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周囲の温度で冷暖切換する固体冷媒材料を開発 − 固体冷凍技術における新発見 −

2020/08/20

発表のポイント

  • 外力を加えることにより吸熱する、従来とは逆の冷却効果を確認
  • 周囲の温度に応じて、応力印加時の吸熱・発熱反応が切り替わる現象を発見
  • 省エネ・低環境負荷の次世代冷凍技術実現への貢献が期待できる
  • 材料自身の特性のみで周辺温度を一定に保つ恒温材料への応用が期待できる

概要

エアコンや冷蔵庫等に幅広く利用される冷却技術に代わる、より省エネ・低環境負荷の次世代冷凍技術開発が急速に進められています。東北大学大学院工学研究科の博士課程後期3年大平拓実氏、許皛助教らの研究グループは、応力により発熱する従来の現象(弾性熱量効果)とは逆に、応力により吸熱する現象(逆弾性熱量効果)をコバルト系合金にて確認しました。さらに、本コバルト系合金において、周囲の温度に応じて、吸熱・発熱反応が切り替わる機能的な新しい特性が発見されました。これは、「固体冷凍技術」の発展に貢献する新たな物理現象の発見です。

この合金により温暖化ガスを利用しない次世代冷凍装置設計に新たな自由度を与えることや、温度を一定に保つ恒温材料への応用が期待できます。

本成果は、2020年8月24日付の米科学誌Applied Physics Reviewsにて掲載され、Featured Articleに選ばれました。さらに、AIP(American Institute of Physics, 米国物理学協会)のハイライト(Scilight)にも紹介されました。


図1 応力印加・除荷過程で観測した本コバルト系合金の温度変化。室温では応力印加により発熱し、除荷することで吸熱する通常の弾性熱量効果を示すが、低温では応力を印加することで吸熱し、除荷することで発熱する逆弾性熱量効果が観測された。

論文情報

タイトル: Elastocaloric switching effect induced by reentrant martensitic transformation
著者: Takumi Odaira, Sheng Xu, Xiao Xu, Toshihiro Omori, Ryosuke Kainuma
掲載誌: Applied Physics Reviews
DOI: 10.1063/5.0007753
URL: https://aip.scitation.org/doi/10.1063/5.0007753

Scilight

タイトル: Exploring the elastocaloric switching effect and its mechanism
DOI: 10.1063/10.0001793

研究背景

現在、エアコン、冷蔵庫をはじめ私たちの身の回りの冷却装置では、日々膨大なエネルギーが消費されています。これらの冷却装置では冷媒ガスの圧縮・膨張の際に生じる、液体-気体の相変態注1潜熱注2を利用して冷却を行っています。しかし、ここで利用される一般的な冷媒ガスは、非常に強い温室効果注3があります。さらに、この方法はエネルギー効率が悪いため、環境にやさしく、高効率な次世代冷凍技術の開発が積極的に行われています。そのうちの一つに、冷媒ガスの代わりに固体の冷媒を利用する固体冷凍注4技術があります。超弾性合金注5は固体冷媒としても期待される材料であり、応力の印加・除荷により生じるマルテンサイト変態注6という可逆的な相変態を利用し、発熱・吸熱(弾性熱量効果)をすることができます。さらに、超弾性合金は固体冷媒の中でも低コスト・適応温度が広いという特徴から、特に注目されています。実用材料であるニッケル-チタン合金のような通常の超弾性合金は必ず応力印加により発熱、除荷により吸熱するため、基本的な冷却装置の設計は図2の模式図のように複雑な機構となります。とはいえ、装置設計自体の改善によっても高効率化が期待できることから、材料分野のみならず装置設計の分野からも盛んに研究がなされています。


