小型センサで植物を見守るスマート農業の新技術を開発

- クラウド連携でいつでも、どこでも健康状態のモニタリングが可能に -

2024/10/10

【工学研究科研究者情報】
〇大学院工学研究科電子工学専攻 准教授 宮本 浩一郎
研究室ウェブページ

発表のポイント

  • 植物の葉の裏面に取り付けて、葉の色の変化、クロロフィル(注1)量、ストレス応答を検出する小型センサを開発しました。
  • 開発したセンサは、耐水性でバッテリー駆動による長期連続測定が可能な上、測定データをクラウド経由でいつでも、どこからでも確認可能です。
  • 比較的低コストで実現できるため、センサを多数設置することで、植物の健康状態の広範囲あるいは高密度でのモニタリングが可能になります。

概要

気候変動や人口増加の影響により、農業では効率的な資源管理と生産性向上が急務となっています。こうした背景から、スマート農業が注目されており、特に遠隔で植物の状態を把握できる技術が求められています。

東北大学大学院工学研究科の宮本浩一郎准教授、大学院生命科学研究科の上妻馨梨助教(現:京都大学大学院農学研究科)は、植物の健康状態を遠隔からスマートフォンなどの端末で確認できる新しい小型センサを考案・開発しました。このセンサは植物の葉の裏側に取り付けることで、太陽光を遮ることなく、葉の生理応答を正確に測定することが可能です。測定データはオンラインストレージで共有され、遠隔かつリアルタイムにモニタリングが可能です。また、葉色やクロロフィル含量、環境ストレスの検出も可能で、長期連続および多点同時測定システムの実現への道を拓きます。この小型センサはわずか数千円で作製可能で、農業分野などへの活用が期待されます。

本成果は、2024年9月24日にバイオセンシングに関する専門誌Sensing and Bio-Sensing Researchに掲載されました。

研究の背景

気候変動や人口増加の影響により、農業では効率的な資源管理と生産性向上が急務となっています。特に、近年の高温、多雨、乾燥といった急激で極端な気象変化は、植物に大きなストレスを与えており、短期的には農作物の収量に影響を及ぼし、中長期的には農林業の持続性や生態系の多様性にも深刻な影響を与える可能性があります。そのため、環境変動に対する植物の生理応答やストレス評価は解決すべき重要な技術課題です。

しかし、個体レベルでの植物の手動測定は煩雑で、高額な装置が必要になるため、フィールドでの試料や測定ポイントには限界があります。昨今では航空機やドローンを用いたリモートセンシングも行われていますが、上空からの光学観察では植物群落の表面的な情報しか得られず、補正が必要であるほか、正確な経過観察が難しいなどの課題が残っています。

今回の取り組み

研究グループはこの課題を解決するため、植物の葉の裏側に直接取り付けるセンサを考案・開発しました(図1)。センサには小型の分光センサと光源が搭載され、反射分光測定により葉色を測定します。センサを葉の裏に固定することで太陽光を妨げず、同じ場所を繰り返し測定することで、変化を正確に検出できます。さらにバッテリー駆動やWi-Fi通信を介したクラウドストレージへのデータ転送、防水性の実現により、屋外でも1か月以上の連続稼働が可能です。

センサの機能テストでは、夏から秋にかけて採集した約30種類の植物のさまざまな色の約90枚の葉を使用し、市販の分光器との測定結果を比較しました(図2)。その結果、センサが検出できる8つの波長のうち7つで信頼性が確認され、正確に色を判別できることが示されました。また、波長620nmの反射率は、市販のクロロフィル計測器の測定結果と高い相関を示すことも明らかになりました。

次に、センサが植物の環境ストレス応答を検出できるかを調べました。実験には、光照射によって環境ストレス応答を示すシロイヌナズナの変異体を用いました。その結果、550nmの反射率の変化が環境ストレスに対応することが明らかになりました。これは従来用いられてきたPRI指標(Photochemical Reflectance Index)の検出波長や知見とよく一致します。

さらに、屋外で樹木(ダケカンバ)の葉にセンサを取り付け、2週間にわたって紅葉を測定しました。測定結果(図3)は、紅葉による色変化や落葉、枯死の過程を示しています。これらの測定データの中から、実際のクロロフィル量の低下の様子、日照強度に応じたストレス応答指標の変動を観察することができました。


図1 植物の葉の裏に直接取り付けるセンサ。葉の裏側に取り付けることで、光を遮らず、精度の良い測定が可能となりました。野外で観測したデータは端末からリアルタイムに見ることができます。

図2 センサの機能テストに用いた約30種の植物葉。安価な小型センサでも、高精度の分光器と同様の精度で多様な色の葉を計測できることを確認しました。

図3 紅葉中のダケカンバを2週間に渡って観測しました。(上)8波長の経時変化。(中)日照量の推移。(下)実際の葉の色の変化。緑色が黄色、茶色と変化していく中で反射率が増減する様子が分かります。波長別の数値から、クロロフィル量やストレス応答を数値として算出することができます。

今後の展開

本研究は、植物用の新しいセンサを提案しました。葉の裏に取り付けることで、色変化を正確かつ連続的に取得することができることを示しました。さらに、クロロフィル量や環境ストレス応答も検出できることが明らかになりました。植物の光学観察から生理活性やストレスを検出するための分光パラメータはこれまでの研究でも多く提案されています。本センサの測定情報からそれらのパラメータを導出することで、植物の状態をさらに正確に評価できることが期待できます。また、本センサは極めて廉価な構成であるため、多数のセンサを設置して多点同時の測定網を整備することができます。今後は、スマート農業、森林生態研究など幅広い応用が期待されます。

謝辞

JST 創発的研究支援事業(JPMJFR2276)、科研費 挑戦的研究(萌芽)(JP22K19196)、市村清新技術財団 植物研究助成、TIA連携プログラム探索推進事業「かけはし」の助成を受けて研究開発を実施しました。

用語説明

(注1)クロロフィル

植物が光合成を行う際に光を集める役割を持つ緑色の色素。光合成活性や葉内の窒素量と密接に関与するため、クロロフィル量の測定は植物の健康状態の指標になります。

論文情報

タイトル: Analysis of plant physiological responses based on leaf color changes through the development and application of a wireless plant sensor
著者: Kaori Kohzuma, Ko-ichiro Miyamoto
責任著者1: 東北大学大学院生命科学研究科 助教 上妻馨梨(現所属:京都大学大学院農学研究科、旧所属:東京大学理学系研究科、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター)
責任著者2: 東北大学大学院工学研究科 准教授 宮本浩一郎
掲載誌: Sensing and Bio-Sensing Research 46(2024),100688.
DOI: 10.1016/j.sbsr.2024.100688

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学大学院工学研究科電子工学専攻 准教授 宮本 浩一郎
TEL:022-795-7075
E-mail:koichiro.miyamoto.d2@tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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