ)において発表されます。なお,本研究の一部は,科学研究費補助金の助成を受けて行われました。
https://asm.confex.com/asm/aero19/webprogram/Session9023.html

【発表内容】

[研究内容]
従来の機械加工にとらわれない形状設計が可能である,CADデータを用いて直接的に製作可能である,切削による材料の廃棄率が少ない,などの利点から,金属製積層造形材の航空機部品や生体用インプラントへの適用が検討されています。しかしながら,造形材の表面には材料の金属粒子の溶け残りが残存して表面粗さが著しく大きいために,金属製積層造形材の疲労強度がバルク材に比べて極端に小さいという弱点があります。フライス盤や旋盤などの機械加工によって表面を平滑化すれば,疲労強度を向上できることが分かっていますが,それでは積層造形のメリットを活かせません。そこで,積層造形材の表面粗さを低減して疲労強度を向上でき,かつ,複雑形状に対応可能な表面改質法が望まれています。

一方で,これまでに祖山教授らは,水中にウォータージェットを噴射して発生させたキャビテーションの気泡崩壊時の衝撃力を用いて,金属製部品の表面をたたいて加工硬化や圧縮残留応力の導入をもたらし,金属製部品の疲労強度を向上できることを実証してきました。そこで,祖山教授らは,このキャビテーションを活用した,金属製積層造形材の疲労強度向上に応用する表面改質法を開発しました。

[研究内容]
本研究では,金属製積層造形材の疲労強度を向上できる表面改質法の構築を目的として,電子ビーム積層造形で作製したチタン合金Ti6Al4Vを対象として研究を実施しました。本表面改質法は,砥粒を混濁させた水中にウォータージェットを噴射してキャビテーションを発生させ,このキャビテーションにより金属製積層造形材に圧縮残留応力を導入すると同時に,砥粒の衝突による削食作用により金属製積層造形材の表面粗さを低減する加工です(図1)。本表面改質法により,電子ビーム積層造形で製作したチタン合金の107回における疲労強度を66%向上させることに成功しました(図2)。

[社会的意義・今後の予定]
本研究により,砥粒を混濁した水中ウォータージェットを用いた本表面改質法が金属製積層造形材の疲労強度向上に応用できること明らかにしました。本表面改質法は,化学研磨と異なり,薬品を用いることなく水と砥粒を使用する点で安全性が高い加工です。

【発表会議】
会議名:AERO MAT 2019(2019年5月6日~8日,リノ,アメリカ)
発表タイトル:Use of an Abrasive Water Cavitating Jet and Peening Process to Improve the Fatigue Strength of Titanium Alloy 6A-l4V Manufactured by the Electron Beam Powder Bed Melting (EBPB) Additive Manufacturing (AM) Method
URL:https://www.asminternational.org/web/aeromat-2019/home
https://asm.confex.com/asm/aero19/webprogram/Session9023.html
【発表者】
Daniel Sanders (Boeing Research & Technology, The Boeing Company, Senior Technical Fellow)
祖山 均(東北大学 大学院工学研究科 ファインメカニクス専攻 教授)
【用語解説】

注1 キャビテーション
液体が高速で流れる際に,圧力が低下して気体(泡)に相変化する現象。流速の低下により気体から液体に戻る気泡の圧潰時に衝撃力を発生。

【添付資料】


図1 電子ビーム積層造形で製作したチタン合金の表面の様相
砥粒を混濁した水中ウォータージェットを用いた加工により表面を平滑化できる。


図2 電子ビーム積層造形で製作したチタン合金の疲労強度向上
砥粒を混濁した水中ウォータージェットを用いた加工により,電子ビーム積層造形で製作したチタン合金の疲労強度を66%向上させることに成功した。
【お問合せ先】
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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