高効率の単結晶熱電変換材料の開発手法を創出 - 多結晶より熱を伝えにくい単結晶を実現 -

2020/02/25

【発表のポイント】

  • 単一の結晶からなる単結晶の熱伝導率を、たくさんの結晶からなる多結晶よりも低くする手法として点欠陥の導入を提案し、その基盤技術の確立に成功しました。
  • 本研究により、高い熱電変換効率をもつ単結晶の熱電変換材料の開発が可能になり、熱エネルギーを利用したエネルギーハーベスティングの実現に繋がります。

【概要】

東北大学大学院工学研究科 応用物理学専攻の齋藤 亘氏(博士後期課程学生)、林 慶准教授および宮﨑 讓教授は、2019年度 東北大学-清華大学共同研究ファンド(東北大学)の支援のもとで、清華大学(中国)の李敬锋教授の研究グループと共同研究を行い、高い熱電変換効率をもつ単結晶の熱電変換材料を開発する手法として、単結晶に点欠陥を導入することを提案し、その基盤技術を確立しました。

熱電変換材料は熱エネルギーから発電できる材料です。温度差をつけたときの起電力(ゼーベック係数)と電気伝導率が高く、熱伝導率が低いほど熱電変換効率が高くなります。単結晶と多結晶を比べると、単結晶の方が電気伝導率は高いのですが、熱伝導率も高いことから、従来は、多結晶の熱電変換材料が開発されてきました。本研究では、単結晶に点欠陥を導入すると、多結晶より熱伝導率が低くなる一方で、電気伝導率はあまり変化しないことを明らかにしました。本研究を発展させることで、熱電変換効率の高い単結晶の熱電変換材料を開発することが可能となり、熱エネルギーを電力に変換するエネルギーハーベスティング※1の実現が期待されます。

本研究成果は、英国オンライン科学誌 Scientific Reports に2020年2月6日に掲載されました。

【詳細】

背景

熱電変換材料は、熱エネルギーを利用したクリーンなエネルギーハーベスティング材料として期待されています。熱電変換材料の両端に温度差をつけると起電力が生じて(ゼーベック効果)、電流が流れます。このとき、ガスの排出や、振動・騒音は起きません。熱電変換材料を使ったエネルギーハーベスティングを実現するには、熱電変換材料の熱電変換効率を向上しなくてはなりません。そのためには、熱電変換材料のゼーベック係数※2と電気伝導率を高く、熱伝導率を低くする必要があります。

材料開発をするときには、単結晶と多結晶のどちらを使えばよいか考えなくてはなりません。熱電変換効率の観点からすると、単結晶は多結晶より電気伝導率が高いものの、熱伝導率も高いという問題があります。このため、従来は単結晶ではなく、多結晶の熱電変換材料が開発されてきました。多結晶中の結晶同士の界面で熱伝導を妨げるという考えです。ただし、熱伝導を妨げるには、結晶の大きさをマイクロメートルサイズよりも小さくしなくてはならず、その場合には電気伝導も妨げられます。最近では、多結晶の中にナノメートルサイズの異種結晶を導入して熱伝導率を低くすることも行われていますが、さらに電気伝導率は低くなってしまいます。

東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻の齋藤 亘氏(博士後期課程学生)、林 慶准教授および宮﨑 讓教授は、単結晶や多結晶に含まれる点欠陥の定量評価を行ってきました。図1に、点欠陥の例として、原子の周期的な配列の隙間に原子が侵入した格子間欠陥と、一部が欠損した空孔欠陥を示します。これまで、マグネシウムシリコン化合物※3には格子間欠陥が、マグネシウム錫化合物※4と硫化錫化合物※5に空孔欠陥が存在することを明らかにしてきました。また、清華大学の李敬锋教授の研究グループは、点欠陥がゼーベック係数や電気伝導率に与える影響を調査してきました。2019年4月から、2019年度 東北大学-清華大学共同研究ファンド(東北大学)に採用されたことを受けて、単結晶に点欠陥を導入して熱伝導率を低くすることができれば、高い熱電変換効率を達成できるのではないかと考えて、共同研究を進めてきました。


