海洋観測カメラによる有色溶存有機物の観測に成功

- 超小型人工衛星を利用した北極域観測技術の構築に期待 -

2019/10/02

【発表のポイント】
  • 国際理学観測衛星ライズサットに搭載した海洋観測カメラOOCによって有色溶存有機物質を観測。
  • OOCの初期観測運用は順調で、北極域観測を中心に画像処理手法を確立した後、本運用を開始。
  • 超小型人工衛星を用いた地球周回軌道における北極域観測技術の構築を目指す。
【概要】

北海道大学北極域研究センターの齊藤誠一研究員(研究推進支援教授)らの研究グループは、北海道大学及び東北大学が中心となって研究開発された国際理学観測衛星ライズサット(RISESAT:Rapid International Scientific Experiment Satellite)に搭載した海洋観測カメラOOC(Ocean Observation Camera、北海道大学、東北大学、株式会社パスコ及び国立台湾海洋大学が共同開発)による有色溶存有機物*1(CDOM:Colored Dissolved Organic Matter)の観測に成功しました。なお、ライズサットはJAXA革新的衛星技術実証1号機を構成する7衛星の一つとして、イプシロンロケット4号機により打ち上げられました。

OOC は4波長の多波長可視近赤外カメラ(図1)で、可視域に3バンド(405nm、490nm、555nm)、近赤外域に1バンド(869nm)の計4バンドで観測できます。特に、405nmバンドは CDOM測定に焦点を当てて設計しました。これにより、気候変動と密接に関係する地球の炭素循環において、森林火災同様にインパクトがあると予想されている永久凍土融解によるCDOMの河川から海洋への流出を評価でき、北極海へ流入する河川の河口付近での観測も計画しています。また、869nmバンドは可視域バンドの大気補正のために準備し、バンド幅は10nm、空間解像度は74m、観測幅は48kmです(図2)。観測方向は、直下視(Nadir)を基本とし、衛星の運用上可能であれば、海面からの太陽光反射*2(Sunglint)を避けるために制限なしで傾けた姿勢や、海上の一点をポインティングする姿勢制御なども可能です。

OOCの画像処理は、4バンドの光学的な歪みを除去した後に、869nmバンドを用いて可視域の各バンドの大気補正を行います。その後、CDOM光吸収係数やクロロフィル量などの測定結果を得て、最後に幾何補正して解析に利用します。事例として、2019年6月3日のベーリング海峡付近のCDOM光吸収係数画像を図3に示します。図3では、高濃度のCDOMがベーリング海からチュクチ海へ向けて流れている様子のほか、沿岸域ではより高濃度のCDOM分布が見られます。さらに、定量的な利用のために、JAXA衛星(GCOM-C)や現場で観測されるデータとの照合や検証が必要です。

今後、北極海に流入するロシアのレナ川やオビ川の河口付近の観測をはじめ、北極海航路沿いの沿岸域の観測を開始し、超小型人工衛星を利用した地球周回軌道における北極域観測技術の構築へ貢献していきます。

【参考図】

図1:海洋観測カメラOOC)

図2:OOC観測予定範囲(衛星高度500kmの場合)

図3:OOCにより取得された405nmバンドにおけるCDOM光吸収係数画像
【用語解説】

*1 有色溶存有機物
短波長の光を吸収する成分で、フミン酸やフルボ酸などの腐植物質が知られている。河川から流出する陸起源のものと海洋中で生成される海起源のものがあり、河口付近ではほとんどが陸起源のもの。

*2 太陽光反射
太陽光が、衛星や他のセンサーが表面を見ているのと同じ角度で海面から反射する現象のこと。可視画像の影響を受ける領域では、滑らかな海水は銀色の鏡になり、粗い表面の水は暗く見える。

【お問合せ先】
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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