• HOME
  • ニュース
  • ベニバナの赤色色素の謎解明に大きな進展 - カルタミンの生合成酵素を同定 -

ベニバナの赤色色素の謎解明に大きな進展 - カルタミンの生合成酵素を同定 -

2021/08/24

【本学研究者情報】
〇本学代表者所属・職・氏名:大学院工学研究科バイオ工学専攻・教授・中山 亨
研究室ウェブサイト

発表のポイント

  • 謎に包まれていたベニバナのフラボノイド色素カルタミンの生合成の最終段階を司るカルタミン合成酵素の遺伝子を初めて同定し、植物に広く存在するペルオキシダーゼの仲間であることを明らかにしました。
  • カルタミン合成酵素反応では、他のペルオキシダーゼ反応とは異なり、電子受容体として過酸化水素ではなく酸素分子が利用されることがわかりました。
  • ベニバナの花弁の赤色化や伝統的な紅(べに)の製造のプロセスが、カルタミンやカルタミン合成酵素の特性に基づいて合理的に説明できます。

概要

ベニバナ色素カルタミンは、天然赤色色素として古代エジプトの時代から人類に利用されてきた歴史がありますが、その生合成機構は不明のままで、その解明が色素化学研究者の悲願でした。

東北大学大学院工学研究科バイオ工学専攻の和氣 駿之 助教らの研究グループは、東洋インキSCホールディングス(株)、トーヨーケム(株)、東北大学東北メディカル・メガバンク機構の青木 裕一 助教との共同研究により、ベニバナ(図1)の赤色色素カルタミン(図2)の生合成の最終段階を司る酵素(カルタミン合成酵素)の遺伝子を同定しました。世界的に高い関心を集めてきたカルタミン研究の歴史のなかでも、この成果は大きなインパクトをもつものと考えられます。

この研究成果は植物科学の国際誌Plant & Cell Physiologyに速報として出版され、また9月11日にオンラインで開催される日本植物バイオテクノロジー学会においても口頭で講演がなされます。


図1 ベニバナ

図2 赤色色素カルタミンの化学構造

詳細な説明

人類によるカルタミンの利用の歴史は古代エジプトの時代(BC2500)から4500年以上に及び、わが国でも飛鳥時代以降、「紅(べに)」という呼称とともに着物染料(図3)、口紅、食用色素、漢方薬など多方面で利用されてきました。とりわけ、山形県の最上川流域(出羽最上)で栽培されるベニバナは紅の原料としてきわめて上質で、江戸時代から「最上紅花」として重宝されてきました。こうしたことからベニバナは山形県の県花として親しまれ、農林水産大臣が認定する「日本農業遺産」にも指定されています。ベニバナはまた、「末摘花(すえつむはな)」の別名で源氏物語にも登場するなど、わが国では文化的な側面でも関心が高い植物です。

カルタミンの化学構造は複雑であり、その構造決定や生合成機構の解明は、世界的にも、またわが国でも、古くから数多くの科学者の興味を引いてきました。とりわけカルタミンの構造研究は100年以上もの長きにわたる歴史をもち、その研究潮流のなかには、わが国初の帝国大学女子学生として本学(当時、東北帝国大学)に入学しその後わが国の女性化学者第一号として活躍した黒田チカ博士も名を連ねています。そしてカルタミンの立体化学も含めた化学構造が最終的に確認されたのは比較的最近(2019年)のことです。

カルタミンはフラボノイドの一種であり、他の植物には見られないカルコン誘導体「キノカルコン」からベニバナ特有の多数の修飾反応を受けることにより生成すると推定されます。1995-2000年頃にはカルタミンの直接的な前駆体としてプレカルタミンが同定されました。しかしながら、カルコンから出発してどのような酵素がどのような順序でカルタミンの生合成に関わるのか、酵素遺伝子の同定も含めて現在も何一つ明らかになっていないのが現状です。近年、遺伝子・タンパク質解析技術の進展に伴って、最新の解析手法を用いてカルタミンの生合成経路を解明しようとする試みが活発化しており、生合成研究の競争は世界的に激化しています。そうしたなかで、本研究グループは、カルタミン生合成の最終段階の反応を司る「カルタミン合成酵素」の遺伝子を世界で初めて同定し、ベニバナの赤色化を司る酵素の実体を明らかにしました。

本研究によって、カルタミン合成酵素は、植物に広く存在するペルオキシダーゼの仲間であることが明らかにされました。しかしながらユニークなことに、カルタミン合成酵素反応では、他のペルオキシダーゼ反応とは異なり、電子受容体として過酸化水素ではなく酸素分子が利用されます。本研究グループは、明らかにされたカルタミン合成酵素の特性に基づいて、ベニバナの花弁の赤色化や伝統的な紅の製造のプロセスを合理的に説明できるとしています。


図3 ベニバナの紅染めのハンカチ

今後の展望

カルタミンの生合成に必要な遺伝子ツールの1つが明らかになりました。こうしたことの積み重ねによってカルタミン生合成経路の酵素遺伝子がすべて解明され、取得されれば、この複雑な構造の有用化合物を、代替生物を用いていつでも自在に合成できることが期待されます。

論文情報

タイトル: Identification of the Genes Coding for Carthamin Synthase, Peroxidase Homologs that Catalyze the Final Enzymatic Step of Red Pigmentation in Safflower (Carthamus tinctorius L.)
著者: Toshiyuki Waki, Miho Terashita, Naoki Fujita, Keishi Fukuda, Mikiya Kato, Takashi Negishi, Hiromi Uchida, Yuichi Aoki, Seiji Takahashi, Toru Nakayama
掲載誌: Plant and Cell Physiology
URL: https://doi.org/10.1093/pcp/pcab122

お問合せ先

東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
ニュース

ニュース

ページの先頭へ