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熱を伝えにくい単結晶で電気を流しやすくすることに成功 ~マグネシウム錫化合物単結晶の熱電変換性能が50倍に~

2020/12/24

発表のポイント

  • 多結晶より熱を伝えにくいマグネシウム錫化合物※1の単結晶に、電気伝導キャリアを導入することで多結晶より電気を流しやすくすることに成功した。
  • マグネシウム錫化合物単結晶の熱電変換性能は50倍向上し、単結晶に点欠陥と電気伝導キャリアを導入することが高性能化の鍵であることを明らかにした。

概要

低炭素社会実現のため、熱電変換材料による発電が注目されています。熱電変換材料は熱エネルギーから発電できる材料です。これまでの研究で、多結晶より熱伝導率が低いマグネシウム錫化合物単結晶の作製には成功していましたが[1]、熱電変換性能を左右する電気伝導率が低いことが課題として残っていました。

東北大学大学院工学研究科 応用物理学専攻の齋藤 亘氏(博士後期課程学生)、黄 志成氏(博士後期課程学生)、林 慶准教授および宮﨑 讓教授は、清華大学(中国)の李 敬锋教授の研究グループと共同研究を行い、熱電変換材料として注目されているマグネシウム錫化合物の単結晶の熱電性能を50倍向上させることに成功しました。これにより、熱エネルギーを電力に変換するエネルギーハーベスティング※2の実現にまた一歩近づきました。

本研究成果は、米国化学会発行の科学誌 ACS Applied Materials & Interfacesに2020年12月15日に掲載されました。

[1] 東北大学プレスリリース,2020年2月25日

背景

熱電変換材料は、熱エネルギーを利用したエネルギーハーベスティング材料として期待されています。熱電変換材料の両端に温度差をつけると、ゼーベック効果によって起電力が生じ、電流が流れます。発電の際、ガスの排出や振動・騒音の発生がないため、クリーンで生活環境への影響がありません。熱電変換材料を使ったエネルギーハーベスティングを実現するには、熱電変換材料のゼーベック係数※3と電気伝導率を高く、熱伝導率を低くして、熱電変換性能を向上させる必要があります。

東北大学大学院工学研究科 応用物理学専攻の齋藤 亘氏(博士後期課程学生)、黄 志成氏(博士後期課程学生)、林 慶准教授および宮﨑 讓教授は、清華大学(中国)の李 敬锋教授の研究グループとのこれまでの共同研究で、アルゴン圧力下で作製したマグネシウム錫化合物の単結晶にマグネシウムの空孔欠陥※4が存在することを明らかにしました。アルゴン圧力を高くするほど空孔欠陥の量が増加し、ゼーベック係数と電気伝導率がほとんど低下しないのに対し、熱伝導率は顕著に低くなり、多結晶よりも低い熱伝導率を達成しました。また、空孔欠陥は数~数10ナノメートルの大きさの空孔欠陥領域を形成しており、空孔欠陥が存在しない単結晶領域と空孔欠陥領域の界面は半整合界面※5であることもわかりました(図1)。半整合界面は電気伝導と熱伝導を妨げる効果が小さいことから、空孔欠陥自体が熱伝導率を低くする効果をもっていると言えます[1]。


図1 マグネシウム錫化合物単結晶に含まれる単結晶領域と空孔欠陥領域

この成果により、マグネシウム錫化合物単結晶で熱伝導率を低くすることができましたが、マグネシウム錫化合物は半導体なので電気伝導キャリアの量が少なく、電気伝導率が低いことが課題として残っていました。そこで、空孔欠陥を導入することで熱伝導率を低くするとともに、電気伝導キャリアを導入して電気伝導率を高くすることができれば、マグネシウム錫化合物単結晶の熱電変換性能を向上させることができると考え、継続して共同研究を行ってきました。

研究内容

本研究では、マグネシウム錫化合物単結晶に電気伝導キャリアとして電子を導入することにしました。これまで、マグネシウム錫化合物の多結晶で、錫をアンチモンで部分的に置換すると電子が増加することが報告されていたことから、アンチモンで部分置換したマグネシウム錫化合物単結晶を作製しました。部分置換した単結晶には空孔欠陥が存在し、部分置換によって電子の量が増えることを確認しました。ただし、アンチモンの量を増やすと空孔欠陥の量は減っていくことがわかりました(図2)。また、部分置換した単結晶にも空孔欠陥領域が存在し、単結晶領域と半整合界面を作っていることがわかりました。


