精子は助け合って卵子を目指す
~不妊治療へつながる精子の協調運動を解明~
2020/11/17
発表のポイント
- 精子が複数集まることで、物理相互作用によって速く効率的に泳げることを発見
- 精子数が少ない精液でも協調遊泳効果で精子運動を高めることができる
- 協調遊泳効果を利用することで、男性不妊に対する治療が期待できる
概要
不妊に悩むカップルの約50%は男性側に原因があり、男性由来の不妊(男性不妊症)の検査、治療の重要性が近年増してきています。東北大学大学院工学研究科の生体流体力学分野 大森俊宏助教、石川拓司教授らのグループは、精子と精子の間に働く流体相互作用の解析を行い、精子が互いに助け合って泳ぐ、協調遊泳の効果を明らかにしました。これは、精子自身が作る「流れ」を介して、互いに遊泳を高め合うことを初めて明らかにした重要な報告です。卵子へと続く長い旅路を、早く確実に走破するメカニズムを示す研究結果となります。本研究によって、精子運動に関する物理的な理解が進み、男性不妊症に対する治療に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2020年10月1日付で米国物理学協会Physics of Fluids誌に掲載されました。
研究内容
背景
不妊に悩むカップルの約50%は男性側に原因があり、男性由来の不妊(男性不妊症)の検査、治療の重要性が近年増してきています。男性不妊の原因は様々ありますが、精子の数が少ない事で不妊につながる乏精子症があります。乏精子症の状態では、運動性は良好でも精子数が少ないことで受精の確率が減るものと考えられていますが、今回、精子の数が精子の運動性にも影響を与えることを明らかにしました。
本文
東北大学大学院工学研究科生体流体力学分野の大森俊宏助教、石川拓司教授、医工学研究科の竹歳七海博士後期課程学生のグループは、運動する精子と精子の間に働く流体相互作用を、力学法則に基づくシミュレーションによって解析を行い、精子が集団化することで遊泳速度、効率が高まる協調遊泳の効果を明らかにしました。精子が泳ぐことで作られる「液体の流れ」が、他の精子の運動を後押しする形となり、精子が多数いる時の方が早く、効率的に泳ぐ事が出来ることが分かりました。精子は受精を達成するために、体長の約3000倍もの距離を泳ぐ必要があり、このような協調遊泳の効果は、長距離を早く確実に泳ぎ切るのに重要で、受精を達成する自然のメカニズムを表しています。
これらの結果は、精子数が少ない状態でも密度が高まれば得られる効果であり、運動性が良好で数が少ない乏精子症患者の精液でも、通常の精子運動の状態へと引き上げられる可能性があります。協調遊泳を利用して精子運動を高めることで、男性不妊に対する治療の効果が期待できます。
結論
本研究によって精子の遊泳の物理的な理解が進み、精子数の遊泳効果が解明されたことで、今後、乏精子症患者における不妊治療法の開発がさらに進むことが期待されます。
付記
本研究は、文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて行われました。
論文情報
Authors: Nanami Taketoshi, Toshihiro Omori, and Takuji Ishikawa
著者名: 竹歳七海、大森俊宏、石川拓司
DOI: https://doi.org/10.1063/5.0022107