令和二年九月 工学部・工学研究科学位授与者への祝辞/Congratulatory Message from Dean of the Graduate School of Engineering(September, 2020)

2020/09/25

本日ここに、学士(工学)の学位を授与された26名の皆さん、修士(工学)の学位を授与された50名の皆さん、博士(工学)の学位を授与された44名の皆さん、誠におめでとうございます。東北大学工学部・工学研究科を代表して、心よりお祝い申し上げます。

自らの目標を達成された皆さんに心より敬意を表するとともに、皆さんを支えてこられたご家族、そして関係者の皆様にもお慶び申し上げます。

本来ならば、皆さんお一人お一人に学位記を直接お渡しし、心からのお祝いを申し上げると共に、これから各界のリーダーとしてご活躍される皆さんを激励したいと切に願っていました。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の拡大が未だ鎮静化せず、やむをえずこのようなメッセージ掲載の形に変えさせていただきますことをお許しください。

さて、皆さんは東北大学での勉学において、知識の継承と新たな知の創造が人類に普遍的概念を植え付け、新たな文化・文明の創出につながることを、身をもって体験されたと思います。特にこの半年間は、コロナ禍による様々な制約の中で学業を修めることも容易ではなかったと思います。教職員一丸となって様々な感染防止対策を講じてきましたが、幸いにして工学部・工学研究科からは感染者は出ていないものの、特に研究・実験を遂行する上では、皆さんには大変なご苦労をおかけしました。そのような困難の中においても、皆さんは工学部・工学研究科が掲げる学習教育到達目標を達成し、本日の学位記授与に至られたわけですから、そのご経験は極めて貴重です。皆さんには、ポストコロナ禍での新たな科学技術の担い手としての期待も高まっているということであります。

皆さんがこれから立ち向かう社会は、ポストコロナ、分断化、環境問題を筆頭格に、世界的規模で多くの困難を抱えています。人類社会、そして地球自体がサステイナブルであることが難しくなってきています。21世紀に入ってから特に顕在化してきたこれらの課題に直面する中で、その解決には科学、工学、そして社会や文化、政策に至るまで、より深い理解が必要です。

工学は人々の生活・社会と科学技術をつなぐ学問であり、地球的規模で様々な課題に直面する今日において、工学が果たすべき役割は益々大きくなってきています。国民や社会が、東北大学で工学を学んだ皆さんに期待していることは、短期間では解決困難な課題、未来の社会を豊かにする課題に対して、長期的ビジョンをもって取り組むことにあると思います。

これまでの皆さんの大学での研究活動は、自らの知的欲求・好奇心に基づき「研ぎすまし、究める」という行為そのものだったと思います。これは皆さん自身の基盤を形成する、言わば「夢の先見」たる過程と位置づけられます。

一方で、社会が解決を望む諸課題に対し、正面から取組み、未来社会への道標を示すには、この「夢の先見」たる個々の基盤研究を柱としながらも、学際的・横断的展開をはかることによって新しい学術分野を創出し、その成果を社会へ橋渡しすることが大切です。社会が抱える課題に対し、何をすべきか、どのような貢献が出来るのかを真剣に考え、研究活動を通じてその道筋を示すことが実学尊重の理念を実践するものであり、東北大学で学んだ皆さんの使命です。

今世紀に入った頃から、世界の情勢も少しずつ変化してきたと感じていたところですが、特にここ1、2年の動きは衝撃的です。宗教やイデオロギーの対立、富の偏在と貧困の拡大、膨れ上がる難民問題など、これまでの地球温暖化や食料・エネルギー問題などとは視点の異なる、新たなグローバル・イシューの顕在化と捉えられるでしょうか。世界では保護主義的な風潮が蔓延し、これまでの国際協調の下での自己犠牲の受容を潔しとせず、自国ファーストの傾向が強くなり、社会全体が寛容さを失いつつあると感じています。加えて新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが世界的な低モビリティ化を招いています。胸襟を開いた真摯な交渉、あるいは研究課題解決のために互いの英知をフル動員した密な議論、そのようなリーダー同士によるFace to Faceの接触が難しくなっており、この先もどの程度まで回復できるのか、見通しは必ずしも鮮明ではありません。

