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高圧電源不要のイオン風による気流制御を原理実証 - 航空機や自動車の飛躍的燃費向上へ貢献 -

2019/04/10

【発表のポイント】
  • 高圧電源を必要としないイオン風を用いた気流制御装置の原理実証に成功
  • 駆動電圧を下げることで、装置の大幅な小型軽量化・低コスト化が可能となり、次世代気流制御システムの実用化に期待
  • 航空機や自動車の空気抵抗を減らし、飛躍的な燃費の向上へ貢献
【概要】

東北大学大学院工学研究科の佐藤慎太郎大学院生、小室淳史助教、大西直文教授らの研究グループは、イオン風(注1)を利用して空気の流れを制御する装置「プラズマアクチュエータ」(注2)の駆動電圧を大幅に低減できることを原理実証しました。従来のプラズマアクチュエータでは駆動に高電圧(1万ボルト以上)が必要でしたが、当該研究グループはプラズマアクチュエータを小型化し、集積化することで駆動電圧を数百ボルト程度まで大幅に低くすることが原理的に可能であることを示しました。本研究成果により、電源装置も含めて安価で軽量なプラズマアクチュエータが実現でき、航空機や自動車の飛躍的燃費向上に繋がる技術への応用が期待されます。

本研究成果は、英国ネイチャー・リサーチが出版する科学雑誌「Scientific Reports」に平成31年4月9日付けで掲載されました。

【研究の背景】

私たちの身のまわりには流体力学による知見を利用した技術が数多く存在します。空気抵抗を減らすことによって航空機や自動車の燃費を向上させることができ、また、風車のブレード周りの流れを適切に制御することで風力による発電効率を高めることができます。流れを制御し、流体機器の性能を向上させることを目的とした「流体制御技術」の研究が古くから行われています。当該研究グループでは、「イオン風」を用いて気流を制御する技術に着目し、その実用化に向けて研究を行っています。銅などの電極を2枚用意し、それらをガラスやセラミックなどの誘電体を挟むように配置し、電極に高電圧を印加すると空気中で放電が発生し、気流を誘起することができます(図1)。この気流はイオン風として古くから知られており、イオン風を利用して空気の流れを制御する装置として「プラズマアクチュエータ」が約20年前に考案され、現在でも国内外問わず、多くの研究が行われています。

プラズマアクチュエータは非常に薄いデバイス(0.1 mm程度)であるため、既存の流体機器の形状を変えることなく、表面に張り付けるだけで性能を向上させることができます。さらに、プラズマアクチュエータは電極と誘電体のみで構成されるため、可動部品を使わずに気流を発生させることが可能であり、また電気的に制御しているので応答性にも優れるといった多くの利点を有していることから、次世代の気流制御装置として実用化への期待が高まっています。

【研究の内容】

しかし、現在のプラズマアクチュエータではイオン風を発生させるためには高電圧(通常1万ボルト以上)を印加する必要があり、高圧電源の使用が不可欠です。高圧電源は扱いが難しく、一般的に大重量であり、高価であるため、実用化するためには低い電圧でも駆動し、扱いやすくて安価なプラズマアクチュエータを開発する必要があります。当該研究グループでは、従来は単一で用いられてきた2枚の電極で1組のプラズマアクチュエータを小型化し、それを多数並べることで駆動電圧を大幅に低減する手法を考案しました。プラズマアクチュエータを小型化すると発生するイオン風が弱くなってしまいますが、駆動電圧を下げることができます。小型化したプラズマアクチュエータを1つの素子として捉え、集積化することで、全体で強いイオン風を発生できると考えられます。

過去にも、プラズマアクチュエータを複数用いてイオン風を強化する試みがなされてきましたが、プラズマアクチュエータ素子の距離を近づけすぎるとお互いが干渉し、主流とは反対方向にも放電が起き、逆流するイオン風が生じてしまうために性能が低下する問題がありました。本研究では、印加電圧波形と電極の配置方法を工夫することで、素子同士の干渉によって性能が低下するのではなく、むしろ性能を向上できることを見出しました。プラズマアクチュエータに電圧を印加すると誘電体が帯電しますが、この帯電状態を適切に制御することで、イオン風の発生に適した放電を起こすことができます(参考情報1)

