強磁性窒化鉄系ボンド磁石を開発
2024/09/18
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概要
三恵技研工業株式会社(所在地:東京都北区、代表取締役社長:長谷川彰宏、以下「三恵技研」)、株式会社Future Materialz(所在地:東京都杉並区、代表取締役社長:京藤倫久、以下「FMC」)、および国立大学法人東北大学大学院工学研究科(所在地:宮城県仙台市、大学院工学研究科長:伊藤彰則、以下「東北大学」)は、小型モータ向けの新しいボンド磁石を開発し、そのボンド磁石を用いた小型モータがネオジムボンド磁石と同等の特性を有することを明らかにしました。この磁石は、「レアアースを全く含まない強磁性窒化鉄の活用」、および「ネオジム採掘時の副産物であるサマリウムの有効活用」という特徴を有します。従来のネオジム磁石と同等の性能を維持しながら継続的な生産が可能で、資源リスクの低減と持続可能なサプライチェーン構築に寄与します。
本成果は、第48回日本磁気学会学術講演会(2024年9月24日~27日、会場:秋田大学)、および34th FINETECH JAPAN (2024年10月29日~31日、会場:幕張メッセ、ブース番号:21-30 )にて発表する予定です。
研究の背景
国内の総消費電力の大半はモータが占めており(注1)、その効率向上は、省エネルギーの推進、カーボンニュートラル社会の実現にとって重要です。永久磁石(注2)を使用したモータ(注3)の効率は、ネオジムなどのレアアースを使った非常に強力な磁石を用いることによって向上しますが、昨今、高効率な家電、電動車等の需要の増加に伴い、ネオジム磁石の使用が急増しています。レアアース(注4)は特定国への依存度が高く、供給リスクがあります。そのため、レアアースの使用量削減やネオジムに偏らない資源利用が求められています。同様にレアアースであるサマリウム磁石の代替の研究開発が盛んになっていますが、実際には、価格(コスト)、安定供給という面より、レアアース使用量をできるだけ減らした強力な磁石が求められています。
強磁性窒化鉄について
強磁性窒化鉄(注5)は、1972年に東北大学の高橋實教授がその存在を提唱、近年、単相の強磁性窒化鉄(Fe16N2)粉末を大量に作製することができるようになりました。理論的にはネオジム磁石を凌駕する可能性があるといわれています。ありふれた鉄元素及び窒素元素より構成されることより、所謂、元素リスクから解放される点から非常に注目されている金属間化合物です。
成果の特徴
ポイント
- レアアースフリー強磁性窒化鉄の利用でレアアースの使用量を低減
- レアアース元素をネオジムから余剰が見込まれるサマリウムに変更
- ネオジム磁石と同等の性能を確保し、カーボンニュートラル社会に貢献
- ネオジウムボンド磁石を用いたモータと同等の特性を有するモータを実証
今回得られた強磁性窒化鉄系ボンド磁石(図1) (注6)を搭載したモータ(図2)は、鉄系磁性材料に強みを持つFMCが、磁気特性や、分散特性、耐蝕性の優れた高純度の強磁性窒化鉄粉末の大量合成に成功したことを受け、樹脂混練、その加工技術に優れた三恵技研がボンド磁石化技術を開発することにより得られたものです。さらに、東北大学 大学院工学研究科 中村健二教授によるモータ特性評価から、ネオジムボンド磁石(注7)と同等の特性を有することが明らかになりました。
今回開発された強磁性窒化鉄系ボンド磁石の最大の特徴は、2つの異なる磁性成分、すなわち「強磁性窒化鉄」と「サマリウム鉄窒素」(注8)を組み合わせて作られていることです。強磁性窒化鉄は前述のように非常に強い磁力を持つ磁石成分です。一方、サマリウム鉄窒素は、今後使用量の急増が予想されているレアアースであるネオジムを使わない強力な磁石です。通常、こうした異なる磁石成分を混ぜると磁石としての特性が損なわれがちですが、独自の技術を用いて、これらを一体化し、あたかも単一の材料のように機能する磁石を作り出すことに成功しました。レアアースを全く含まない強磁性窒化鉄の利用によりレアアースの使用量を抑えつつ、強力で効率的な磁石を提供できるようになりました。また、複数の成分を組み合わせることで、磁石の特性を細かく調整することができるようになり、用途に応じた最適な性能を引き出すことも可能となりました。
今回開発に成功した新しい永久磁石は、今後のモータ技術の進化を支える重要な技術です。今後も、三恵技研、FMC、および東北大学は、共同でこの磁石の性能がどのようにすればより強力で効率的になるかの探求を継続していきます。また、この磁石を大量生産するための技術開発も進めていきます。これにより、より多くの企業や消費者に対しこの革新的な技術を提供できるようになります。並行して、モータ製造メーカと共同で、この磁石を使った新しいモータ製品の開発も進めていく予定です。これらの研究開発により、従来のモータよりも高性能で省エネルギーなモータが実現できると考えています。
用語説明
(注1)データの出典
一般社団法人日本電機工業会「トップランナーモータ」
(注2)永久磁石
N極およびS極を有し、それぞれの極から磁束を永久に発生させることができる磁石。外部からの影響を受けないで安定して磁束を発生させることができる。
(注3)磁石型モータ
磁束の変化を利用して電気エネルギーを回転運動エネルギーに変換するモータ動作の中で、磁束変化を担う箇所に磁石を用いたモータ。小型で高効率・高トルクモータには磁束変化を大きくするために永久磁石を用いる。
(注4)レアアース
31鉱種あるレアメタルの一種で、17種類の希土類元素の総称。その内、ガドリニウム(Gd)よりも原子量が小さい元素を軽希土類元素、大きい元素を重希土類元素と呼ぶ。磁石用途だけではなく、光学材料や触媒、研磨剤など様々な用途に用いられる。
(注5)強磁性窒化鉄
純鉄よりも高い飽和磁化、大きな磁気異方性を持っている。鉄とわずか11at.%の窒素のみから構成され、基本的にレアアース・レアメタルを含まない強磁性体窒化物。
(注6)ボンド磁石
磁性粉末と樹脂を混錬するなど、比較的低温プロセスを用いて複合化させた磁石。焼結プロセスなどの高温プロセスの適用が難しいサマリウム磁石などはボンド磁石が主流となる。
(注7)ネオジムボンド磁石
レアアースであるネオジム(Nd)を含むボンド磁石で、元素記号を用いてNd-Fe-Bボンド磁石と表される。自動車や電気自動車、洗濯機やエアコンなどの家電製品などフェライト系磁石に比べパワーが必要なモータに使用されている。
(注8)サマリウム磁石(サマリウム鉄窒素磁石)
レアアースであるサマリウム(Sm)を含む磁石で、元素記号を用いてSm-Fe-N磁石と表される。ネオジム磁石に比べ同等の飽和磁化と大きな磁気異方性を有し、ネオジム磁石代替材料のひとつとして改めて注目されている。