津波が港湾ネットワークにもたらす影響を評価する手法を開発

- マニラ海溝津波が発生すれば 東日本大震災時より経済損失が大きい可能性 -

2025/01/06

発表のポイント

  • 津波が世界の港湾ネットワークに与える影響を、地球温暖化による海面上昇も考慮して包括的にリスク評価する手法を新たに開発しました。
  • マニラ海溝での巨大地震・津波シナリオを用いて分析したところ、現在の海面水位では最大11港湾が被害を受ける一方で、地球温暖化による将来の海面上昇時には最大15港湾が被害を受ける可能性が示されました。
  • 「媒介中心性変化率」(注1)により、津波で影響を受けにくい港湾の機能を評価し、代替港湾を示すことも可能にしました。

概要

津波は港湾や港湾ネットワークに打撃を与え、世界的な経済損失をもたらすことがあります。しかし、これまでそのリスク評価は十分になされていませんでした。

東北大学災害科学国際研究所のチュア コンスタンス特任研究員をはじめとする研究チームは、世界の港湾ネットワークの位相、港湾同士の接続性、地球温暖化による海面上昇等を考慮して、津波が港湾および世界の港湾ネットワークにもたらすリスクを包括的に評価する手法を開発しました。マニラ海溝で巨大地震・津波が発生するシナリオを用いて分析した結果、現在の海面水位では最大で11港湾が被害を受ける一方で、2100年には気候変動がもたらす海面上昇により最大で15港湾が被災する可能性が示されました。東日本大震災時より経済損失が大きくなる可能性もあります。さらに、新たな指標「媒介中心性変化率」を導入し、津波で影響を受けにくい港湾の機能を評価して代替港湾を示すことも可能にしました。本手法は、津波のリスク把握や事業継続計画(BCP)に活用可能です。

本研究成果は、2024年12月4日、npj Natural Hazardsに掲載されました。

詳細な説明

港湾は海面水位の大きな変動に弱く、港湾が機能を停止するとその港湾が航路に含まれるネットワーク全体に影響が及び、海運業は深刻な打撃を受けて大きな経済損失となることがあります。2011年東日本大震災の際、津波が港湾や船舶に与えた経済被害は最大1兆8,000億円にのぼり、港湾の機能停止により1日5,100億円の海上貿易の損失が数カ月間にわたり生じたと推計されています。しかし、津波が世界の港湾ネットワークにもたらすリスクの評価はこれまで十分に進んでいませんでした。

このたび、東北大学災害科学国際研究所のチュア コンスタンス特任研究員、アナワット サッパシー准教授、今村文彦教授、南洋理工大学のスウィッツァー アダム教授らを含む国際研究チームは、津波が港湾および世界の港湾ネットワークに与えるリスクを包括的・定量的に評価する手法を開発しました。この手法はネットワーク理論と津波ハザード評価を組み合わせたものであり、世界の定期船ネットワークの位相や港湾同士の接続性、さらには近年懸念されている地球温暖化による海面上昇等も考慮しています。ネットワークの位相の変化と、津波によって影響を受ける航路数および最も多くの航路が影響を受ける港湾を定量的に評価するものです。

研究チームは、この手法に南シナ海のマニラ海溝で巨大地震・津波が発生するシナリオを適用し、世界の港湾および港湾ネットワークに生じるリスクを分析しました。分析にあたり、津波高に関するデータに加え、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書」の最新データに基づく将来の海面上昇も考慮して計104シナリオを検討しました。マニラ海溝地震・津波シナリオを現実に即した内容にするため、アジアの海面上昇モデリング、マニラ海溝断層に関する固体地球物理学、津波数値解析の各専門家も協力し、各ハザードに関する最新の知見とリスク評価モデルを提供しました。

その結果、マニラ海溝地震・津波は現在の海面水位では最大で11の港湾に被害を与え、また2100年の海面上昇条件下では最大で15の港湾に被害を与える可能性が明らかになりました(図)。最も被害の大きい港湾は200日以上も機能が停止することが予測されます。経済損失の度合いは、港湾の機能停止期間ではなく年間貨物取扱量と関係していました。海面上昇による津波高や港湾ネットワークへの影響は場所によって異なりますが、どのシナリオでも香港、マニラ、高雄の各港湾の貿易損失額が大きいことが示されました。また、寸断される航路の数は2004年のインド洋津波や2011年の東日本大震災時を上回っていました。これは主に、南シナ海に多くのハブ港湾があり、世界有数の海上輸送の要所となっているためです。さらに本研究は、新たな指標「媒介中心性変化率」を導入し、津波で影響を受けにくい港湾の機能を評価して代替港湾を提示することも可能にしました。

本手法は他地域の津波リスク評価にも適用が可能です。本手法により、港湾・海運関係者は津波のリスクを事前に把握して防災・減災に生かし、被災後も競争力を維持するための事業継続計画 (BCP)を考えることが可能となります。

用語説明

(注1)媒介中心性変化率

「媒介中心性」とは、対象となる結節点(港湾)がそれとは別の2つの結節点(港湾)間の最短経路上にある回数の指標で、対象の港湾が港湾ネットワーク全体においてどのくらい重要であるかどうかを示す。「媒介中心性変化率」とは、津波の前後で港湾の媒介中心性がどのくらい変化したかを示す。



a. コンテナサービスの港湾ネットワーク(上図)。
b. 現在の海面水位で被災することが推定される港湾 (n = 11) (下左図)
c. 2100年までの海面上昇シナリオで被災が推定される港湾 (n = 15)。(下右図)
※媒介中心性変化率が0より大きい場合(オレンジ色の点)は、対象港湾が他の港湾間の「最短経路」に位置する頻度が増加し、代替の中継港として機能することを示す。媒介中心性変化率が0より小さい場合(青色の点)は、対象港湾が他の港湾間の「最短経路」に位置する頻度が減少し、予定されていた船舶が寄港せず、他の港湾へ転換されることを示す。

論文情報

タイトル: An approach to assessing tsunami risk to the global port network under rising sea levels
著者: Constance Ting Chua, Takuro Otake, Tanghua Li, An-Chi Cheng, Qiang Qiu, Linlin Li, Anawat Suppasri, Fumihiko Imamura & Adam D. Switzer
*責任著者:東北大学災害科学国際研究所 チュア コンスタンス特任研究員(津波工学)
掲載誌: npj Natural Hazards volume 1, Article number: 38 (2024)
DOI: 10.1038/s44304-024-00039-2
※ 著者のうち、Takuro Otake(大竹 拓郎)氏、An-Chi Cheng(鄭 安棋)氏は、研究当時、大学院工学研究科に在籍

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学災害科学国際研究所 准教授 サッパシー アナワット
TEL:022-752-2090
E-mail:suppasri.anawat.d5@tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学災害科学国際研究所 広報室
TEL:022-752-2049
E-mail:irides-pr@grp.tohoku.ac.jp
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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