高速度カメラの限界を超えた超音速ジェットの3次元可視化技術を開発
- 現象理解の進展と騒音低減に期待 -
2023/06/29
発表のポイント
- 時間解像度と空間解像度を大幅に拡張できる3次元時空間超解像計測技術を開発しました。
- 3次元可視化計測と音響計測を組み合わせることで、音響データから高時間解像度の3次元流体構造を再構成することに成功しました。
- 複雑かつ超音速の極限的条件での流体現象の理解の発展に貢献すると期待されます。
概要
ロケットや超音速ジェット機のエンジンから排出される噴流(ジェット)は、非常に大きな騒音を発し、そのため騒音問題や構造物破壊の原因となっています。それらの問題を解決するには、超音速ジェットの物理現象を詳細に理解する必要があります。しかし時間解像度の低い従来の観測技術では物理現象を十分に解明することができませんでした。
東北大学大学院工学研究科の野々村拓准教授らの研究グループは、3次元可視化計測と音響計測を同時に行い、両者の関係を線形に結びつけることで、空間解像度と時間解像度を大幅に拡張できる3次元時空間超解像計測技術を開発しました。
本技術は、「空間解像度は高いが時間解像度は低い3次元流体場データ」と「空間解像度は低いが時間解像度は高い音響データ(点センサ)」を線形モデルで組み合わせ、時空間双方に高い解像度を持つ流体構造を再構成するものです(図1)。この技術により、これまで高速度カメラの技術の限界で計測できなかった3次元流体場を40倍の撮影速度で再構成することに成功しました。複雑な流れや超音速の流れといった極限的な条件での流体現象の理解を飛躍的に発展させることが期待されます。
本研究成果は、2023年6月15日に流体力学分野の専門誌Physics of Fluidsのオンライン版で注目論文(Featured Article)として公開されました。
研究の背景
ロケットや超音速ジェット機のエンジンから排出される噴流(ジェット)は、非常に大きな騒音を発し、そのため騒音問題や構造物破壊の原因となっています。ジェット騒音の発生メカニズムは流体現象と密接に関係があるため、超音速ジェットの物理現象を詳細に理解する必要があります。超音速ジェット騒音は複雑かつ時速1000 kmを超える極めて速い流れから発生します。3次元背景型シュリーレン法(Three-dimensional background oriented schlieren, 3D-BOS)注1は複雑な3次元流体現象を詳細に把握できる可視化手法です。しかし、最新鋭の高速度カメラをもってしても、超音速噴流の流体現象を十分な撮影速度で撮影することは困難です。
先行研究注2である時空間超解像計測は超音速ジェット騒音に関連する流体現象を高空間かつ高時間解像度で計測できる手法です。しかし、この技術は2次元での計測のため、3次元性が強いジェット騒音に適用した場合には限界があります。
今回の取り組み
東北大学大学院工学研究科の野々村拓准教授と大学院生の李忠日(イ チュンイル)氏(博士後期課程学生)らの研究グループは、3次元可視化手法である3D-BOS計測と音響計測を同時に行い(図2)、データ駆動科学技術注3である線形モデルを両者のデータに適用することで、空間解像度の大幅な拡張や撮影速度の向上を実現できる3次元時空間超解像技術を開発しました。
この技術は、200 kHz (5 μs時間間隔)で計測した音響データから流体場を再構成することができるため、3D-BOS計測のみの場合オリジナル の40倍(3D-BOS計測の撮影速度は5 kHzである)となる200 kHzの撮影速度で超音速ジェット騒音に関連する流体構造を計測できます。さらに、音響データから3次元流体構造を再構成することができます。これにより、 音速より1.2倍速い超音速ジェット(1+2モード)では時計回りのらせん構造(1モード)と反時計回りのらせん構造(2モード)より形成されることを初めて可視化することができました(図3)。また、このらせん構造の強さは時間によって変化するため、超音速ジェット(1+2モード)の流体構造とその強さがは時間によって変化することを初めて可視化し、らせん構造の時間変化のそのメカニズムを本技術から解き明かしました(図4)。
今後の展開
開発した技術より、点センサから3次元流体構造を推定し、その結果を基に超音速ジェット騒音に関連する流体構造を詳細に理解することで、騒音低減デバイスの性能向上などにつながる可能性があります。また様々な流体分野に本技術を適用することで、複雑な流れや超音速の流れといった極限的な条件での流体現象の理解を飛翔的に発展させることが期待されます。

図1 3次元時空間解像計測技術の概要。音響計測は高い時間解像度でデータを取得できるが、3D-BOS法では時間解像度が足りないため、計測できない時間領域が存在する。本研究で開発した技術を用いると音響データから3次元流体場を推定できるため、これまで計測できなかった時間領域での3次元流体場を高い時間解像度で再構築できる。

図3 通常計測と3次元時空間解像計測結果。通常計測では時間解像度が足りないため、不連続的に流体構造が変化するが、3次元時空間超解像計測では十分な時間解像度を持つため滑らかに流体構造が変化することが確認できる。超音速ジェットの流体構造(1+2モード)は時計回りのらせん構造(1モード)と反時計回りのらせん構造(2モード)より形成される。
謝辞
本研究はJSPS科研費基盤研究(A)JP20H00278の助成を受けたものです。
用語説明
(注1)3次元背景型シュリーレン法(Three-dimensional background oriented schlieren, 3D-BOS)
複数カメラと医療機関でよく使われている断層撮影法(Computed tomography、 CT)を用いて3次元流体構造の密度場を定量的に計測する手法である。
(注2)先行研究
(注3)データ駆動科学技術
大量データに対して統計学理論や機械学習などを適用し、未知の状態を予測する技術。
論文情報
著者: Chungil Lee*, Yuta Ozawa, Takayuki Nagata, Taku Nonomura*
責任著者: 東北大学 大学院工学研究科 大学院生 李忠日
DOI: 10.1063/5.0149809
URL: https://pubs.aip.org/aip/pof/article/35/6/065128/2896440/Super-resolution-of-time-resolved-three