図2 従来の超弾性合金による基本的な冷却装置の模式図。

研究成果のポイント

これまで報告されているほぼ全ての超弾性合金は通常の弾性熱量効果を示しますが、本コバルト系合金は応力を印加すると吸熱し、除荷すると発熱するというように、従来とは逆の弾性熱量効果(逆弾性熱量効果)を示します。さらに、本コバルト系合金は周囲の温度により、弾性熱量効果と逆弾性熱量効果が切り替わる初めての材料です。例えば、同じ除荷過程においても、周囲の温度が高い場合は吸熱を生じ、温度が低い場合は発熱を生じさせることができます(図3)。この特有な吸熱・発熱反応は、本コバルト系超弾性合金で生じる「リエントラント・マルテンサイト変態注7」という特異な相変態によって、高温と低温で相変態潜熱の正負が逆転するためであると判明しました。


図3 応力の除荷過程において観測した本コバルト系合金の弾性熱量効果。−20℃以上の温度では吸熱するが、−40℃以下の温度では発熱する現象が見られた。

今後の展望

これまでの超弾性合金にはない温度変化を示すことのできる本コバルト系合金の応用発展例を紹介します。

前述のように、超弾性合金を用いた冷却装置は、設計によってさらなる高効率化が可能と考えられています。しかし、そこには「超弾性合金に応力を加えると発熱し、除荷すると吸熱する」という絶対的な制約がありました。本合金は通常の超弾性合金とは逆の温度変化を与えられることに加え、周辺温度によって発熱・吸熱が切り替わる温度センサー機能を具備した特異な合金です。本合金の発見により、これまでの固定概念にとらわれず、装置設計に新たな自由度が生まれ、次世代固体冷凍技術実現に貢献できると期待しています。

他方、周囲の温度により発熱・吸熱とその大きさが切り替わる特性を生かし、温度を一定に保つ「恒温材料」としての発展も期待しています。現在の温調機器は温度センサーやコントローラーなどを搭載することで、周辺温度を感知しながら、冷却と加熱を調節しますが、本合金はそれら全てを材料自身の特性により行うことができます。また、一定に保つ温度も合金の種類や組成により調節が可能と考えています。このような特徴から、特に小型デバイスなどでの温調用材料としても発展を期待しています。

用語解説

注1 相変態

気体、液体、固体間の変化の様に、物質の相(原子の配列構造や状態)が変化すること。

注2 潜熱

水が周りの熱を奪い水蒸気となるように、相変態に伴い現れる熱の出入りのこと。多くの熱量効果は潜熱を利用している。

注3 温室効果

地球の大気に温室効果ガスと呼ばれる気体が存在することで、地球表面付近を保温する効果のこと。温室効果ガスは二酸化炭素やメタン等が挙げられるが、現在の冷凍技術に一般的に用いられる、「代替フロンガス」と呼ばれるものは二酸化炭素の数百倍以上の温室効果があるとされ、非常に強力な温室効果ガスである。

注4 固体冷凍

現在の冷凍技術に広く利用されている冷媒ガス(フロンガス、代替フロンガス)の代わりに固体の冷媒を使用するもの。固体冷媒材料に応力、電場、磁場などを印加・除荷すると発熱・吸熱反応が生じる。有害ガス漏洩の問題がなく、高効率であることから次世代冷凍技術として期待されている。

注5 超弾性、超弾性合金

最大10%程度の極めて大きな変形を与えても、荷重を除くだけで元の形状に回復する特性および、その特性を有する合金。通常の金属材料は最大1%程度しか形状が回復しない。

注6 マルテンサイト変態

応力印加や冷却をすることで結晶格子中の各原子が配列を保ったままドミノ倒しのように協力的に移動することで生じる相変態。特定の材料では応力印加・除荷、または冷却・加熱により可逆的に変態が生じる。

注7 リエントラント・マルテンサイト変態

本コバルト系超弾性合金などで確認される、冷却によって生じたマルテンサイト相をさらに冷却すると再び母相へ変態する特殊なマルテンサイト変態。通常、マルテンサイト相は母相を冷却することで誘起される。

お問合せ先

東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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