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オール有機物のバイオ発電スキンパッチが完成 - 標準モデルの試供と多様なカスタマイズで製品化を目指す -

2020/01/29

【発表のポイント】

  • 皮膚への薬剤浸透を酵素反応によるマイクロ電流で促進する “バイオ発電スキンパッチBIPP (Bio Iontophotesis Patch ※商標出願中)”が完成
  • カスタマイズメニューが拡充 (パッチのサイズ・形状・出力・寿命)
  • ポーラスマイクロニードルアレイが搭載可能

【概要】

東北大学大学院工学研究科および高等研究機構新領域創成部(FRiD)の西澤松彦教授のグループは、サンアロー㈱と協力して、酵素によるバイオ発電の機構を搭載したスキンパッチBIPP(Bio Iontophoresis Patch ※商標出願中)を完成させました。

皮膚に微小電流を流すイオントフォレシスは、皮膚下への水分や薬剤の輸送促進に利用され、さらに、しわ取り・制汗・疼痛や眼精疲労の緩和などの効果も認められています。これまでは外部電源が必要なために病院やクリニックでの利用に限られていましたが、小型電池の搭載によって携帯型となり、さらに酵素で発電するオール有機物の使い捨てパッチが実現すると、湿布などのような日用品として、多様な用途で普及が進むと期待されています。

当研究グループは、経皮投薬パッチのバイオ電池による駆動を世界で初めて実証し(5年前)、この度、簡便な操作で安全・安定に経皮通電が行える、オール有機の完全使い捨てパッチを完成させました。パッチ構成部材(酵素電極・内部抵抗・吸水性燃料タンクなど)の薄膜化と柔軟化を徹底し、貼付箇所の形状や動きにかかわらずに安定な密着を保持できる、柔軟型パッチが実現しました。また、高電圧化やポーラスマイクロニードルアレイ(PMNA)の搭載など、カスタマイズメニューが充実し、製品ごとの多種多様なスペック(サイズ・形状・出力・寿命)に対応できる技術基盤が整いましたので、標準モデルの試供をスタートし、ユーザー企業と協力して多様な製品化を進めます。

本研究開発の詳細は1月30日に東京ビックサイトで開催される国際ナノテクノロジー総合展・技術会議「nano tech 2020」でも発表します。

【詳細な説明】

(1)背景と開発の経緯

皮膚にマイクロ電流を流すイオントフォレシスは、皮膚下への分子輸送を促進する効果を持ち、病院や美容・育毛クリニックなどで薬剤の経皮投与に広く利用されてきました。さらに、経皮電流が生み出す体液の流れ(電気浸透流)によるマッサージ効果を利用して、しわ取り・制汗・疼痛緩和・眼精疲労の緩和などにも用いられています。これまでは外部電源が必要なために通院やベットサイドでの利用に限られていた経皮通電治療ですが、小型・軽量な電池の搭載によって携帯型さらにパッチ型となれば、湿布などのような日用品として多様な分野で普及が進むと期待されています。

当研究グループは、経皮通電パッチを駆動する電源として、酵素を電極触媒に用いるバイオ電池の可能性を永く検討してきました。経皮投薬パッチのバイオ電池による駆動の実証を2015年に報告し [1]、その後の実用化研究を経て、サンアロー(株)の協力の下、簡便な操作で安全・安定な経皮通電が行える、オール有機の完全使い捨てパッチを完成させました(図1)。具体的には、パッチ構成部材(酵素電極・内部抵抗・吸水性燃料タンクなど)の薄膜化と柔軟化を徹底することによって、貼付箇所の形状や動きにかかわらずに安定な密着を保持できました。また、高電圧化やポーラスマイクロニードルアレイ(PMNA)の搭載など、カスタマイズメニューが充実し、製品ごとの多種多様なスペック(サイズ・形状・出力・寿命)に対応できる技術基盤が整いました(図2)。


図1 経皮通電治療技術の発展

図2 バイオ発電スキンパッチBIPPを支える技術革新のポイント
(2)研究開発品の詳細

図3にバイオ発電スキンパッチBIPPの構造と経皮通電のメカニズムを示しました。アノード(マイナス極)は、フルクトース(果糖)もしくはグルコース(ブドウ糖)を酸化する酵素を修飾した炭素繊維布であり、吸水タンクに形成される燃料溶液と反応します。カソード(プラス極)は、酸素O2を還元する酵素や錯体を修飾して作製しました。アノード電極とカソード電極は、撥水処理を施した伸縮性内部抵抗によって、パッチ内で電子的に導通され、イオン的にはフレームとシェルの接合で確実に絶縁されます。シェルにはカソードにO2を供給するための窓(四角)、およびタンクへの給水をチェックする窓(小丸)を設けました。O2供給窓はガード綿で撥水化してあります。

皮膚組織にはコラーゲンなどの固定負電荷が多いため、皮膚中のイオン電流の主体はNa+などのカチオンです。そのため、カチオンの移動方向(アノード→カソード)に水和水の流れが顕在化します。この電気浸透流が皮下への水分供給やマッサージ効果、および薬剤の浸透促進効果をもたらします。オール有機の完全使い捨てパッチの実現を支える技術革新のポイント①~⑤を以下で順に説明します。


