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電子スピンのトポロジカル転移を制御 ー トポロジカルエレクトロニクスへの貢献 ー

2020/01/14

発表のポイント

  • 電子スピンのトポロジカル状態を幾何学的形状によって変調できることを観測
  • スピンの位相情報をスピン干渉デバイスにより測定
  • トポロジカル状態を用いた次世代エレクトロニクスへの期待

概要

東北大学大学院工学研究科の新田 淳作教授らの研究グループは、スペイン・セビリア大学のDiego Frustaglia教授の研究グループと共同で、リング型と正方型形状を有すスピン干渉デバイス※1を用いてスピンの干渉効果を理論と実験により詳細に調べた結果、トポロジカル転移磁場がデバイスの幾何学的形状によって制御できることを見出しました。

磁場や電場などの外的な擾乱に対して安定に保つことができる電子状態をトポロジカル量子状態※2と呼びます。例えば量子ホール効果※3や磁気スカーミオン※4は整数で表されるトポロジカル数を変化させるような大きな外的擾乱を加えない限り安定な状態を保ちます。このため、トポロジカル量子状態を用いたエレクトロニクスへの展開に関する研究が最近盛んにおこなわれています。本研究成果は、トポロジカル量子状態を用いたスピントロニクスや量子コンピュータに新たな自由度を提供することになり、トポロジカルエレクトロニクスの分野開拓に大きく貢献することが期待されます。

本成果は、2019年12月30日に米国科学誌 Physical Review Letters にオンラインで公開されました。なお、本研究は、独立行政法人日本学術振興会 科学研究費助成事業の助成を受けて行われました。

詳細な説明

【研究背景】

2016年ノーベル物理学賞はD. J. Thoules教授、F. D. M. Haldane教授、J. M. Kosterlitz教授の「トポロジカル相転移及び物質のトポロジカル相の理論的発見」が受賞しました。

トポロジー(位相幾何学)とは元々数学の概念で、物体の連続的な変形によって影響されない図形の不変量に着目するものです。例えば野球のボールのように穴のない状態と、穴が1つあいたドーナツやマグカップはトポロジカル数の異なる別の状態とみなせます。物性物理の分野では、量子ホール効果などトポロジーの概念を用いて説明できることが分かっています。

近年盛んに研究されているトポロジカル絶縁体や磁気的スカーミオンも散乱や電場、磁場の外部擾乱に対して安定な状態を維持できるためトポロジカルな量子状態を用いたスピントロニクスや量子コンピュータへの期待が高まっています。

【研究成果】

図1(a), (d)に本研究で用いたリング型と正方型スピン干渉デバイスの模式図を示します。スピン軌道相互作用の強い半導体二次元電子ガスInGaAsを用いたデバイスを作製することにより、電子スピンは運動方向と垂直な方向にスピン軌道相互作用が作る有効な磁場B_soを感じながら伝搬します。これによりリングを1周する際、獲得するスピンの幾何学的位相を干渉効果によって電気伝導度から測定することが可能です。

外部から磁場B_xを印加しない場合、電子スピンはスピン軌道相互作用の作る有効磁場B_soに沿って運動するため、z軸の周りを1回転します(図1(b),(e))。スピン干渉デバイスではこのz軸の周りのスピン回転数がトポロジカル数とスピンの幾何学的位相に対応することを理論的に示すことが可能です。z軸の周りを1回転するスピンは幾何学的位相πを獲得します。ここで磁場B_xを印加し、その強さがB_x>B_soとなるともはやz軸の周りの回転ができなくなり、トポロジカル数がゼロとなるとともにスピン幾何学的位相がゼロとなり干渉効果が逆転します(図1(c))。

一方、正方型スピン干渉デバイスの場合、正方形の頂点の部分で有効磁場B_so方向が急激に90°変化するため電子スピンは有効磁場に追従できず、z方向に傾くことになります。このため、外部磁場B_xが十分有効磁場B_soより弱い場合B_x≪B_soでも電子スピンはz軸の周りで1回転できず、トポロジカル数をゼロに転移させることが可能となることを理論的に示しました(図1(f))。

図2はリング型と正方型スピン干渉デバイスを用いた実験結果です。正方型スピン干渉デバイスでは、リング型スピン干渉デバイスに比べて弱い磁場B_xで干渉パターンが反転していることが観測されました。この結果はトポロジカル転移磁場がデバイスの幾何学的形状によって制御できることを示しています。


図1 リング型と正方型スピン干渉デバイスの模式図

図2 リング型と正方型スピン干渉デバイスを用いた実験結果
正方型スピン干渉デバイスでは弱い磁場で干渉パターンが反転する

論文情報

雑誌名・号・ページ: Physical Review Letters 123, 266804 (2019)
論文タイトル: Geometry-Assisted Topological Transitions in Spin Interferometry
著者: M. Wang, H. Saarikoski, A. A. Reynoso, J. P. Baltanás, D. Frustaglia, and J. Nitta
URL: https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevLett.123.266804
DOI: 10.1103/PhysRevLett.123.266804

用語の解説

※1:スピン干渉デバイス

電界によって制御可能なスピン軌道相互作用が作る有効磁場を用いて電子スピンを歳差回転運動させ、スピンの相対的な角度を変調し電気伝導を制御するデバイス。東北大学のグループによって理論提案され実験的に実証されてきた。

※2:トポロジカル量子状態

トポロジーという数学的な概念を用いて表される電子状態。例えば穴が1つあいたドーナツやマグカップは同じトポロジカル数(整数)を持つ状態として分類される。

※3:量子ホール効果

量子ホール効果に表れるホール電気伝導度は量子化電気伝導度にトポロジカル数を掛けた量で表される。

※4:磁気スカーミオン

磁性体の渦状スピン配向であたかも粒子のようにふるまう。スピンの空間配向の積分がトポロジカル数(整数)1以上となると安定に存在・伝搬することができる。

お問合せ先

東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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