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磁気ノズルを用いた無電極プラズマ推進機の開発 ~宇宙プラズマ推進機の開発・性能向上につながる大きな知見~

2020/10/28

発表のポイント

  • 磁気ノズル中で膨張するプラズマの電子冷却過程を熱力学のアナロジーで説明することに成功.
  • 電子の熱エネルギーが磁気ノズルの機械エネルギーへと変換されることを明らかにした.
  • プラズマの拡散過程により変換効率が変化することを明らかにした.
  • 磁気ノズルを用いた無電極プラズマ推進機の性能向上への大きな知見が得られた.

概要

宇宙空間における大電力推進機の方式として,磁気ノズルを用いた無電極プラズマ推進機の実現が期待されています.

東北大学 大学院工学研究科 高橋和貴准教授,オーストラリア国立大学 Christine Charles 教授,Rod W Boswell教授の国際共同研究グループは,発散する磁場構造(磁気ノズル)中で膨張するプラズマから電場を排除することにより,電子が磁気ノズルのみと相互作用する系を構築し,磁気ノズル中の電子の熱力学的特性を詳細に計測することに成功しました. その結果,電子の内部エネルギーが磁気ノズル構造の機械エネルギーへと変換されることを明らかにし,電子の磁力線を横切る拡散過程がその変換効率に大きく影響することを示しました. 上記の成果は,同研究グループが開発を進めている宇宙推進エンジン,無電極プラズマ推進機の高性能化に大きく寄与することが期待されます.

本研究成果は,2020 年 10月16日にPhysical Review Letters (American Physical Society)に掲載されました.


(左)電子ビーム型プラズマ実験装置 (右)無電極プラズマ推進機の作動の様子

研究の背景と詳細

磁気ノズルを用いた無電極プラズマ推進機は,宇宙空間における大電力推進機として期待される方式の一つであり,高周波プラズマ源で電離した燃料ガスの磁気ノズル中での自発的加速を経て,高速で宇宙空間へと噴射することで推力を得る方式です (図1). この方式はヘリコン波放電による高密度プラズマ生成を利用するため,ヘリコンスラスタとも呼ばれており,近年その研究開発が多くの研究機関で実施されております. 従来の推進機ではプラズマ生成・加速に用いる電極の損傷が問題となりますが,当該方式ではプラズマと接触する金属電極がなく,大電力作動においても推進機の長寿命化が期待されています. この方式の推力計測は,2011年に高橋准教授 (当時高橋准教授は岩手大学・オーストラリア国立大学所属),Charles教授,Boswell教授らのグループ によって実施され[1],磁気ノズルによる推力発生の実証[2],高エネルギー電子による加速イオンの自発的中和現象[3], 外部磁場の効果[4],推力損失機構[5,6],磁力線伸長現象[7]などに関して詳細を調べ,多くの物理現象を明らかにしてきました. また近年では,宇宙ゴミの除去にも適用できる可能性があることが示されており,その室内原理実証も進められています[8]. また,基礎物理研究の知見を基盤として,推進機の高性能化も進めてきました[9].

この方式では,高周波電力は主にプラズマ中の電子を加熱し,エネルギーの大部分は電子へと吸収されます. したがって,電子エネルギーがどのように推進機の機械エネルギーへと変換されるのかを理解することで,今後の推進機の高性能化が進むと期待されます. 一方で室内実験においては,真空容器壁面においてシースと呼ばれる電位構造が形成され電子がシステム内に捕捉されるため,磁気ノズルと電子の相互作用のみを実験的に調べることができませんでした. この課題に対して高橋准教授,Charles教授,Boswell教授は議論を重ね,電子ビーム源を用いたユニークなプラズマ発生装置を開発し,システム内から電場を排除することに成功し,電子流が断熱膨張を示すことを明らかにしてきました (図2)[10].