図2 アンチモン置換量と空孔欠陥量の関係

次に、アンチモンで部分置換したマグネシウム錫化合物単結晶のゼーベック係数、電気伝導率、熱伝導率を調べました。図3に、650 Kにおける測定値と、マグネシウム錫化合物の無置換単結晶とアンチモンで部分置換した多結晶との比較を示します。マグネシウム錫化合物単結晶の電気伝導率とゼーベック係数は、部分置換することによって高くなりました。特に、電気伝導率は部分置換した多結晶よりも高くなっています。これは、多結晶では結晶同士の界面で電気伝導が妨げられるのに対し、単結晶ではそのような界面がないことが原因です。マグネシウム錫化合物単結晶の熱伝導率は、部分置換によって低くなり、さらに多結晶と比較しても低いことが明らかになりました。


図3 650Kにおける、単結晶と多結晶のマグネシウム錫化合物のゼーベック係数、電気伝導率、熱伝導率の比較

熱電変換材料の性能は無次元性能指数zT※6を用いて評価されます。図4に、アンチモンで部分置換したマグネシウム錫化合物単結晶のzTと、マグネシウム錫化合物の無置換単結晶とアンチモンで部分置換した多結晶との比較を示します。マグネシウム錫化合物単結晶のzTは、部分置換によって50倍向上し、650 KでzT = 0.72となりました。この値は部分置換した多結晶よりも高いことから、マグネシウム錫化合物単結晶は熱電変換材料として有望であるといえます。


図4 650Kにおける、単結晶と多結晶のマグネシウム錫化合物のzTの比較

今後の展望

空孔欠陥が存在するマグネシウム錫化合物単結晶に電子を導入することで、高い熱電変換性能を得ることができましたが、空孔欠陥の量は減っています。また、マグネシウム錫化合物単結晶を使ったエネルギーハーベスティングを実現するには、ホールを導入したマグネシウム錫化合物単結晶でも、高い熱電変換性能を得る必要があります。さまざまな元素で部分置換を行って、空孔欠陥と電気伝導キャリアの量を最大化する方法を確立することができれば、マグネシウム錫化合物単結晶を使ったエネルギーハーベスティングが現実のものになると期待されます。

なお、本研究の一部は、2020年度 東北大学-清華大学共同研究ファンド(配分機関:東北大学)と東北大学-住友金属鉱山株式会社ビジョン共創型パートナーシップ(配分機関:住友金属鉱山株式会社)の支援のもとで行われました。

用語解説

※1 マグネシウム錫化合物

MgとSnがモル比2:1で化合した物質を指す。

※2 エネルギーハーベスティング

身の周りのエネルギーから電力を得る発電技術の総称。

※3 ゼーベック係数

温度差1˚ C あたりの起電力を指す。

※4 空孔欠陥

物質固有の欠陥の一種。原子の周期的な配列の隙間に原子が侵入することを格子間欠陥、原子が欠損することを空孔欠陥と呼ぶ。

※5 半整合界面

2つの結晶が接している界面において、各々の結晶の原子の配列が部分的に一致している場合を、半整合界面という。

※6 無次元性能指数zT

zT = (ゼーベック係数)2×電気伝導率×絶対温度÷熱伝導率 で求められる。zTが高いほど熱電変換効率が高くなることから、熱電変換材料の開発においては、ゼーベック係数と電気伝導率を高く、熱伝導率を低くすることが求められる。

論文情報

タイトル: Enhancing the Thermoelectric Performance of Mg2Sn Single Crystals via Point Defect Engineering and Sb Doping
(和訳: 点欠陥エンジニアリングとSbドーピングによるMg2Sn単結晶の熱電変換性能の向上)
著者: Wataru Saito, Kei Hayashi, Zhicheng Huang, Jinfeng Dong, Jing-Feng Li & Yuzuru Miyazaki
掲載誌: ACS Applied Materials & Interfaces, (first online).
DOI: 10.1021/acsami.0c17462
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsami.0c17462

お問合せ先

東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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