強力な酸化・ニトロ化剤 五酸化二窒素を空気から電気的に合成することに成功

~五酸化二窒素を、より身近なツールに~

2021/01/05

発表のポイント

  • 合成・保存に関する高度な知識・設備が必要なため活用されてこなかった五酸化二窒素(N2O5注1を選択的に高濃度(約200 ppm)合成するポータブルプラズマ装置の開発に成功
  • 空気と数十Wの電力さえあれば、あらゆる場所で、スイッチ一つでN2O5を生成・供給可能
  • 多方面(殺菌、ウイルス不活化、植物活性化、治療等)でのN2O5応用展開が期待できる

概要

無水硝酸とも呼ばれる五酸化二窒素(N2O5)は、強力な反応性を有することから殺菌や治療、医薬品合成、材料合成などへの活用が期待されています。しかし、従来の合成法・保管には高度な設備と繊細な取り扱いが要求されるため、多くの研究者や人々にとって利用が困難でした。

東北大学 大学院工学研究科 電子工学専攻の佐々木 渉太 助教、髙島 圭介助教、金子 俊郎 教授は、空気からN2O5を選択的に合成するプラズマ装置の開発に成功しました(図1)。この装置は、空気と数十Wの電力さえあれば動作可能なため、異分野の研究者をはじめとして、より多くの人々にN2O5を提供可能です。これを皮切りに、生物や材料に対するN2O5の作用が研究され始めるともに、多方面でのN2O5応用展開が期待されます。研究成果は、2020年12月22日にIndustrial & Engineering Chemistry Research誌のオンライン版で公開されました。


図1.空気からN2O5を電気的合成

1.研究背景

N2O5は、強力な酸化・ニトロ化能を有しており、これまで主に有機合成化学分野で使用されてきました。その高反応性から、殺菌や治療、医薬品合成、材料合成などへの応用が期待されていますが、従来合成法や保管における様々な制約(例:強酸条件(pH < 1)、激しい発熱反応を扱う設備、大量強酸処理設備、高真空設備、耐爆設備などが必要)のため、広く研究・利用されることはありませんでした。特に、生物(動物・植物・菌類)やウイルスに対するN2O5の作用を調べた研究例は極めて少ないのが現状です。

従って、誰もが簡単・安全にN2O5を生成・利用可能な方法が開発できれば、N2O5の研究が一気に加速するとともに、多方面における応用展開・産業開発が期待されます。

2.研究内容及び本成果の意義

本研究では、誘電体バリア放電注2を用いた、ガス温度が異なる2つのプラズマ反応器を組み合わせて使用することで、空気からN2O5を合成しました(図2)。高温プラズマ反応器では、主にNO・NO2注3 を生成し、低温プラズマ反応器ではO3注4を生成するように設計されています。このNO・NO2とO3を、最適条件で混合することで、他の活性種に比べ10倍以上高い密度を持つN2O5を合成することに成功しました(図3)。さらに、図3に示すように、簡単なスイッチ制御により、NO・NO2、あるいはO3を選択的に供給することも可能となっています。

今回開発した装置は、空気とわずか数十W程度の電力で動作可能であるため、太陽電池等の再生可能エネルギーを使用すれば、空気という無尽蔵資源から持続的にN2O5などの活性種を供給することが可能です。また、従来法に不可欠であった高度な設備を必要とせず、スイッチ1つで合成可能なため、異分野の研究者をはじめとして、多くの人々がN2O5を活用できるようになります。この開発により、N2O5に関する研究が加速することで、今まで未知・未探索であった新しいN2O5の作用が見つかることが期待されます。

支援:この研究は、新領域創成のための挑戦研究デュオ~Frontier Research in Duo(FRiD)~、文部科学省科学研究費補助金・基金、プラズマバイオコンソーシアムの支援を受けて行われました。


図2 (a) N2O5合成法の概略図。プラズマモジュールの(b)正面・(c)内部写真。

図3 プラズマ反応器のON/OFFスイッチングによる供給ガス組成制御。

論文情報

Title: Portable plasma device for electric N2O5 production from air
Authors: Shota Sasaki, Keisuke Takashima, and Toshiro Kaneko
タイトル: 空気からN2O5を電気的合成する可搬プラズマ装置
著者: 佐々木 渉太、髙島 圭介、金子 俊郎
雑誌名: Industrial & Engineering Chemistry Research
DOI: 10.1021/acs.iecr.0c04915
URL: https://www.doi.org/10.1021/acs.iecr.0c04915

用語説明

注1 五酸化二窒素(N2O5

酸素・窒素原子のみから構成される分子であり、無水硝酸とも呼ばれる。常温では無色で吸湿性のイオン結晶である。液相中で、強い酸化・ニトロ化能を有するニトロニウムイオン(NO2+)を一時的に生じる。

注2 誘電体バリア放電

電極間に誘電体(絶縁体)を挿入し、気体に交流電圧を印加して、放電させる(プラズマを生成する)方式である。大気圧下にて、電子温度は高く(反応性は高く)、ガス温度を低く抑制した(消費電力を抑制した)非平衡プラズマを容易に生成できる。真空装置などの設備が不要で、電極消耗も少なく(メンテナンスフリーで)、体積的な着火が可能という特徴を有する。

注3 窒素酸化物(NOx

酸素・窒素原子のみから構成される分子であり、NOx(ノックス)と呼ばれることが多い。自然界においては、雷や土壌中の微生物によって生成されることが知られている。高い生物活性効果を持つものが多く、特に一酸化窒素(NO)は、生体内で積極的(恒常的)に産生され、血管拡張に限らず、様々な生理作用に深く関連していることが知られている。(1998年 ノーベル医学・生理学賞)

注4 オゾン(O3

3つの酸素原子からなる酸素の同素体である。強い酸化力と生臭く特徴的な刺激臭を持つ有毒な気体として知られている。殺菌やウイルスの不活化、脱臭・脱色、有機物の除去などに効果を発揮することから、多方面で応用されている。

お問合せ先

東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
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