図3 バイオ発電スキンパッチBIPPの構造と経皮通電のメカニズム

①安定な密着を保持できる柔軟性
パッチ構成部材(酵素電極・内部抵抗・吸水性燃料タンクなど)の材質を精査し薄膜化を徹底することによって、パッチ総厚みを0.2cmに抑え、貼付箇所の形状や動きにかかわらずに安定な密着を保持できる柔軟型パッチを実現しました。柔軟性は2MPa程度で、指などの複雑な曲面にも貼り付けられます。皮膚通電パッチを使用する際に、「密着性の保持」は非常に大切です。過去に製品化されたパーソナルユースの通電パッチ(通常の金属電池を搭載)の普及が進まなかった理由は、ピリピリする刺激、さらに火傷の様な跡が残った事象が発生したためと言われています。これはパッチと生体の不均一な接触による局所への電流集中の結果と考えられ、密着性に優れる当該バイオ電池パッチでは、大幅に安全性が高まっています。


図4 安定な密着を保持できる柔軟性

②吸水による簡便なスピード起動
バイオ電池は、有機物のみで構成される安全な使い捨てパッチを実現しますが、湿った状態では酵素が劣化し易いため、乾燥状態で保管(販売)し、使用時に水分を供給して起動することになります(図5上)。しかし、バイオ発電スキンパッチBIPPは柔軟な薄いシート形状(0.2cm)なため内部構造が複雑であり、隅々まで水分を行き渡らせる給水は困難でした。研究グループは、吸水性タンクの材料を精査し、その微細加工方法、および予め電解質(緩衝剤)と燃料をタンク内部に担持する技術を開発しました。その結果、タンク材の吸水性によって給水が速やかに完了し、電池内部で電解質(緩衝剤)と燃料を含む均一な水溶液のタンクが形成されました(図5下)。給水は、水滴を垂らす、もしくは皿などに溜めた水に浸すなど、ユーザーが気楽に実行できる簡便な操作で行え、チェック窓の着色で確認できます。乾燥状態の経皮通電パッチに給水した後の起動特性を調べたところ、給水後10~30 秒程度で安定して発電しました。


図5 簡便な給水操作による起動

③高電圧化技術
電圧の調節に必要な新しいスタック技術を開発したことで、高電圧化の要望に応えることが出来ます。分割して直列つなぎすると、経皮抵抗の領域では出力電圧が上昇することを利用して、総サイズを変えずに(柔軟性を保ったままで)、電圧を増大出来ることが分かりました。この成果は、2019年12月9日に米国化学会の学術誌ACS Applied Electronic Materialsに掲載されました[2]。


図6 総サイズを変えずに(柔軟性を保持したまま)高電圧化する分割・直列つなぎ

④カスタマイズのメニュー拡充
バイオ発電スキンパッチの応用は多様です。安定密着のための柔軟性を確保するためにパッチ厚みは0.2cmに統一しますが、サイズと形状のカスタマイズには柔軟に対応が可能です。電圧・経皮電流値・通電時間は、使用する酵素の種類と量、および上記の高電圧化によって設定され、表1に記載の範囲で設定可能です。量産プロセスの確立を進めており、コスト対策にも注力しています。例えば、材料コストは5年前の原理実証の時に比べると1/10以下になりました。

表1 バイオ発電スキンパッチBIPP カスタマイズメニュー

⑤ポーラスマイクロニードルアレイ(PMNA)
基本スペックのカスタマイズメニューに加えて、西澤グループの独自技術である分子透過性のポーラスマイクロニードルアレイ(PMNA)を搭載するオプションも用意しています。PMNAの搭載によって角質層の抵抗がキャンセルされ、図7上に示す様に経皮抵抗値が低減・安定化し、経皮通電の効率と信頼性が格段にアップします。さらに、通常は皮膚を浸透し難い大きいサイズの分子を投与(もしくはサンプリング)できるようになり、応用の可能性が大幅に拡大します。PMNAは給水タンク材料と一体化して発電パッチに組み立てられ(図7下)、起動時の給水口の役割も担います。


図7 (上)ポーラスマイクロニードルアレイ(PMNA)による皮膚抵抗の低下・安定
   (下)バイオ発電スキンパッチBIPPへの搭載
(3)まとめと今後の展開

高齢社会に対応する高効率・低コストな健康医療システムの開発が全世界の英知を結集して急ピッチで進められています。その鍵を握るウェアラブルデバイスの典型が皮膚パッチであり、構成材料の生体親和性に加えて、柔軟性および電力供給が開発課題になっています。今回のバイオ発電スキンパッチBIPPは、柔軟な酵素電極を駆使するメタルフリーの完全使い捨て型として世界初であり、さらに分子透過性のポーラスマイクロニードルアレイと組み合わせることによる多様な医療・健康応用が期待できます。

今後は、標準タイプの試供(有償)からスタートし、合用途的なカスタマイズを通して、多分野の企業(ユーザー企業)とBIPPの製品化を進めていきます。バイオ発電パッチの応用は医療・健康に限られるものではなく、むしろ美容・ペット・畜産・食品・農業など新分野での活用も期待できるプラットフォームデバイスだと考えています。


図8 製品化・事業化のスキーム

[1]“Organic Transdermal Iontophoresis Patch with Built-in Biofuel Cell” Y. Ogawa, K. Kato, T. Miyake, K. Nagamine, T. Ofuji, S. Yoshino, M. Nishizawa, Adv. Healthcare Mater., 4 (2015) 506-510. “バイオ電流で速く効く! 貼ると発電する皮膚パッチを開発” 東北大学プレスリリース 2014年11月18日

[2]“Series-Connected Flexible Biobatteries for Higher Voltage Electrical Skin Patches” S. Yoshida, T. Mizuno, S. Kusama, K. Sato, B. Raut, M. Nishizawa, ACS Appl. Electron. Mater., DOI: 10.1021/acsaelm.9b00671

お問合せ先

東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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