流体力学分野の信号処理技術で地震動の精密な評価に成功

- 惑星探査や資源開発など様々な分野への応用展開にも期待 -

2024/01/22

【工学研究科研究者情報】
大学院工学研究科 特任助教 永田 貴之(現 名古屋大学大学院工学研究科 特任助教)
大学院工学研究科 准教授 野々村 拓(現 名古屋大学大学院工学研究科 准教授)
大学院工学研究科 教授 森谷 祐一
研究者ウェブページ

発表のポイント

  • 時間-周波数領域における地震動の3次元粒子軌跡解析法(注1)をより拡張する信号処理技術を開発しました。
  • 流体力学分野で用いられる信号処理技術を、地球科学分野に導入することで、より包括的な地震動の3次元粒子軌跡解析が可能になりました。
  • 少観測点、高ノイズといった観測状況が厳しい環境でも、地震動の特性評価が可能となり、地震学、惑星探査、資源開発といった様々な分野での応用が期待されます。

概要

地震動を、直交する3成分の地震計で計測することで、ある地点の3次元粒子軌跡を観察することができます。3次元粒子軌跡解析は、多数の観測点を設置することが難しい地下資源開発などの分野で、観測された地震動が持つより多くの情報を抽出するために用いられてきました。しかしながら、特に微弱な地震動に対して有効な時間-周波数領域の解析では、数学的記述の限界から、S波(注2)を含む、平面的に振動する地震動を抽出することができませんでした。

東北大学大学院工学研究科の永田貴之特任助教、野々村拓准教授(共に現名古屋大学大学院工学研究科)、森谷祐一教授、同大学流体科学研究所の椋平祐輔助教、博士後期大学院生Sun Jingyi氏、産業技術総合研究所の椎名高裕主任研究員は、流体力学分野等で用いられる時間遅れ座標系を基に、地震動の3次元粒子軌跡解析に時間遅れ成分を導入し、より包括的な地震動の特性評価が可能な信号処理技術を開発しました。本技術により、S波を含め平面偏波も特徴づけることが可能になりました。実データに適用した結果、既存技術に比して振幅の小さいP波(注3)の検出、S波の検出や後続波(注4)の抽出を可能とします。今後、地震動の特性評価が必要な様々な分野(地震学、惑星探査、資源開発)におけるデータ解析への適用が期待されます。

本研究成果は、2024年1月15日付でIEEE Transactions on Geoscience and Remote Sensingに掲載されました。

研究の背景

地震波は3成分の地震計で観測され、実際にはある地点の3次元粒子軌跡(リサージュ)を計測しています(図1)。通常、地震波は3成分別々で解析を行いますが、3成分粒子軌跡を解析することで、地震動の特徴を抽出することも可能です。例えば、地震のP波が到達した時に、「下から突き上げられたような縦波」と言いますが、これは垂直方向に卓越した振動が到来し、線状の粒子軌跡を示し、直線的な偏波と特徴づけられます。

近年、地下資源開発や二酸化炭素地下貯留のモニタリング、米航空宇宙局(NASA)の火星探査機Insightなどによる他の惑星探査、海底地震計など多数の観測点を設置することが難しい環境で得られた地震動データに対して、3次元粒子軌跡解析が再度脚光を浴びています。しかし、小さな信号を捉えることを得意とする時間-周波数領域の解析では、数学的記述の限界から、直線偏波しか扱うことができず、S波などの平面偏波の抽出は未だ困難でした。

今回の取り組み

東北大学大学院工学研究科の永田貴之特任助教、野々村拓准教授(共に現名古屋大学大学院工学研究科)、森谷祐一教授、同大学流体科学研究所の椋平祐輔助教、博士後期大学院生Sun Jingyi氏、産業技術総合研究所 椎名高裕主任研究員は、カオス時系列解析で用いられる時間遅れ座標系を基に、地震動の3次元粒子軌跡解析に時間遅れ成分を導入し、より包括的な地震動の特性評価が可能な信号処理技術を開発しました。

ここで開発した信号処理技術を、人工合成データでテストすると共に(図3)、実際に地下資源フィールドで得られた微小地震データや(図4)、後続波を含む自然地震データに適用し、既存技術に対して優れた地震検出性、多様な地震動の振動評価性を示しました。

