外部刺激に応答可能な極薄の多孔質薄膜材料の開発

~イオン選択性をもったスマートマテリアル~

2021/05/10

【本学研究者情報】
〇本学代表者所属・職・氏名:大学院工学研究科応用化学専攻・教授・三ツ石 方也
研究室ウェブサイト

発表のポイント

  • わずか8ナノメートル(nm: 1メートルの10億分の1)の厚みをもった多孔質薄膜表面を外部刺激に対して応答可能な分子で均一に覆うことに成功した。
  • 溶液pH(注1)を調整することで多孔質薄膜表面の電荷に応じてイオン透過性を制御することに成功した。
  • 極めて薄い膜厚と制御された表面特性を生かした高効率な分離膜や電気化学センサ材料のための選択層としての応用が期待される。

概要

高い選択性をもった分離膜やセンサ材料の開発には、選択層としてはたらく多孔質薄膜材料の構造や表面特性をnmまたは分子スケールで制御することが求められます。今回、東北大学の石﨑裕也博士研究員、山本俊介助教、三ツ石方也教授らの研究グループは、かご型シルセスキオキサン(注2)を有する高分子薄膜を用いることで、わずか8 nmの膜厚を持ち、細孔サイズを数nmスケールで制御可能な多孔質SiO2超薄膜の作製に成功しました。さらに、得られた多孔質SiO2超薄膜の表面を外部刺激(pH)に対して応答可能な分子で均一に覆うことで、プラスやマイナスといった電荷を帯びたイオンの透過性を、外部のpHに応じで制御することに成功しました(図1)。本研究の成果は極めて薄い膜厚と制御された表面特性を生かした高効率な分離膜や電気化学センサ材料のための選択層としての応用が期待されます。

本研究成果は2021年4月26日(米国時間)に米国化学会発行の科学誌「Langmuir」でオンライン公開され、Supplementary Coverにも選出されました。


図1 今回開発した外部刺激に応答可能な多孔質SiO2超薄膜のイオン透過性制御の様子を表した模式図。表面修飾していない多孔質SiO2超薄膜を用いた場合では、溶液pHを変化させてもイオンの透過性に変化が見られない(左図●印)。一方、表面修飾したものについては、低pH条件(酸性)下において、陰イオンのみを選択的に膜内に透過させることができる(左図▲印と右図)。

詳細な説明

多孔質薄膜材料は、分離膜やセンサ、触媒、エネルギー貯蔵・変換材料など幅広い分野への応用が期待されることから、特に近年、活発に研究がなされています。優れた機能を有する多孔質薄膜材料の開発には多孔質薄膜材料のナノ構造(膜厚・多孔度・細孔サイズなど)や表面特性(表面濡れ性・表面電荷など)をnmまたは分子スケールで同時に制御することが求められます。特に、多孔質薄膜材料の細孔サイズや表面特性は分子の選択性に、膜厚や多孔度は分子の透過性に大きな影響を与えることが知られています。これまでに、多孔質薄膜材料の表面を、光や熱、pHといった外部からの刺激に応答できる分子で修飾した機能性の多孔質薄膜材料が報告されてきましたが、極めて薄い(10 nm以下)膜厚をもった応答性の多孔質薄膜材料はほとんどありませんでした。

そこで本研究グループは、まずnmスケールで構造制御された多孔質薄膜材料を作製するために、かご型シルセスキオキサンを有する高分子薄膜に注目しました。この高分子薄膜は、Langmuir–Blodgett法(注3)と呼ばれる手法を用いて製膜されるため、膜厚を分子スケールで制御することができる点や、室温・酸素雰囲気下といった非常に温和な条件下において紫外光を照射するだけで、nmスケールで構造制御された多孔質SiO2薄膜を作製することができるといった利点を持っています。本研究成果では、このようにして得られた多孔質SiO2超薄膜の表面を、アミノ基(注4)を有するpH応答性のシランカップリング剤(注5)で均一に覆うことで、極めて薄い膜厚を持った応答性の多孔質薄膜材料を開発することに成功しました。得られた応答性の多孔質薄膜材料は、溶液のpHに応じて膜表面の電荷を自在に調整することができ、これらの特性を活かすことで、多孔質薄膜表面の電荷に応じて特定のイオンを選択的に透過させることに成功しました(図1)。

今後は、温度や光といったその他の外部刺激にも焦点をあて、極めて薄い膜厚と制御された表面特性を生かした高効率な分離膜や電気化学センサ材料への応用を目指して研究を展開していく予定です。

用語解説

(注1) pH

水溶液中の水素イオン濃度を表す指標。pH = –log[H+]で定義され、pHが1変化すると水素イオン濃度が10倍(または1/10)になる。pHが小さくなるほど酸性、大きくなるほどアルカリ性となる。

(注2) かご型シルセスキオキサン

化学式(RSiO1.5)nで定義されるかご型構造をした分子で、Si–O結合からなる無機コアとRで表される有機置換基から形成される。ハイブリッド材料の一種で、置換基Rに応じた広い設計自由度によって、様々な材料に組み込むことができ、有機物の持つ柔軟性や透明性と無機物のもつ耐久性を同時に実現することができる。

(注3) Langmuir–Blodgett (LB)法

開発者であるIrving Langmuir博士とKatharine Blodgett博士の名前にちなんでLangmuir–Blodgett (LB)法と呼ばれる。クロロホルムなどの適切な有機溶媒に溶かした両親媒性(高)分子を水面上に広げると、水面上に単分子膜(Langmuir膜)が形成される。そこに固体基板を垂直に浸漬することで、水面上単分子膜を固体基板上に一層ずつ写し取る手法。得られた膜はLB膜と呼ばれる。

(注4) アミノ基

–NH2で表される置換基。外部のpHに応答することができ、特に酸性条件下ではプロトン化されることで正電荷(–NH3+)を帯びる。

(注5) シランカップリング剤

分子内に反応性のアルコキシシランやクロロシラン部位と機能団を両方有しており、基板や粒子など、主に無機材料の表面改質や表面機能化に用いられることが多い。

付記

本研究は科研費若手研究(18K14294)、特別研究員奨励費(20J11818)、東北大学学際高等研究教育院および小笠原科学技術振興財団の支援を受けて行われました。

論文情報

論文タイトル:pH-Responsive Ultrathin Nanoporous SiO2 Films for Selective Ion Permeation
著者: Yuya Ishizaki, Shunsuke Yamamoto, Tokuji Miyashita, Masaya Mitsuishi
雑誌名: Langmuir
DOI: 10.1021/acs.langmuir.1c00486
URL: https://doi.org/10.1021/acs.langmuir.1c00486

お問合せ先

東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
英文プレスリリース Ion-Selective Smart Porous Membranes
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