薬剤浸透量を倍増できる超小型のイオントフォレーシスを開発

- 健康・美容のセルフケアデバイスとして普及に期待 -

2024/05/24

【工学研究科研究者情報】
〇大学院工学研究科ファインメカニクス専攻 教授 西澤 松彦
研究室ウェブページ

発表のポイント

  • 負電荷・正電荷を帯びた多孔性マイクロニードルを新規に開発しました。
  • 開発したニードルをイオントフォレーシス(注1)の陽極・陰極に搭載することによって、生体への薬物浸透を両極で促進することに成功しました。
  • 両極がコンパクトに一体化され、薬やワクチンの投与量が倍増し、2種類の薬物を同時に投与することも可能になりました。

概要

生体に微小電流を流して薬やワクチンの浸透を促進するイオントフォレーシスは、投薬効率を大幅に向上させ、副反応を最小限に抑えるメリットがあります。しかし、浸透を促進する方向の流れは陽極側でのみ起こり、陰極側では体液を吸い出す逆向きの流れが生じるため、陽極と陰極の隣接を避けて、装置が大型化していました。

東北大学大学院工学研究科・医工学研究科の西澤松彦教授のグループは、それぞれ正電荷と負電荷を帯びた2種類の多孔性マイクロニードルを搭載した直径20mm程と小さいスタンプ型のイオントフォレーシスデバイスを開発しました。陰極でも浸透方向に流れが生じるため両極の一体化が実現し、薬やワクチンの投与量が倍増し、2種の薬剤を同時に投与することも可能になりました。

本成果は、2024年5月21日に医工学分野の専門誌Advanced Healthcare Materialsにてオンライン公開されました。


図1 デュアルニードルポンプの構造とイオントフォレーシスへの応用

研究の背景

イオントフォレーシスは生体に微小電流を流して薬物の浸透を促進する方法であり、美容や医療で広く利用されています。患部に直接薬剤を投与するので、一般的な経口投薬に比べて効率が高く、副反応も最小限に抑えられるメリットがあります。特に皮膚を通した薬剤浸透への促進効果が広く認められており、外部電源を必要とする従来の据置き型から、最近は電池で動作するハンディー型の装置も普及し始めています。しかし、浸透を促進する方向の流れは陽極側でのみ発生し、陰極側では体液を吸い出す逆向きの流れが生じるため、陽極と陰極の隣接を避けて、装置が大型化していました。イオントフォレーシスをコンパクトなセルフケアデバイスとして普及させるためには、陰極での逆向きの流れを抑止する技術の開発が必要でした。

今回の取り組み

細孔の内壁にPAMPS(注2)を析出させ負電荷を帯びた多孔性マイクロニードルと、PAPTAC(注3)を析出させ正電荷を帯びた多孔性マイクロニードルを調製し、それぞれをイオントフォレーシスの陽極と陰極に搭載することによって、コンパクトなスタンプ型のデバイスを実現しました(図2)。これを用いて、両極からの薬剤浸透の定量的な検証と、マウスを用いたワクチン投与の効率化の実証に成功しました。

図3aは負電荷ニードル(緑)と正電荷ニードル(赤)に通電した際の電気浸透流(Electroosmotic Flow:EOF)(注4)測定結果です。負電荷・正電荷ニードルで反対向きのEOFが発生し、流速が電流密度に比例しました。図3bは蛍光色素であるFITCで標識したデキストラン(10 kg/mol)の輸送実験の結果です。±0.5mAの通電で発生するEOFによる一定速度の輸送が120分に渡って維持されました。

図4aにスタンプ型イオントフォレーシスデバイスの構造を示します。陰極でも浸透方向に流れが生じて体液の吸引が抑止できたことによって、両極を隣接させた一体化が実現しています。図4bはブタ皮膚切片へのデキストラン(緑)とローダミン(オレンジ)の浸透実験の結果です。分子のサイズや電荷に関わらず、EOFによる両極デュアル浸透が実現しています。図4cはマウスへのワクチン投与実験です。OVAワクチンを両極から投与した場合に抗体産生が倍増する結果が得られました(オレンジ棒グラフ)。

今後の展開

本研究で開発した新構造のコンパクトなイオントフォレーシス装置は、美容や医療の諸分野において在宅セルフメディケーションの普及に大きく寄与すると期待されます。カテーテル型チューブへの搭載も行っており、臓器および腫瘍への高効率な投薬の実証研究を進めています。


図2 陽・陰極で浸透促進するデュアルニードルポンプ

図3 (a) 電気浸透流の発生実験、(b) デキストランの輸送実験

図4 (a) スタンプ型デバイス、(b) ブタ皮膚切片への浸透実験、(c) マウスへのワクチン投与実験

謝辞

本研究はJSPS科研費 基盤S(JP22H04956)の助成を受けたものです。

付記

マウスによる実験は東北大学動物実験専門委員会による承認を受けて実施されました(動物実験承認番号: 2021医動-048-04)。

用語説明

(注1)イオントフォレーシス

皮膚や臓器に微小電流を流すことで薬物の浸透を大幅に促進する方法。

(注2)PAMPS

イオン性高分子の一種で、正式名称はpoly-2-acrylamido-2-methyl-1-propanesulfonic acid。

(注3)PAPTAC

イオン性高分子の一種で、正式名称はpoly-(3-acrylamidopropyl) trimethylammonium。

(注4)電気浸透流

マイナス(またはプラス)に帯電した多孔性物質やマイクロチャンネルに通電すると、カチオン(またはアニオン)が優先的に電気泳動するため、それに付随して電気浸透流と呼ばれる溶媒(水)の流れが生じる。

論文情報

タイトル: Bilaterally Aligned Electroosmotic Flow Generated by Porous Microneedle Device for Dual-Mode Delivery
著者: Gaobo Wang, Kosuke Kato, Sae Ichinose, Daisuke Inoue, Airi Kobayashi, Hitoshi Terui, Soichiro Tottori, Makoto Kanzaki, and Matsuhiko Nishizawa*
*責任著者: 東北大学大学院工学研究科(大学院医工学研究科 兼務) 教授 西澤 松彦
掲載誌: Advanced Healthcare Materials 2024, 2401181
DOI: 10.1002/adhm.202401181

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学大学院工学研究科ファインメカニクス専攻 教授 西澤 松彦
TEL:022-795-7003
E-mail:nishizawa@tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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