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結晶化ガラス材料における最大の光変調性能を実現 − 光通信網へ導入可能な柔軟かつ高度な光波制御デバイスの実現が可能に −

2020/09/07

発表のポイント

  • 光変調の性能の尺度となるポッケルス係数が最高値を示す多結晶性セラミックス「完全表面結晶化ガラス」の創製に成功した.
  • 「完全表面結晶化ガラス」は,現行の光ファイバーネットワークとの親和性が高く,安価かつ量産性に優れた光波制御デバイスの創製を将来的に可能とする.

概要

長距離かつ大容量データの送受信システムを支える光通信は,動画や音楽の配信はもとより大規模災害における情報伝達など,私たちの生活にとって必要不可欠です.東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻の藤原 巧教授らの研究グループは,同大学工学研究科技術部の宮崎孝道博士との共同研究により,光通信技術を支える光波制御デバイスの新たな材料となる「完全表面結晶化ガラス」を創製し,光の自在な操作を可能とするポッケルス効果の発現を実証しました.また前駆体となるガラスの成分やナノ組織構造制御により,今回開発した材料のポッケルス係数は,これまで報告されている結晶化ガラスにおいて最高値を達成しました.本研究成果は,現行の光ファイバーネットワークとの親和性が高い,安価かつ量産性に優れた光波制御デバイスの設計・創製を推進するものと期待されます.

本成果は,欧州セラミックス学会(ECerS)の旗艦誌「Journal of the European Ceramic Society」に令和2年8月13日に掲載されました.

研究の背景

ガラスの光ファイバーを伝送媒体とする光通信は,動画や音楽などの大容量データを長距離かつ高速に送受信できることから,私たちの生活において必要不可欠です.情報の源となるレーザー光を自在に操る技術には,レーザー光の色を変化させたり(波長変換),レーザー光の振幅や位相を調節(光変調)したりするデバイスが必須となります.このような波長変換や光変調などの光波制御において,重要な光物性のひとつに 二次の非線形光学効果*1があります.光変調における光波制御はポッケルス効果*2に基づく動作であり,これは非線形光学結晶*3と呼ばれる特殊な物質でのみ発現します.現行の光波制御デバイスには,大きな自発分極*4を有するニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶が使用されていますが,透明かつ大型の単結晶材料の育成には時間を要すこともあり,結果として高コストになるという欠点を持ちます.加えて,情報伝送を担う光ファイバーはランダム構造を有するガラス材料であることから,光波制御デバイスの結晶材料と本質的に構造が異なります.光通信網の長期安定稼働に重要なファイバーとデバイスとの接続整合性の担保の面から,ガラスをベースとする光波制御デバイスの構築が望まれています.

これまでに藤原教授のグループでは,ガラスを結晶化させた多結晶体セラミックスである結晶化ガラスの研究を行ってきました.同グループでは,ケイ酸塩ガラスを熱処理することで,自発分極を有するSr2TiSi2O8結晶が析出した,高い結晶配向性と可視光透過性を具有する「完全表面結晶化ガラス」を開発し,ポッケルス効果の発現に成功しています.従来の結晶化ガラスと比較して,この「完全表面結晶化ガラス」は析出結晶の配向性と体積分率が高い一方,光変調特性に関わるポッケルス係数*5がLiNbO3結晶よりも小さく,この値の向上は応用上重要な課題となっていました.

研究内容の詳細

天然鉱物のフレスノイト(Ba2TiSi2O8)は,チタンと酸素で構成されるピラミッド型TiO5ユニットの整列により自発分極が生じます.前述のSr2TiSi2O8結晶と同様にフレスノイト構造を持ちゲルマニウムを含むBa2TiGe2O8結晶(図1)は,LiNbO3結晶に匹敵する波長変換特性を示すことから,優れたポッケルス効果の発現が期待されます.


図1. フレスノイトの結晶構造.本研究で着目したフレスノイト型Ba2TiGe2O8は,バリウム(Ba)とチタン(Ti),ゲルマニウム(Ge),酸素(O)で構成される化合物で,化学式Ba2TiGe2O8で示される.青色と水色の多面体はそれぞれGeO4四面体とTiO5ピラミッドに相当し,このTiO5が同じ方向へc軸に沿って整列することでポッケルス効果の起源となる自発分極が誘起される.

東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻の岡本晴樹氏(大学院修士課程2年)と寺門信明助教,高橋儀宏准教授,藤原 巧教授らは,同大学工学研究科技術部の宮崎孝道博士との共同研究により,Ba2TiGe2O8結晶が析出した「完全結晶化ガラス」の創製に成功しました.結晶の構成元素の酸化物を含む前駆体ガラスを適切な温度で熱処理を施すことで,自発分極方向への配向性を有する試料が得られました(図2).また,試料中の結晶ドメインは樹状結晶であり,顕微鏡学的研究によりドメイン構造はBa2TiGe2O8結晶および副相としてBaGe4O9結晶が形成し,これまでの「完全表面結晶化ガラス」では見られなかった特異かつ複雑な微細組織であることが判明しました.


