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熱伝導を電気で制御する新手法を開発 − 熱流を自在に制御して、次世代の熱マネジメントへ −

2020/09/03

発表のポイント

  • 電子機器の排熱やその再利用に向けて熱流の自在な制御が求められている
  • スピン熱伝導物質を用いた熱伝導の新しい制御法を提案し実証した
  • アクティブな排熱や蓄熱、調温デバイスなどへの応用が期待される

概要

私たちの身の回りには様々な形態のエネルギーが存在しますが、その大部分は最終的には熱に姿を変えます。その熱が蓄積すると、小型・集積化が進む電子機器の劣化や故障の原因になります。熱流の量や方向を自在に制御できれば、機器の信頼性やパフォーマンスを向上させられるうえ、エネルギー源としての熱の再利用も可能になります。

東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻藤原研究室の寺門信明助教(兼JSTさきがけ研究者)らの研究グループは、スピン熱伝導物質*1であるマグノン*2と呼ばれる特殊な粒を用いた熱流の新しい制御法を提案しその実証に成功しました(図1)。熱分布に応じて変化するアクティブな排熱や蓄熱、超精密温度制御が可能な調温デバイスなど次世代の熱マネジメント技術への応用が期待されます。

本研究成果は、英国オンライン科学誌「Scientific Reports」に令和2年9月2日に掲載されました。


図1.スピン熱伝導の電気的制御(模式図)。試料に電圧を加えることによってスピン熱伝導物質の熱キャリアであるマグノンの移動が阻害され、複合領域の熱伝導を抑制することができる。

研究の背景

私たちの身の回りには光や電気など様々な形態のエネルギーが存在します。しかしその大部分は最終的には熱に姿を変え、放っておけば高温部から低温部へと、光や電気などと比べると非常にゆっくりと拡散していきます。そしてノートパソコンやスマートフォンなどを手に取るとわかる通り、行き場を失った熱はデバイスの温度を上昇させ、劣化や故障、パフォーマンス低下の原因となります。このため熱を素早く逃がすための熱回路設計や高熱伝導材料の開発などが進められデバイスの安定化が図られています。しかし小型化・集積化が進む電子機器においてその熱マネジメントは今後益々困難になることが予想されています。

一方視点を変えると、熱は貴重なエネルギー資源と見ることもできます。実際に、電子機器などから排出される数100°C未満の低温排熱エネルギーは全排熱エネルギーの大部分を占めることが知られています。しかし、低温であることや拡散しやすいといった扱いづらさからほとんど再利用されていないのが実情です。

これらの問題を解決するために、私たちのグループでは熱をもっと自由に操作できる“熱制御回路”の創出を目指した研究を進めてきました。高熱伝導ガラスセラミックス[1]やファイバーの作製、薄膜上への高熱伝導路のラインパターニング[2]などがその例です。それらの材料には今回の研究でも使用したスピン熱伝導物質が用いられ、異方的な高熱伝導性というスピン熱伝導物質の特徴が生かされています。

一方今回の研究では、スピン熱伝導物質のもうひとつの特徴である“熱伝導率の制御性”に着目しました。これは熱キャリアがマグノンという特殊な粒であり、その移動は障害物(ホール)によって邪魔されることに由来しています。つまり、スピン熱伝導の邪魔ものとなるホールを電圧印加によって意図的に用意してやり、熱伝導を動的に制御するという試みです。

研究内容の詳細

La5Ca9Cu24O41(LCCO)単結晶は室温においても金属に匹敵するスピン熱伝導を示すことが知られています。今回はその集合体である多結晶薄膜*3と、強電場の印加が期待できるイオン液体を用いて、図2aのような試料を作製しました。LCCOのようなスピン熱伝導物質はラマン分光*4においてtwo-magnonピークと呼ばれるマグノン由来の特徴的な幅広いピークを示します。two-magnon ピークは電圧印加によって減少し、電気的なショートによって回復することがわかりました(図2b,c)。これはマグノンの通り道に障害物となるホールを電気的に導入・排除できたことを意味しています。


図2.(a) ラマン分光用試料の断面図。電圧印加下のマグノンの変化をレーザー光で調査するために、透明導電膜であるITOを上部電極として用いた。(b) 印加電圧の時間依存性。(c) 電圧印加及びショートによるラマンスペクトルの変化。A–Eの記号は(b)のそれに対応している。~2000 cm−1を中心とする幅広い変化がtwo-magnonピークによるものである。