今後の展開

本研究で開発した手法は、少ない観測点で、地下の状態をモニタリングする様々な分野に応用できます。少数の地震計から、多様な地震動の検出や、その特性評価および、地震の震源位置決定なども可能とすることで、二酸化炭素地下貯留の持続的なモニタリングへの展開が期待されます。本研究の関連研究として、地下資源開発時に発生する微小地震のP波、S波検出と、それを用いた震源決定も進めています。自然地震分野でも、後続波の検出に使用できる可能性もあります。今後、地球科学分野で幅広く使用し、目視での解析が難しい膨大な時系列データに対して様々な現象の検出・理解に貢献することが期待されます。


図1 直交3成分の地震計から得られる地震動と、再構成した3次元粒子軌跡。P波(P-wave)、S波(S-wave)など、異なる波が到達した際に、それぞれ直線的な軌跡、平面的な軌跡など異なる粒子軌跡を示す。P波が到達する前は、自然界の微小な雑音(Noise)を観測しています。S波の到達後は、色々な波が到達し、再度粒子軌跡はランダムな動きを示す。

図2 通常の3次元粒子軌跡解析に使用する解析時間窓と、本研究で導入した遅れ成分の概念図。遅れを持つ複数の解析時間窓でサンプリングしたデータの周波数スペクトルで構築した行列を固有値解析する。時間遅れ成分により、有効な基底が増え、平面偏波も解析が可能となった。

図3 人工合成テストデータに対する解析結果。20 secに直線偏波の信号が存在する(左:SN比 0dB、右:SN比 -5dB)。他のヒストグラムは、1000回試行した際の信号の分離確率を、度数分布図で示した(ピンク:信号部、ブルー:ノイズ部)。遅れを最適化できた際(Δτ=T)には、目視でも判別が難しい信号も有意に検出できることを示した。
SN比:ノイズと信号部の比

図4 地下資源開発フィールドで得られた微小地震データに対する解析結果。本手法で、それぞれP波、S波の振動の特性を評価した。偏波の到来を示すCLPが、P波、S波の到来時刻付近で反応している。さらに、その振動方向がP波の場合は垂直、S波の場合は水平に近いことを、それぞれV1 incl. V1normal incl.が示している。

謝辞

本研究は、科学技術振興機構 (JST)戦略的創造研究推進事業 (CREST: JPMJCR1763)、次世代研究者挑戦的研究プログラム (JPMJSP2114)、創発的研究支援事業 (JPMJFR202C、JPMJFR206Z)、JSPS科研費JP21H05201、JP19K22149の支援により行われました。

用語説明

(注1)粒子軌跡解析法

直行する3成分の地震計での計測したある地点の3次元粒子軌跡の形状を評価し、振動の特徴や、到来方向を解析する手法。

(注2)S波

地震が発生してP波に続いて2番目(Secondary)に伝わる波。地震波の進行方向(P波)に対して、垂直に振動する波で横波とも呼ばれる。よって、平面的な粒子軌跡を示す(平面偏波)。

(注3)P波

地震が発生して最初(Primary)に伝わる波。地震波の進行方向に振動する波で縦波とも呼ばれる。直線的な粒子軌跡を示す(直線偏波)。

(注4)後続波

P波およびS波が、地球内部の各不連続面や海底、地表で反射や屈折したもの。

論文情報

タイトル: Polarization Analysis in Time-Frequency Domain by Complex Spectral Matrix -Application to Various Mode of Seismogram
著者: Takayuki Nagata*、 Yusuke Mukuhira、 Jingyi Sun、 Hirokazu Moriya、 Takahiro Shiina、 Taku Nonomura
*責任著者: 東北大学大学院工学研究科 特任助教 永田貴之
(現 名古屋大学大学院工学研究科 特任助教)
掲載誌: IEEE Transactions on Geoscience and Remote Sensing
DOI: 10.1109/TGRS.2024.3352817

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学流体科学研究所 助教 椋平祐輔
TEL:022-217-5235
E-mail:mukuhira@tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学流体科学研究所 広報戦略室
TEL:022-217-5873
E-mail:ifs-koho@grp.tohoku.ac.jp
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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