研磨を必要としない表面平滑化技術を開発

- 次世代電子デバイス実装に必要な原子レベルの平滑な接合面を実現 -

2025/01/28

【工学研究科研究者情報】
〇大学院工学研究科電子工学専攻 教授 日暮 栄治
研究室ウェブページ

発表のポイント

  • 次世代電子デバイスの実現には、素子にダメージを与えない低温接合が重要で、中でも材料を溶融させずに固体のまま接合する固相低温接合にはナノレベルで平滑な接合面が必須です。
  • 従来技術である除去加工による平滑化(研磨)ではなく、小さな素子や複雑な形状に適用可能な、付加加工による平滑化技術を開発しました。
  • 電子デバイス実装に広く用いられる金(Au)めっき膜の接合面を、Au薄膜の転写による平滑化技術を開発し、常温接合を達成しました。

概要

電子実装技術(注1)は、昨今注目される半導体を含む電子デバイスの製造において要となる技術です。特に接合技術は、電気的・機械的接続や封止など、多くの工程で必要とされる重要な基盤技術です。

東北大学大学院工学研究科電子工学専攻の日暮栄治教授らは、産業技術総合研究所デバイス技術研究部門集積化MEMS研究グループの倉島優一研究グループ長らの研究グループならびに関東化学株式会社の清水寿和副主席研究員らのグループと共同で、表面が粗いAuめっき膜を平滑なAu薄膜に重ねる付加的な平滑化手法を新たに開発しました。具体的には、表面活性化接合(注2)技術とテンプレートストッピング(注3)技術を組み合わせることで、研磨工程を用いずにAuめっき膜を平滑化し、常温接合を実現しました。

本研究は2025年1月18日の学術誌Sensors and Actuators A: Physical のオンライン版に掲載されました。


図1. 本研究で開発した、表面活性化接合とテンプレートストリッピングを組み合わせた技術に基づく平滑化プロセス

研究の背景

次世代小型電子デバイスの実装工程には、熱によるダメージや残留応力(注4)を避けるため、低温での接合技術が求められます。Auめっき膜を介した接合は、電気的接続や封止などに広く用いられていますが、素子への負荷を軽減するために、接合プロセスの温度を可能な限り低く抑える必要があります。

しかし、一般に、接合面の平滑度が低いと隙間が生じやすくなり、密着性を上げるためには、より高い温度や圧力が必要となり、矛盾が生じてしまいます。接合プロセス温度を低下させるには、接合面の平滑化技術が不可欠です。特に、熱に極めて弱い材料や熱膨張係数差の大きな組合せの用途においては、接合温度を常温レベルまで下げる必要があり、その実現には原子レベルで平滑な接合面が求められます。接合面の平滑化には従来技術として、除去加工である研磨が用いられてきましたが、小さな面や複雑な形状を平滑化するのが難しいという課題がありました。

今回の取り組み

日暮教授らの研究グループは、表面活性化に基づくAuの常温接合技術に取り組んできました。本研究では、表面活性化接合とテンプレートストリッピング技術を組み合わせ、粗いAuめっき膜に平滑なAu薄膜を転写し、付加加工によって平滑化する新たな技術を開発しました(図1)。これは、表面活性化接合によって、別途テンプレート上に形成したAu薄膜を粗いAuめっき膜に転写する技術です。これにより、もともと粗かったAuめっき膜の表面に、Au薄膜を繰り返し転写することで、表面が平滑化できることがわかりました(図2)。これは、ポリイミド(注5)製テンプレートのナノレベルの変形とAuの原子拡散により、Auめっき膜の凹凸が吸収されるためです。十分に平滑化されたAuめっき膜は、熱を加えなくとも常温で強固な接合を達成できることを実証しました。また、平滑化したAuめっき膜にシリコン(Si)チップを常温接合した試料のせん断強度測定試験では、転写したAu薄膜から破断するわけではなくSiチップが先に破壊されてしまうほど強固に常温接合されていることがわかりました。

今後の展開

本研究成果は、研磨などの除去加工を用いず、付加加工に基づく新たな平滑化技術を開発したものです。電子デバイスの製造プロセスに広く用いられるAuめっき膜の平滑化とその常温接合の応用を示したことで、将来の電子実装技術の発展に資するものと期待されます。


図2. 平滑化前のAuめっき膜断面(左)と、平滑化後のAuめっき膜断面(右)

謝辞

本研究はJST A-STEP(JPMJTM20BN)の支援を受け行われました。また、本研究成果に関する論文は、「東北大学2024年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業」の支援を受けました。

用語説明

(注1)電子実装技術

半導体や電子部品を基板に取り付け、電気的接続や機械的固定を行い、電子機器として動作可能な形態にする技術。特に、Auめっき膜を用いた低温接合や平滑化技術のように、接合温度や素子への負荷を低減しつつ高い信頼性を確保するプロセスは、次世代の小型・高性能電子機器の実現において重要な役割を果たす。

(注2)表面活性化接合

アルゴンイオン等のイオン衝撃により接合面の吸着層や酸化膜を除去し、固体表面が本来持っている凝着エネルギーを利用して、固体同士を常温ないし低温で接合する技術。

(注3)テンプレートストリッピング

平滑なテンプレート上に堆積させた金属膜をテンプレートから剥離することで、テンプレート表面と同等に平滑な面を得る手法。

(注4)残留応力

材料や構造物の内部に外部からの力が加わっていない状態でも残る応力。一例として、熱や機械的な加工によって材料が変形した後、完全に元の状態に戻らない場合に発生する。

(注5)ポリイミド

耐熱性、耐化学性、機械的強度が非常に優れた高分子材料で、プラスチックの一種。

論文情報

タイトル: Room temperature bonding of Au plating through surface smoothing using polyimide template stripping
著者: Kai Takeuchi, Shogo Koseki, Le Hac Huong Thu, Takashi Matsumae, Hideki Takagi, Yuichi Kurashima, Takahiro Tsuda, Tomoaki Tokuhisa, Toshikazu Shimizu, Eiji Higurashi*
*責任著者: 東北大学大学院工学研究科電子工学専攻 教授 日暮栄治
掲載誌: Sensors and Actuators A: Physical
DOI: 10.1016/j.sna.2025.116211

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学大学院工学研究科電子工学専攻 教授 日暮 栄治
TEL:022-795-7057
Email:higurashi@tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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