そこで、図3aに示した試料とサーモリフレクタンス法*5と呼ばれるレーザー光を用いた熱伝導評価法により、LCCO薄膜の熱コンダクタンス(GLCCO: 熱の流れやすさを表す物理量)を測定しました。GLCCOは電圧印加による減少とショートによる回復を示し、熱伝導が動的に電気的に制御されていることが確認されました(図3b,c)。熱伝導やマグノンの変化率は予期していたものよりはるかに大きな値を示しました。この理由は多結晶薄膜を用いたことによって薄膜内部へのイオン液体の浸透が起こり、制御面積が大幅に向上したことにあると考えています。


図3.(a) 熱伝導評価用試料の断面図。上部電極であるAuはサーモリフレクタンス用の加熱兼温度検出膜として機能する。(b) 印加電圧の時間依存性。(c) LCCO薄膜の熱コンダクタンスGLCCOの印加電圧依存性。A–Eの記号は(b)のそれに対応している。

研究の意義・今後の展望

材料の熱伝導を電気的に制御する研究はこれまでもありましたが、スピン熱伝導物質に着目したものは今回が初めてです。スピン熱伝導物質の中には室温やそれ以上でも高い熱伝導と異方性を示すものも多く報告されています。しかし今回は多結晶薄膜を用いた原理実証であったため、ランダムな方向を向いた微結晶(微細な結晶)の熱伝導が平均化されてしまい、それらのメリットは生かせませんでした。今後は、微結晶の向きをそろえることによってそれらの問題を解決すると同時に、マグノン制御の詳しい機構を調査する予定です。熱伝導とその異方性の電気的な高速制御が可能になれば、熱分布に応じて変化するアクティブな排熱や蓄熱、超精密温度制御が可能な調温デバイスなど次世代の熱マネジメント技術への応用が期待されます。

用語解説

*1 スピン熱伝導物質

電子スピン*6由来の熱伝導を示す物質。マグノンなどが熱キャリアとして働く。La5Ca9Cu24O41やSrCuO2などは室温においても金属に匹敵する高い熱伝導率と異方性を示す。

*2 マグノン

電子スピンを小さな棒磁石とすると、それを半回転させた状態。粒子として扱われ、電子スピンの配列上を動く。

*3 多結晶薄膜

本研究では、100 nm程度の微結晶の集合体で厚さは~500 nm。

*4 ラマン分光

物質にレーザー光を照射し、散乱光のスペクトルからマグノンなどの状態を調査する方法。

*5 サーモリフレクタンス法

金属の光反射率が温度上昇に伴って変化するという性質を利用して金属膜を付けた物質の熱伝導を決定する手法。

*6 電子スピン

電子が持つ、自転に相当する角運動量。

参考資料

[1] N. Terakado, K. Watanabe, T. Kawamata, Y. Yokochi, Y. Takahashi, Y. Koike, T. Fujiwara, Appl. Phys. Lett. 106, 141902 (2015).
[2] N. Terakado, R. Takahashi, Y. Takahashi, T. Fujiwara, Appl. Phys. Lett. 110, 191902 (2017).

論文情報

タイトル: Dynamic control of heat flow using a spin-chain ladder cuprate film and an ionic liquid (和訳:スピン鎖/梯子系銅酸化物膜とイオン液体を用いた熱流の動的制御)
著者: Nobuaki Terakado, Yoshinori Nara, Yuki Machida, Yoshihiro Takahashi, Takumi Fujiwara(和名:寺門信明,奈良由紀,町田雄気,高橋儀宏,藤原巧)
掲載誌: Scientific Reports (DOI: 10.1038/s41598-020-70835-z)
URL: http://www.nature.com/articles/s41598-020-70835-z

付記

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業さきがけ「熱輸送のスペクトル学的理解と機能的制御」(研究総括:花村克悟 東京工業大学 工学院 教授)における「スピン熱伝導を利用した熱伝導可変材料の創出」(課題番号:JPMJPR18I7,研究者:寺門信明)」、および日本学術振興会科研費(若手研究(A))「スピン熱伝導性薄膜による能動的熱流制御」(研究課題番号:17H04811,研究代表者:寺門信明)の支援を受けて実施されました。

お問合せ先

東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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