図1 無電極磁気ノズルプラズマ推進機に関する代表的な物理現象と成果

図2 実験装置概略図

成果

今回,高橋准教授,Charles教授,Boswell教授は,図2の電子ビーム型プラズマ発生装置(東北大学)を用いて,システムから電場を排除した条件化において外部磁場強度を変化させた際の電子エネルギー分布関数の高精度計測を実施し,ポリトロープ指数の評価を行うことで熱力学の観点から膨張の際のエネルギー授受を議論しました. ここで,ポリトロープ指数は,γ=1 の際は周囲とのエネルギー授受が無く等温膨張,γ=5/3の際は断熱膨張の過程で周囲に仕事し冷却される状態を示しています. 外部磁場が弱い条件下ではポリトロープ指数が γ=1へと近づき,磁場強度が大きい場合には γ=5/3へと近づくことが観測されました(図3). これは,磁場強度が十分に強い条件下では,電子流体によって推力が発生し磁気ノズルへ仕事をすることで,電子の内部エネルギーが減少していることを示しています. 一方で磁場強度が弱い場合には磁気ノズルと電子は相互作用をせず,磁気ノズルへ与えられる仕事量も減少することが明らかになりました. この現象に関して,プラズマ詳細計測により,磁力線を横切る拡散過程がこの電子膨張の熱力学特性を決定していることを明らかにしました.

本研究成果は,2020 年 10月16日に,Physical Review Letters (American Physical Society)のオンライン版に掲載されました.


図3 ポリトロープ指数γの評価結果

論文情報

題目: Thermodynamic analogy for electrons interacting with a magnetic nozzle
著者: Kazunori Takahashi, Christine Charles, Rod W. Boswell, and Akira Ando
掲載誌: Physical Review Letters, 125, 165001 (2020).
DOI: 10.1103/PhysRevLett.125.165001
URL: https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.125.165001

参考文献

[1] K Takahashi, T Lafleur, C Charles, P Alexander, RW Boswell, M Perren, R Laine, S Pottinger, V Lappas, T Harle, D Lamprou, ‘Direct thrust measurement of a permanent magnet helicon double layer thruster’, Applied Physics Letters, 98, 141503 (2011).

[2] K Takahashi, T Lafleur, C Charles, P Alexander, RW Boswell, ‘Electron diamagnetic effect on axial force in an expanding plasma: experiments and theory’, Physical Review Letters, 107, 235001 (2011).

[3] K Takahashi, C Charles, RW Boswell, T Fujiwara, ‘Electron energy distribution of a current-free double layer: Druybesteyn theory and experiments’, Physical Review Letters, 107, 035002 (2011).

[4] K Takahashi, C Charles, RW Boswell, ‘Approaching the theoretical limit of diamagnetic-induced momentum in a rapidly diverging magnetic nozzle’, Physical Review Letters, 110, 195003 (2013).

[5] K Takahashi, A Chiba, A Komuro, A Ando, ‘Axial momentum lost to a lateral wall of a helicon plasma source’, Physical Review Letters, 114, 195001 (2015).

[6] K Takahashi, T Sugawara, A Ando, ‘Spatially-and vector-resolved momentum flux lost to a wall in a magnetic nozzle rf plasma thruster’, Scientific Reports, 10, 1061 (2020).

[7] K Takahashi and A Ando, ‘Laboratory observation of a plasma-flow-state transition from diverging to stretching a magnetic nozzle’, Physical Review Letters, 118, 225002 (2017).

[8] K Takahashi, C Charles, RW Boswell, A Ando, ‘Demonstrating a new technology for space debris removal using a bi-directional plasma thruster’, Scientific Reports, 8, 14417 (2018).

[9] K Takahashi, ‘Helicon-type radiofrequency plasma thrusters and magnetic plasma nozzles’, Reviews of Modern Plasma Physics, 3, 3-1 – 3-61 (2019).

[10] K Takahashi, C Charles, R Boswell, A Ando, ‘Adiabatic expansion of electron gas in a magnetic nozzle’, Physical Review Letters, 120, 045001 (2018).

お問合せ先

東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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