図1 点欠陥の例(格子間欠陥と空孔欠陥)
本研究の内容

本研究では、単結晶のマグネシウム錫化合物を作製して、空孔欠陥量を制御することにしました。空孔欠陥を導入するために必要なエネルギーを増減すれば、空孔欠陥量を制御することができます。そのために、単結晶のマグネシウム錫化合物を作製するときのアルゴン圧力を0.6気圧から1.6気圧まで増加したところ、マグネシウムの空孔欠陥量を5.6%から12%の範囲で調整できることがわかりました。また、微細組織観察から、単結晶のマグネシウム錫化合物には、単結晶領域および空孔欠陥が含まれている領域(空孔欠陥領域)が混在しており、単結晶領域と空孔欠陥領域の界面は半整合界面※6であることがわかりました(図2)。


図2 単結晶のマグネシウム錫化合物に含まれる単結晶領域と空孔欠陥領域

次に、単結晶のマグネシウム錫化合物のゼーベック係数、電気伝導率、熱伝導率と空孔欠陥量の関係を調べました。空孔欠陥量の増加によって、わずかにゼーベック係数と電気伝導率が低くなるとともに、顕著に熱伝導率が低くなることがわかりました。これは、単結晶領域と空孔欠陥領域の界面が半整合界面であり、界面が電気伝導と熱伝導を妨げる効果は小さいのに対し、空孔欠陥自体が熱伝導率を低くするのに有効に働いたことを示しています。特に、熱伝導率は、多結晶のマグネシウム錫化合物の報告値よりも低いことから(図3)、単結晶のマグネシウム錫化合物は熱電変換材料として有望であるといえます。


図3 単結晶と多結晶のマグネシウム錫化合物の熱伝導率の比較

単結晶のマグネシウム錫化合物の熱伝導率を低くすることができたので、現在は電気伝導率をさらに高くすることに取り組んでいます。これは、マグネシウムや錫を別の元素で部分的に置き換えることで可能です。低い熱伝導率を達成できる空孔欠陥量を維持しつつ、電気伝導率を高くすることができる元素を探索し、マグネシウム錫化合物の熱電変換効率をさらに高くすることができれば、マグネシウム錫化合物を使ったエネルギーハーベスティングが現実のものになると期待されます。

今後の展望

本研究ではマグネシウム錫化合物に注目しましたが、他の化合物にも点欠陥は存在しています。本研究で確立した空孔欠陥量を制御する手法を、他の化合物の単結晶に適用することで、他の化合物でも熱電変換効率を高くできると期待されます。運輸・産業・民生の様々な分野で、一次エネルギーの半分以上が利用されずに熱エネルギーとして排出されています。この熱エネルギーから電力を得ることができれば、省エネルギー化に大きく貢献できます。2019年度 東北大学-清華大学共同研究ファンド(東北大学)は2020年度も継続することが決まっており、共同研究を通して、エネルギーハーベスティングの実現のために単結晶の熱電変換材料の開発を進めていきます。

用語解説

※1 エネルギーハーベスティング

身の周りのエネルギーから電力を得る発電技術の総称。

※2 ゼーベック係数

温度差1˚ C あたりの起電力を指す。

※3 マグネシウムシリコン化合物

MgとSiがモル比2:1で化合した物質を指す。

※4 マグネシウム錫化合物

MgとSnがモル比2:1で化合した物質を指す。

※5 硫化錫化合物

本稿では、SnとSがモル比2:3で化合した物質を指す。

※6 半整合界面

2つの結晶が接している界面において、各々の結晶の原子の配列が部分的に一致している場合を、半整合界面という。

論文情報

タイトル:Control of the Thermoelectric Properties of Mg2Sn Single Crystals via Point-Defect Engineering
(和訳:点欠陥エンジニアリングによるMg2Sn単結晶の熱電変換特性の制御)
著者: Wataru Saito, Kei Hayashi, Jinfeng Dong, Jing-Feng Li & Yuzuru Miyazaki
掲載誌: Scientific Reports 10, Article number: 2020 (2020).
DOI: 10.1038/s41598-020-58998-1
URL: https://www.nature.com/articles/s41598-020-58998-1

お問合せ先

東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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