3Dプリンタを活用した見えない地熱資源の流れを推定する手法の開発と検証 - 持続可能な地熱開発のための能動的水循環システム構築に向けて -

2022/06/28

【本学研究者情報】
〇大学院工学研究科先端材料強度科学研究センター 教授 橋田 俊之
研究室ウェブページ

発表のポイント

  • 地熱開発で地下に戻した水の流路の表面積を推定する方法を開発。
  • 3Dプリンタで模擬地下構造を作製し、推定手法を適用した結果、誤差の範囲内で推定成功。
  • 実際のフィールドデータに対しても、他の測定値や数値計算の結果と調和的。
  • 地熱発電所の電力生産予測、持続的な開発戦略に貢献。

概要

地熱開発では、発電に利用した水を地下に戻して、地下の熱で温めた熱水・蒸気を再び発電に利用するという能動的な水循環を作り出すことができれば、持続的な開発を進められると考えられています。しかし、冷めた水を戻すことで地下が冷えてしまい、蒸気や熱水の生産自体に影響を与えてしまうのではと恐れて積極的に開発に導入されてきませんでした。

東北大学流体科学研究所の鈴木杏奈准教授、同大学院工学研究科橋田俊之教授ら、米コーネル大学Robert Frederick Smith記念化学生体分子工学部のAdam J. Hawkins博士研究員は共同で、温度の計測結果を利用することで、地下に戻した水の再加熱に大きく影響する流路表面積を推定する手法を開発しました。さらに3Dプリンタを用いた流動実験を通して、推定手法の検証を行いました。その結果、3Dプリンタで作製した模擬地下構造の推定も誤差の範囲内であり、また、フィールドへ適用した場合も、他の測定値や数値計算の結果と整合的な結果を示しました。本研究成果によって、地熱発電所の電力生産予測、持続的な開発戦略に貢献できると期待できます。

この研究成果は、2022年6月13日、世界最大規模の学術出版社Elsevierが発行する地熱学の学術誌「Geothermics」に掲載されました。

研究内容

地熱開発では、発電に利用して温度が下がった水を地下に戻し、地下の熱で再び温めた水を発電に利用するという能動的な水循環ができれば、その地域を持続的に利用できると考えられます。しかしながら、水の戻し方次第では、生産ゾーンを冷やしてしまう恐れがあるため、地熱開発事業者はこれまで消極的にしか水を戻していませんでした。戻した水が地下でどの程度温まるのかは、流れる水が熱い岩石からどの程度熱の供給を受けるかにかかっており、水が流れる岩石内の流路の表面積を把握する必要があります。

流路の表面積を推定する手法として、井戸で計測した温度を用いながら、簡単な熱移動モデルに基づいて推定する手法が提案されています。この手法を用いると、限られた計測データしか得られないような比較的初期の開発現場においても、大規模な数値シミュレーションをせずに、水を地下に戻すことによって将来温度がどのように変化するかを予測でき、電力供給の予測へと繋げることができます。これまでの研究では、フィールドデータに適用したものの、地下構造や物性が不確かなため、推定手法の大まかな評価しかできていませんでした。また、数値シミュレーションを用いても、地熱流体は非常に狭い岩と岩の割れ目(き裂)構造を流れているため、局所を流れる熱流体の流れをシミュレーションすると、数値誤差が発生してしまうという問題がありました。さらに、岩石を用いた実験を行っても、岩石の構造を完全に制御できず、再現性のある実験を行うことができませんでした。

そこで本研究では、3Dプリンタによって作製したき裂構造を用いて流動実験を行うことで、推定手法の検証を行いました。3Dプリントされたき裂構造を利用する利点は、複雑な構造だとしても、構造のデザインも物性も既にわかった状態で流動実験を行うことができ、構造や物性値の不確かさを把握することができます。本研究では、観測誤差とモデルの不確実性も考慮しており、推定の信頼できる範囲も定量的に扱っています。

流路表面積を推定した結果、3Dプリントした構造の表面積と推定結果は誤差の範囲内でよく一致しました。また、この推定方法を、よく研究されている小規模な実験フィールドのフィールドデータに適用したところ、推定結果は、他の物理観測結果や数値モデリングの結果と調和的でした。本研究で検証された流路表面積推定手法は、地熱開発における電力生産予測、持続的な開発戦略に貢献できると期待できます。さらに、3Dプリントした岩石き裂構造は、他の推定手法の検証にも有用であると期待できます。


図1:地熱開発における能動的な水循環と温度を用いた流路表面積推定手法。(a)概念図、(b)3Dプリンタを用いて作製したき裂構造、(c)流動実験結果へのカーブフィッティング注1

図2:フィールドデータへの適用。(a)フィールド試験概要図、(b)GPR(地中レーダー探査)注2計測データ、(c)先行研究のシミュレーション結果、(d)温度データへのカーブフィッティング、(e)表面積推定結果。

論文情報

タイトル: Estimation of flow-channel structures with uncertainty quantification: Validation by 3D-printed fractures and field application
著者: Anna Suzuki, Elvar K. Bjarkason, Aoi Yamaguchi, Adam J Hawkins, Toshiyuki Hashida
掲載誌: Geothermics Volume 105, November 2022, 102480
DOI: 10.1016/j.geothermics.2022.102480
URL: https://doi.org/10.1016/j.geothermics.2022.102480

用語説明

(注1)カーブフィッティング

シミュレーション結果が実験結果とできるだけ一致するように、モデルのパラメータの値を最適化すること。

(注2)GPR(地中レーダー探査)

電磁波の「波動」としての性質を利用して、地中の構造を把握する探査手法。

資金情報

本研究の一部はJSPS 科研費JP20H02676、JST ACT-X JPMJAX190Hの支援を受けて実施されました。

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学 大学院工学研究科 先端材料強度科学研究センター 教授 橋田 俊之
TEL:022-795-7523
E-mail:hashida@rift.mech.tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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