応力を記録する新材料の開発に成功

- 老朽化が進むインフラの構造診断の技術革新に期待 -

2024/05/09

【工学研究科研究者情報】
〇大学院工学研究科材料システム工学専攻 教授 徐 超男
研究室ウェブページ

発表のポイント

  • 機械的刺激に対する応力を記録する新材料を開発しました。
  • 新材料を構造物等の表面に塗布し、残光(注1)を観察することにより、過去に受けた荷重を定量的かつ長期的に読み出すことが可能です。
  • 構造診断検査技術に応用することで、持続可能な社会への貢献が期待されます。

概要

日本では現在、特に高度経済成長期に建設された道路や橋梁、トンネルなどの社会インフラや高層ビルの老朽化が大きな社会問題となっております。そのため、それら構造物の事故防止や長寿命化のために新たな構造診断検査技術のニーズが急速に高まっています。将来的な方法の一つとして、機械的刺激に反応し発光する応力発光体(注2)を構造物に塗布し検出する方法があります。しかし発光を観測できるのは機械的刺激を受けた時点のみという課題がありました。

東北大学大学院工学研究科の内山智貴助教と徐超男教授らは、産業技術総合研究所と佐賀大学との共同研究により、機械的刺激に対する応力を記録し、それを定量的かつ長期的に読み出すことが可能な新たなマルチピエゾ材料(注3)である複合酸化物のPr添加Li0.12Na0.88NbO3を開発しました。

本材料は電源や複雑な装置ならびにその場観察が不要なため、省エネルギーであり、さらにIoT(注4)技術と組み合わせることで、検査に要する人手不足や費用削減につながり、持続可能な社会への貢献が期待されます。 本成果は、2024年4月25日に米国物理学協会誌Applied Physics Lettersのオンライン版で公開されました。

研究の背景

日本では、道路、橋梁、トンネルなどの社会インフラや高層ビルの老朽化が大きな社会問題となっており、構造物の事故防止や長寿命化のために新たな構造診断検査技術のニーズが急速に高まっています。

徐超男教授らは1990年代に、機械的刺激に相関した発光を示す応力発光材料を発見しました。この材料を構造物の表面に塗布することで橋梁の亀裂検出や、人工骨の応力分布可視化などの技術が開発されています。このような応力センシング技術は、構造物の健全性診断に重要であり、余寿命の予測などへ応用できます。しかし、応力発光現象は機械的刺激を受けたその時点でのみ観測でき、過去に受けた機械的刺激の情報を読み出すことはできませんでした。

過去の荷重履歴を読み出す機能を持つ材料の例としては、応力発光材料と感光材料を組み合わせることによって、感光痕跡の有無や感光強度から印加された応力を知ることができる応力記録材料(注5)が提案されています。しかし、その複雑な積層構造や暗反応、長期的な記録性能などに問題があるとされます。また、ある種の蛍光体は熱を加えることで過去の荷重履歴を知ることができますが、熱に耐えられる材料しか利用できないため、応用が限られていました。

今回の取り組み

以上の背景の下、東北大学大学院工学研究科の内山智貴助教と徐超男教授は、大学院生の渥見大成氏(当時、学部生)と音成航希氏(当時、学部生)、産業技術総合研究所の藤尾侑輝主任研究員、佐賀大学の鄭旭光教授(東北大学特任教授兼務)とともにマルチピエゾ材料である複合酸化物のPr 添加Li0.12Na0.88NbO3が応力記録機能を示すことを発見しました。

Prを添加したLi0.12Na0.88NbO3は優れた応力発光特性と圧電特性を併せ持つマルチピエゾ体として知られています。この材料は応力記録(Mechanical Recording, MR)機能を発現できることが本研究で明らかになりました。ここでMR機能とは過去に発現した応力を遡って読み出すことができる特性のことです。これまでの応力発光体は応力が生じた瞬間のみ情報を観測できましたが、本研究で開発したMR機能を持つ応力発光体はこれに加え、過去の応力情報も読み出すことが可能になりました。あらかじめ新材料を塗布した対象物の表面にフラッシュ光を照射することにより、カメラや光センサーなどを用いて残光を計測することができ、その情報から過去に発現した応力情報を得ることができます(図1左)。さらに有限要素法解析(注6)により応力分布を計算したところ(図1右)、実験(図1左)と定量的に一致することがわかりました。さらにこの情報は5か月経過しても保持されることが確認できました。

今後の展開

本研究では、構造物等が受けた機械的刺激によって生じた応力を記録し、遡って読み出すことができる新材料を開発しました。しかも、電源や複雑な装置、その場観察を必要としないという点において、革新的な技術であると言えます。さらに、IoT技術と組み合わせることで、構造診断検査の人手不足の解消や費用削減につながり、持続可能な社会への貢献が期待されます。


図1 (左)応力記録を読み出した時の残光像 (右)有限要素法解析による計算結果

謝辞

本研究は、JSPS 科研費(JP19H00835、JP22H00269)の助成を受けました。

用語説明

(注1)残光

蛍光体に紫外線などの光を照射した後、光を切っても発光続ける現象。

(注2)応力発光体

1990年代に徐教授らによって発見された、力学刺激のひずみエネルギーに相関して繰り返し発光する材料。

(注3)マルチピエゾ材料

超高感度応力発光特性と巨大圧電特性を併せ持つ材料。これまでの応力発光材料とは全く異なるメカニズムで強い発光を示すため注目を集めている材料である。

(注4)IoT

Internet of Thingsの略。日本語でモノのインターネットと訳し、センサーを取り付けた様々なモノの情報がインターネットを通してつながる技術のこと。

(注5)応力記録材料

物体や構造体にかかる応力(ストレス、力のかかり具合)を記録できる材料。応力が生じたときにその影響を可視化することができるとともに、過去の荷重履歴を読み出す機能を持つ。

(注6)有限要素法解析

複雑な形状や材質を持つ物体の解析に使用される数値解析手法の一つ。物体を細かい要素に分割し、それぞれの要素を計算することで、全体の挙動を解析する手法である。

論文情報

タイトル: Direct recording and reading of mechanical force by afterglow evaluation of multi-piezo mechanoluminescent material Li0.12Na0.88NbO3 on well-designed morphotropic phase boundary
著者: Tomoki Uchiyama, Taisei Atsumi, Koki Otonari, Yuki Fujio, Xu-Guang Zheng, and Chao-Nan Xu*
*責任著者: 東北大学大学院工学研究科 教授 徐 超男
掲載誌: Applied Physics Letters 124, 171105 (2024)
DOI: 10.1063/5.0209065

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学大学院工学研究科材料システム工学専攻 教授 徐 超男
TEL:022-795-7348
E-mail:chao-nan.xu.c8@tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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