現在の世界情勢は80~90年前の昭和初期の頃に似ている、という話を聞きます。世界恐慌ともいわれた経済危機の中で、次第にナショナリズムが台頭し、やがて破局的な戦争へと向かった時代でした。結局は、当時の人々がゆとりを失った中で包容力、寛容さを忘れ、自己利益の追求へと突き進んでしまったのだと思います。

他方で、この時代は学術研究が大きく花開いた時期でもありました。量子力学の登場と成熟によって現代物理学の根幹が整い、後のエレクトロニクス産業創生に関わる固体物性論の基礎や、化学結合論などが次々と確立されていきました。当時の学界は、まさに国境の無い、科学者の楽園として自由な議論につつまれていたことでしょう。そこでは互いに自らの学説、主張をぶつけ合い、そして批判し合いながらも、最後には皆が納得のいく検証を経て、普遍の真理の体系を築いていったのです。

私は、学術研究、科学技術に携わる人間こそ、大きな包容力、寛容さが必要だと思います。多様性を理解し、冒険を認め、失敗を許し、次なるチャレンジを支援するからこそ新しい創造が生まれるのです。不寛容の時代と言われる世の中にあっても、未来を開拓する使命をもって、創造の源泉としての東北大学工学部・工学研究科の伝統、DNAを受け継いでいっていただきたいと願います。

 

皆さんは、最先端の学術研究の世界に自ら身をおく中で、複雑な現象の中にも一筋の真理があることを見出し、またそこに至る過程において、様々な研究の方法論、多様な考え方があることを学ばれたと思います。対面するさまざまな課題の解決に当たって、豊かな学識・教養はもちろんのこと、一筋の真理を見つけ出すことへの意志の強さ、多様なアプローチを粘り強く試みる努力が最も大切なものであり、それこそが今まさに皆さんが体得し、これからの世の中で実践してゆくものであります。

ここ、東北大学工学部・工学研究科で学んだ誇りと自信を胸に、これからのニューノーマル時代において、未来への挑戦を力強く牽引していっていただきたいと願っております。

For foreign students, I would like to give you my sincere celebration for your graduation.
As you have experienced, the impact of the novel coronavirus which is sweeping the world is also affecting us here in Sendai and it has imposed on students, as well as on faculties, unforeseen, difficult, and inconvenient ways of going about their studies and research activities. It is a terribly unfortunate situation; however, the virus will not spread forever. It will come to an end, and university life will return to normal. I hope that everyone takes sufficient care and stays in good health in preparation for that day. In spite of many problems caused by the COVID-19, you could overcome such difficulties and reach at the goal our education program. Congratulation again. From today, you are the member of alumni, the School of Engineering, Tohoku University. You should be very proud of this fact and your strong DNA given by Tohoku University.
I am delighted to express my sincere congratulations on your achievements in the Undergraduate and Graduate Schools. On behalf of the faculty members and stuffs of the school of Engineering, I would like to address a few words.
As you know, engineering is a field of learning, that links daily life and society with science and technology; and it plays an ever-increasing role, in addressing various issues that we face today on a global scale. Now the world faces many problems actually. The challenges facing the world are quite complicated and the solutions are required urgently. Technology is, broadly speaking, the use of knowledge to improve society, and it is clear that scientists and engineers must play a leading role in meeting New Normal.
So we should bring together to discuss these challenges, share our knowledge, and promote innovation to help deliver solutions.
As you put forth a vision of a prosperous, future society, pool your wisdom, to identify issues that must be resolved, so that you may fulfill your responsibilities to society, and carry out your mission.
Finally, I wish to express my hearty congratulations once again, and wish you all the best in the future. I am sure you will be a great leader. If you will have a problem, please don’t hesitate to come back to Aobayama campus and ask the school to help you.

東北大学 工学研究科長・工学部長

9/25/2020
工学部長・工学研究科長 長坂 徹也
Dean, the School of Engineering
Prof. Nagasaka Tetsuya

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