量子情報技術の新たな扉を開く超小型MRI技術を開発

- 物質内部の電子スピン密度分布を常温で3D画像化 -

2021/08/18

【本学研究者情報】
〇本学代表者所属・職・氏名:大学院工学研究科機械機能創成専攻・准教授・戸田 雅也
研究室ウェブサイト

発表のポイント

  • 常温で量子情報の3D画像を観察する技術を開発
  • 電子スピンの作る微弱な磁力変化を電子スピン密度分布画像に変換
  • 人工的なノイズ信号の利用により高精度な画像化に成功
  • 生きた細胞内部を観察する量子生命科学注1技術としての応用に期待

概要

細胞内部の生命活動を非破壊で解明する観察技術は、生命現象の解明や創薬の研究等で重要な要素技術であり、生命科学分野においてその進展が期待されています。東北大学大学院工学研究科の戸田雅也准教授と小野崇人教授は、マイクロメートルの微小試料に対して、ナノメートルの分解能で電子スピン(ラジカル)のイメージングを可能にする超小型3D MRI注2技術を開発しました。この技術は、電子スピン共鳴(ESR)注3とよばれる量子効果を磁力として検出し画像化する磁気共鳴力顕微鏡(MRFM)の技術をベースにしています。

これまでの高分解能MRFMでは、スキャニングに長時間を要するという課題がありますが、本研究成果により、その問題を解決し、かつ高感度と広範囲な計測を両立する超小型3D MRIの開発につながることが期待されます。

本研究成果は、「Journal of Magnetic Resonance」誌に掲載されました(7月27日よりオンライン公開)。


図1 磁気共鳴力顕微鏡(MRFM)による3D力分布と3D電子スピン密度分布のシミュレーションと実測解析の結果

詳細な説明

細胞内部の生命活動を非破壊で解明する観察技術は、今後生命科学分野において応用が期待される技術です。今回、小型コイルや小型磁力センサー、スキャニングステージなど、MRFM計測システムの主要精密機械構成要素の大部分を独自開発し、それらを精度良く組み立て、観察技術を実用化レベルにすることに成功しました。

これまで、MRFMの実用化に向けて課題となっていたのは、その長い観測時間です。そこで試みたのが、きわめて高感度なSiナノワイヤー型磁力センサー注4を使用することと、画像処理に必要な応答関数注5を正確に定義することです。その結果、観測データ数が少なくても広範囲の電子スピン密度分布を高精度に画像化することを可能にしました。さらに、応答関数にノイズパラメータを使用した波数空間での単純な畳み込みを使用するフーリエ変換を用いることによって、3D画像化処理にかかる時間の短縮に成功しました。

電子スピンを含む2×5×8 µm3の微小試料を用いて実測したところ、電子スピンの濃度分布を3D画像に変換した後のサンプルの形状は光学画像の形状と一致しており、内部密度構造の精度が示されました。今回,磁気共鳴検出に使用しているSiナノワイヤーと球状磁性粒子の組み合わせは、今後、生きた細胞のMRI画像の取得や種々のサンプル内部観察に向けた高速MRFM計測システム構成要素の優れた組み合わせ候補であると考えています。


図2 磁性粒子の近くの磁場・磁場勾配により磁石から特定の距離に生成される電子スピンの磁気共鳴現象によって観測される試料実空間と磁力計測実空間の関係

研究支援

本研究は、科学研究費補助金(No.19H02568)による支援を受けて、東北大学大学院工学研究科附属マイクロ・ナノマシニング研究教育センター、東北大学マイクロシステム融合研究開発センターにて行われました。

論文情報

雑誌名: Journal of Magnetic Resonance
タイトル:Three-dimensional imaging of electron spin resonance-magnetic resonance force microscopy at room temperature
著者: Masaya Toda, Takahito Ono
DOI: 10.1016/j.jmr.2021.107045
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1090780721001348?via%3Dihub

用語解説

注1 量子生命科学

量子論・量子力学を基盤とした視点から生命全般の根本原理を明らかにすると同時に、医療・工業・情報・宇宙・環境・農業・エネルギー等の分野において革新的応用を目指す新しい学術領域。

注2 MRI(磁気共鳴画像)

一般的には、核磁気共鳴により回転する磁化が生み出す電磁波を観測することで試料内部を可視化する技術。本研究では、電子スピン共鳴を用いて、物質内部の局所的な磁化変化を磁力変化として観測して画像化。

注3 電子スピン共鳴(ESR)

物質内部の不対電子(ラジカル)が外部から与える電磁波のエネルギーを吸収して向きが反転する現象。

注4 Siナノワイヤー型磁力センサー

aN(アトニュートン)の力感度を有するセンサー。高感度に力を検出するために、200 nmの厚さの単結晶Siをパターニングし、幅160nm、長さ32μmのナノワイヤーに加工。ナノワイヤー中央部に変位計測に用いる干渉計のためのミラー部があり、先端には微細加工技術を駆使して設計・試作した球形状永久磁性粒子を設置。
Si nanowire probe with Nd–Fe–B magnet for attonewton-scale force detection, Journal of Micromechanics and Microengineering, 25 4 (2015), 045015. Yong-Jun Seo, Masaya Toda, Takahito Ono

注5 応答関数

伝達関数ともよばれ、任意入力に対して得られる出力を定義する関数。本研究では、ある距離関係にあるひとつの電子スピンと球状永久磁石付き磁力センサーがつくる磁気共鳴リングにおける関数。

お問合せ先

東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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