固体酸化物セルのコバルト使用量を削減
- グリーン水素の利用・製造コストの低減に貢献 -
2024/09/24
研究室ウェブページ
発表のポイント
- 固体酸化物セル(注1)は発電・水素製造のためのデバイスです。
- わずか1体積%のコバルト酸化物が電極活性向上に有効と実証しました。
- 燃料電池・水素製造装置のコスト低減に貢献します。
概要
近年、グリーン水素の利用・製造技術として、700℃近傍で作動する固体酸化物セル(SOC)が注目されています。このSOCの実用化に向けては、セルの低コスト化が重要な課題であり、解決策の一つとして空気側電極材料中の高価なコバルト酸化物の使用量削減があります。
東北大学大学院工学研究科と同大学SOFC/SOEC実装支援研究センター(注2)の高村仁教授らは、コバルト酸化物の分散状態を精密に制御することにより、従来よりも微量のわずか1体積%の添加で十分な酸素吸着・解離速度が得られることを発見し、電極材料のコバルト使用量を大幅に削減できる可能性を示しました。
本成果は、2024年9月23日に学術誌ACS Applied Materials & Interfacesに掲載されました。
研究の背景
近年、グリーン水素関連技術として固体酸化物セル(SOC)の開発が進められています。現在、SOCは700℃近傍で作動し、発電に加えて、その逆作動、すなわち、電力による水蒸気の電気分解で高効率な水素製造が可能です。SOCの長所は、発電・水素製造に用いるアルカリ形や高分子膜形など室温近傍で作動する他の方式に比べて効率が高いことですが、短所として、高温作動に由来する経時劣化や、材料選択の制限による製造コストの高さが指摘されています。特に、低コスト化は実用化に向けた重要な課題であり、解決策の一つに、電極材料に用いられる高価なコバルト(Co)の使用量削減があります。現在、空気側の電極材料には金属成分として10モル%から50モル%程度のコバルトが必要であり、一般にコバルト量が多いほど発電・水素製造能力が高くなります。これまでにコバルトの役割として、空気中の酸素分子を酸化物表面で吸着・解離させ、酸化物中に取り込む反応速度の促進が示唆されていますが、その反応速度とコバルト量の関係や、どこまでコバルト量を削減できるかは不明でした。
今回の取り組み
そこで本研究では、従来よりも微量(1-10体積%)のコバルト酸化物(Co3O4)の分散状態を制御した試料を作製し、酸素の吸着・解離速度を評価したところ、わずか1%のCo3O4で十分な効果が得られることを発見しました。SOCの固体電解質・電極材料には様々な組み合わせが用いられますが、今回、蒲原紳乃輔氏(研究当時学部4年生)と高村仁教授らの研究グループは、バリウム-ジルコニウム(Ba-Zr)系プロトン伝導体(注3)とCo3O4から構成される電極材料を対象として、Co3O4の分散状態を制御しました。図1(a)に示すように、630℃の熱処理ではCo3O4が微細な粒子としてプロトン伝導体と混合された状態となるのに対し、(b)の880℃熱処理ではプロトン伝導体中に均一に固溶することが分かりました。これら電極材料試料に酸素が吸着・解離し、取り込まれる速度(酸素表面交換反応速度)は、図1(c)に示すように、1%の添加で反応速度はCo3O4無添加に対して6.1倍となりました。また、低温熱処理により単にCo3O4粒子を分散した場合でも10%添加で高温熱処理と同等の高い反応速度が得られました。この結果は、電極材料表面での酸素の吸着・解離の促進には、必ずしも数10%から50%といった多量のコバルトは必要なく、分散状態の最適化により数%から10%程度のCo3O4添加でも可能ということを示しています。
今後の展開
本研究により、SOC電極材料におけるコバルト使用量を大幅に削減できる可能性が示されました。一方、電極材料には、酸化物表面での反応速度に加えて、電解質材料との化学的・熱的特性のマッチングや、集電のために高い電気伝導度が求められます。今後は、コバルト量低減がこれら他の特性に及ぼす影響も考慮し、実際のSOC用電極材料の低コスト化に取り組みます。
謝辞
本研究の一部は、JSPS科研費JP22H04914、内閣府総合科学技術・イノベーション会議/戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期「スマートエネルギーマネジメントシステムの構築」JPJ012207(研究推進法人:JST)の支援を受けて実施されました。また、掲載論文は東北大学「令和6年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業」によりOpen Accessとなっています。
用語説明
(注1)固体酸化物セル(SOC:Solid Oxide Cell)
電解質に固体酸化物を用いる燃料電池と、その逆作動で水蒸気の電気分解により水素を得る電気化学デバイスの総称。それぞれ固体酸化物形燃料電池(SOFC :Solid Oxide Fuel Cell)、 固体酸化物形電解セル(SOEC :Solid Oxide Electrolysis Cell)とも称される。
(注2)東北大学SOFC/SOEC実装支援研究センター
2023年7月10日にSOFC/SOEC技術の早期社会実装を支援することを目的として東北大学大学院工学研究科と大学院環境科学研究科が共同で設置。複数業種の企業と東北大学のSOFC/SOECに関する研究グループからなる共創プラットフォーム。
2023年7月10日 東北大学プレスリリース
(注3)バリウム-ジルコニウム(Ba-Zr)系プロトン伝導体
固体酸化物中をプロトン(水素イオン:H+)が伝導する材料であり、350-600℃程度での利用が期待されている。
論文情報
著者: Shinnosuke Kamohara, Akihiro Ishii, Itaru Oikawa, Hitoshi Takamura*
*責任著者: 東北大学大学院工学研究科 教授 高村 仁
掲載誌: ACS Applied Materials & Interfaces
DOI: 10.1021/acsami.4c10490
お問合せ先
東北大学大学院工学研究科・SOFC/SOEC実装支援研究センター 教授 高村 仁
TEL:022-795-3938
E-mail:takamura@material.tohoku.ac.jp