図2. 本研究で得られた「完全表面結晶化ガラス」の電子線後方散乱回折による結晶方位解析の結果.逆極点図方位マップ(左図)により,試料表面からBa2TiGe2O8結晶の自発分極方向に相当するc軸への配向が確認された.また極点図(右図)から,Ba2TiGe2O8結晶の樹状構造が見出され,特にc軸に相当する<001>方向へ樹状成長している.

一般に,非線形光学結晶による光変調は,電極間の結晶に電圧を印加することで,ポッケスル効果を介した屈折率変化によって信号光強度や位相を変化させます.本研究において得られた材料を用いて,基本的なポッケルス効果型デバイスを構築しました.信号光であるレーザー光を各種試料に入射し,電圧を印加した結果,明瞭な信号光強度の変化を観測しました(図3).ポッケルス係数の見積もりの結果,r13 = 2.3 pm/V,r33 = 2.5 pm/Vとなり,本研究によりBa2TiGe2O8結晶のポッケルス効果の発現を初めて実証しました.また,幹と枝のような構造を持つ樹状結晶は,それぞれ異なる結晶方位を持つことから,樹状構造の形成を阻止し,副相の形成を抑制することでポッケルス係数の向上が可能であるとの指針が顕微鏡学的観察から得られました.ポッケルス係数のさらなる向上のため,前駆体ガラスの組成設計を実施した結果,37BaO‒15TiO2‒48GeO2組成において,現在の結晶化ガラス材料におけるポッケルス係数の最高値であるr13 = 3.6 pm/V,r33 = 3.3 pm/Vを達成しました(参考資料).


図3. ポッケルス効果による光強度変調の測定結果.完全表面結晶化ガラス試料を電極で挟み込み,光硬化性樹脂により固定した.マッハツェンダー干渉計に測定試料を設置し,レーザー光をTEモード(transverse-electric wave)およびTMモード(transverse-magnetic wave)で入射した際,電圧印加により信号光強度を観測した.光強度が電圧に応じて変調されている.

研究の意義・今後の展望

本研究グループでは,2015年にガラス材料を前駆体とするSr2TiSi2O8結晶が析出した「完全表面結晶化ガラス」のポッケルス効果を報告しましたが,今回の研究では当時の材料の性能を約30%以上回ることに成功しました.またポッケルス効果などの光学物性値は,物質・材料により一意的に決まるというのがこれまでの常識でした.本研究においてガラス材料を前駆体とする「完全表面結晶化ガラス」は,結晶化組織の構造を制御することで,ポッケルス係数を大きく向上させることが可能であることを証明しました.前駆体ガラスの組成設計や結晶化条件のさらなる最適化により,高度に制御可能な光学デバイスの設計・創製が可能となります.さらにガラスは,加工や成形が容易で,安価で量産性に優れることから,本研究の発展により,情報通信分野はもとより,他の光応用分野への利用も期待されます.

用語解説

*1 二次の非線形光学効果

強い光を物質に照射した際,物質内に誘起される分極の大きさが,光の電場の二乗に比例する成分を持つ場合に生じる光学現象.

*2 ポッケルス(Pockels)効果

圧電体や強誘電体など対称中心を持たない結晶において,電場を印加した際に屈折率が電場に比例して変化する現象であり,二次の非線形光学効果に基づく.

*3 非線形光学結晶

非線形光学効果を示す結晶材料であり,一般に圧電体や強誘電体など,対称中心を持たない結晶が利用される.

*4 自発分極

圧電体や強誘電体などの物質における,陽イオンと陰イオンの変位によって発生する分極(電荷の偏り)であり,外部からの電場印加がない場合でも発生する.

*5 ポッケルス係数

ポッケルス効果において,印加電場の大きさと屈折率の変化量を関係づける比例定数に相当する.

論文情報

タイトル: Fresnoite-type Ba2TiGe2O8 glass-ceramics toward electro-optic device: Crystallization structure and Pockels effect (和訳:電気光学素子を指向したフレスノイト型Ba2TiGe2O8結晶化ガラス:結晶化構造とポッケルス効果)
著者: Haruki Okamoto, Yoshihiro Takahashi, Takuma Nakamura, Nobuaki Terakado, Takamichi Miyazaki, Takumi Fujiwara
掲載誌: Journal of the European Ceramic Society 40, 5576‒5581 (2020).
URL: 10.1016/j.jeurceramsoc.2020.06.054

参考資料

雑誌名:公益社団法人日本セラミックス協会 第33回秋季シンポジウム講演予稿集(講演番号3B16)
タイトル:Ba2TiGe2O8完全表面結晶化ガラスにおける顕微鏡学的研究およびPockels効果
著者:岡本晴樹,寺門信明,高橋儀宏,宮崎孝道,藤原 巧

お問合せ先

東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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