細胞の呼吸を発光として捉える新規イメージング
- 電極表面の酸素濃度分布を光に変換 -
2021/03/15
発表のポイント
- 電極反応により酸素濃度を光に変換する技術で、細胞組織の酸素呼吸イメージングに成功
- 汎用デジタルカメラで複数の細胞組織の同時評価を実現
- 再生医療、創薬における細胞ソースの新規評価手法として期待
概要
3次元的に培養した細胞(スフェロイド)が生体内の組織モデルとして注目されています。東北大学大学院環境科学研究科の平本薫氏(日本学術振興会特別研究員)、大学院工学研究科の伊野浩介准教授、珠玖仁教授らのグループは、スフェロイドの酸素呼吸を可視化する電気化学発光>*システムを開発しました。電圧印加により酸素濃度を発光現象に変換することで、生きたスフェロイドの呼吸活性を直接イメージングすることに成功しました(図1)。本システムは、簡便な操作で複数の細胞組織の同時評価を実現し、臨床現場への展開が期待されます。
本研究成果は、バイオセンサ分野におけるトップジャーナルである「Biosensors and Bioelectronics」に3月12日付で掲載されました。
電気化学発光: 電極反応によって発光物質が励起されて生じる溶液-電極界面の発光現象
研究の背景
3次元的に培養した細胞(スフェロイド)が生体内の組織モデルとして注目されています。スフェロイドの呼吸量を測定することで、移植の際の活性評価や薬剤の効能評価への利用が期待されます。これまで、スフェロイドの呼吸測定法として電気化学計測や蛍光観察法が用いられてきました。電気化学計測は解像度がセンサ電極のサイズと数(あるいは測定回数)に依存するため、高解像度で広領域のセンシングを行うことに限界がありました。一方、蛍光観察法は生化学分野で幅広く用いられていますが、蛍光物質を励起するための専用の光源が必要でした。そこで、スフェロイド等の生体組織モデルの活性を、高分解能で、速やかにかつ簡便に測定するシステムが求められています。
本研究では、電気化学発光を利用して、1枚の電極基板上で溶液中の酸素濃度分布を可視化するシステムを開発しました。電気化学発光は、電極に電圧をかけることにより発光物質を励起し、後続の発光反応を検出する手法です。発光物質としてルミノール誘導体を用い、二段階の電圧を印加することにより溶液中の酸素濃度に応じてルミノール誘導体の発光強度が変わるシステムを構築しました。
スフェロイド等の生体組織モデルは、培養液中の酸素を消費する(呼吸する)ことで活性を維持しています。本研究では軟骨組織モデルのスフェロイドを作製し、スフェロイド周辺の酸素濃度分布を発光現象に変換することで、その呼吸活性をイメージングしました(図1A)。
本システムでは汎用のデジタルカメラによる検出でも十分な発光輝度が得られ、電極基板上に配置した複数のスフェロイドの個別の呼吸活性を、カメラのワンショット撮影で捉えることが可能となりました(図1B)。また、発光反応が電圧を印加している間に限られるため、任意のタイミングで継続的にスフェロイドの呼吸活性をモニタリングすることに成功しました。
今後の展望
本手法は、1枚の電極上でスフェロイドの呼吸活性を発光反応として直接イメージングできる新しい評価手法です。シンプルな装置構成で発光制御のフレキシビリティを合わせもつ本システムの臨床応用が期待されます。
論文情報
著者: Kaoru Hiramoto1, Kosuke Ino2, *, Keika Komatsu1, Yuji Nashimoto2, 3, and Hitoshi Shiku2, *
掲載誌: Biosensors and Bioelectronics
URL: 10.1016/j.bios.2021.113123