強誘電体メモリー、超高密度化に道

2014/09/19

【研究成果のポイント】
  • 強誘電体薄膜の分極ドメインをナノ構造化し、分極の自由回転状態を実現
  • 走査型圧電応答顕微鏡による任意軸方向への分極の書き込みと読み出しに成功
  • 強誘電体メモリーの超高密度化、強誘電体の基礎物理に重要な知見

【研究成果の概要】

国立大学法人東北大学大学院工学研究科 松本祐司教授、オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学 Nagarajan Valanoor教授、米国・オークリッジ国立研究所 Sergei V. Kalinin 共同研究テーマリーダー らの共同研究グループは、強誘電体材料の分極ドメインをナノ構造化することにより、走査型圧電応答顕微鏡(PFM)を用いて、分極自由回転状態の書き込みと読み込みに成功しました。

本研究成果は、現在使われている強誘電体メモリーの記録密度を大幅に向上させる可能性を有し、 ナノレベルで分極構造を制御することで、強誘電体の新たな物性・機能を引き出せることを示すなど、材料科学分野に大きなインパクトをもたらすことが期待されます。

本研究成果は英国科学雑誌Nature Communicationsのオンライン版(ロンドン時間2014年9月18日発行)に掲載されました。

【研究背景】

現在、強誘電体メモリーに用いられている多くの強誘電体材料では、分極容易軸方向に沿った異なる2つの分極状態を利用して情報の書き込み、読み出しを行っています(図1)。もし、異なる分極状態が2つ以上存在すれば、それだけ書き込める情報量( bit数密度)は大きくなります。しかし、強誘電体結晶の多くは、結晶の対称性によってその分極状態の数は限られています。これに対し、最近、強誘電体の分極容易軸方向が結晶の対称性に束縛されない、すなわち分極軸が自由に回転することが、よく知られた強誘電体PZT系薄膜材料で報告されました。これにより、理論上は、記録密度が現状の2桁増大することが期待されます。しかし、これまでは、透過型電子顕微鏡(TEM)によるその存在が示されただけでした。

【研究成果】

東北大学の研究グループは、オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学、米国・オークリッジ国立研究所と共同で、ナノ相分離構造を精密に制御したエピタキシャル強誘電体薄膜では、面内の分極軸が自由回転することを見いだし、走査型圧電応答顕微鏡(PFM)を用いて任意方向に分極の書き込みと読み込みが可能であることを実証しました。

共同研究グループは、強誘電体の分極ドメインをナノサイズ化するために、ナノ相分離構造を用いました。実際には、層状ペロブスカイト型強誘電体Bi5Ti3FeO15(BTFO)と強磁性体CoFe2O4(CFO)を、パルスレーザー堆積(PLD)法により、共蒸着、あるいはナノレベルで交互蒸着を行うと、強誘電体BTFO母体薄膜中に柱状のCFOがナノレベルで貫通したナノ相分離構造が形成されます(図2)。

BTFO-CFOナノ相分離薄膜表面で、バイアス電圧を印加しながらPFMのカンチレバーを走査すると、面内でTrailing fieldと呼ばれる電界が走査方向に生じます。この電界方向をカンチレバーの走査方向を変化させて、任意の面内方向に分極させることを試みました(図3)。その結果、読み出し走査方向を一定にして、書き込みの走査方向を変化させると、PFMの検出信号の振幅は、書き込みと読み出しの走査方向のなす角θに対し、cosθの依存性を示しました。一方、位相はθに依存せず、面内の分極軸が任意方向に回転できるようになることを発見しました(図4)。

BTFO-CFOの局所界面では、柱状のCFOから母体のBTFO薄膜にストレインを及ぼし、局所的な秩序構造の乱れを引き起こします。この秩序構造の局所的乱れにより、分極ドメインのサイズがナノレベルにまで小さくなり、面内の分極軸が自由回転するようになったと考えられています。

【今後への期待】

本研究成果は、現在使われている強誘電体メモリーの記録密度を大幅に向上させる可能性を有し、今後は、ナノ相分離構造の違いが、強誘電体母体薄膜における面内分極軸の自由回転に及ぼす効果を精査し、ナノ相分離界面でのストレインと分極ドメイン構造、その結果得られる分極軸の自由回転との関係を実験的に明らにし、分極軸自由回転現象を説明する理論を構築することが重要です。また、ナノレベルでの空間的なストレイン制御が新たな物性・機能をもたらすことになった今回の成果は、材料開発の新しい指針としても重要であり、材料科学分野に大きなインパクトをもたらすことが期待されます。

■発表論文の詳細

タイトル:Deterministic arbitrary switching of polarization in a ferroelectric thin film
著者名:R. K. Vasudevan, Y. Matsumoto, Xuan Cheng, A. Imai, S. Maruyama, H. L. Xin, M. B. Okatan, S. Jesse, S. V. Kalinin and V. Nagarajan
論文名: Nature Communications, published online 18 September (2014), DOI:10.1038/ncomms5971

【問い合わせ先】
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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