従来は気流に対して露出している上部電極に正弦波電圧を印加し、誘電体で覆われている下部電極を接地する手法が用いられてきました。この手法に対して、印加する電圧を直流電圧とパルス電圧を組み合わせた波形を図2のように配置した電極に印加することで主流と反対方向の放電が起きず、一方向にイオン風を加速させることができます。本研究では、実際に電極の片側のみから放電が発生することを確認し、プラズマアクチュエータの性能が向上することを示しました(図3)

【今後の展開】

本研究の手法を用いることで、原理的にはプラズマアクチュエータ素子を小型化・集積化することで数百ボルトの電圧でもプラズマアクチュエータを駆動させることができ、気流の制御が可能となります。今後は微細加工技術などを用いることでプラズマアクチュエータの微細化・高集積化を進め、実用可能な駆動電圧まで下げる研究を行います。この技術の確立によって航空機や自動車の空気抵抗を減らし、燃費の大幅な向上に貢献できるだけでなく、空気の流れによって発生する空力騒音の低減、ガスタービンの性能向上など、広い範囲への応用が期待されます。


図1:プラズマアクチュエータとその応用例。
2枚の電極と誘電体を用意し、電極の1枚は気流に対して露出させ、もう1枚は誘電体で被覆されるように配置します。この電極間に電圧をかけることで空気をイオン化し、イオン風を発生させます。応用例の1つに航空機の翼周りの流れのはく離制御があります。翼周りの流れがはく離してしまうと、揚力が大きく低下し、抗力が増大してしまいますが、イオン風を吹かせることで流れを付着させ、大きな揚力を生み出し、抵抗を減らすことができます。

図2:従来の多電極プラズマアクチュエータと本研究で提案した多電極プラズマアクチュエータ。
従来手法では気流に対して露出している電極の両側から放電が発生してしまい、一方向にイオン風を発生させることができませんでしたが、提案手法では逆向きのイオン風は発生せず、さらに DC 電圧とパルス電圧を組み合わせた電圧波形を印加することで性能が向上することを示しました。

図3:プラズマアクチュエータを上から見たときの放電写真(黄色の部分は露出電極を示しています)。
従来手法では電極の両側から放電していますが、提案手法では片側(下側)のみから放電が発生している様子がわかります。これによって、イオン風を一方向に加速させることができます。
【用語解説】

注1. イオン風:
気体中で放電を発生させると、イオンを生成することができます。この生成されたイオンは電場に沿って加速されますが、この時、周りに存在する電気的に中性の粒子と衝突を繰り返しながら進みます。その結果として、中性粒子もイオンと同じ向きに加速されます。この現象によって発生した気流をイオン風と呼びます。

注2. プラズマアクチュエータ:
イオン風を利用して流体機器周りの流れを制御する装置です。通常は2枚の電極と誘電体で構成され、交流の高電圧を印加することによって空気をイオン化し、イオン風を発生させています。プラズマアクチュエータは航空機の翼周り流れのはく離制御や摩擦抵抗の低減などへの応用が期待されています。

【論文情報】

雑誌名: Scientific Reports
タイトル: Successively accelerated ionic wind with integrated dielec-tric-barrier-discharge plasma actuator for low-voltage operation
著者: Shintaro Sato, Haruki Furukawa, Atsushi Komuro, Masayuki Takahashi, and Naofumi Ohnishi
URL: www.nature.com/articles/s41598-019-42284-w
DOI: 10.1038/s41598-019-42284-w

【関連する特許情報】

発明の名称: 多電極プラズマアクチュエータ
発明者: 佐藤 慎太郎, 大西 直文
出願人: 国立大学法人東北大学
出願番号: 特願2019-000603(特許出願中)

【参考情報】

1. Shintaro Sato, Masayuki Takahashi, and Naofumi Ohnishi, “Enhanced electrohydrodynamic force generation in a two-stroke cycle dielec-tric-barrier-discharge plasma actuator”, Applied Physics Letters 110, 194101 (2017).

本研究の一部は、科学研究費補助金 特別研究員奨励費(研究課題番号: 18J11195, 代表者: 佐藤慎太郎)の支援を受けて行われました。

【お問合せ先】
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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