バイオマスからのテトラヒドロフラン高収率合成法の開発 ~二酸化炭素排出削減に貢献~
2014/12/22
東北大学大学院工学研究科応用化学専攻の冨重圭一教授、中川善直准教授らの研究グループは、株式会社ダイセルとの共同研究により、糖の発酵と脱水により得られる1,4-アンヒドロエリスリトールから、溶媒等で幅広く利用されるテトラヒドロフラン(THF)を高効率で合成する触媒反応系の開発に成功しました。この技術は、従来の石油由来C4化学品製造を代替し、二酸化炭素の排出削減に貢献します。また、近年のシェールガス革命に伴う石油由来C4製品供給の減少を補うことも期待されます。
開発した反応系では、レニウムとパラジウムを酸化セリウムに担持させた触媒を用い、1,4-アンヒドロエリスリトールを水素還元することで99%以上の収率でTHFを得ることができます。反応速度および触媒の安定性もきわめて優れています。さらに、糖アルコール類の部分還元にも適用でき、キシリトールからペンタノール類、ソルビトールからヘキサンジオール類を85%以上の収率で得ることに成功しました。この成果は2014年12月17日付のワイリー社発行の学術雑誌Angewandte Chemie International Edition(注1)に掲載されました。
(注1)Angewandte Chemie International Edition:化学分野のトップ総合誌として知られる。
http://onlinelibrary.wiley.com/journal/10.1002/%28ISSN%291521-3773
石油の枯渇と二酸化炭素排出削減の観点から、現在石油から製造されている化成品をバイオマス等再生可能資源から製造する方法の開発が注目されています。加えて、近年のシェールガス革命により、石油由来ナフサを原料とする石油化学は競争力が低下しつつあり、特に、ブタジエン、1,4-ブタンジオール、テトラヒドロフラン(THF)等のC4化合物について石油原料からの代替は急務となっています。一方、エリスリトールは、現在糖の発酵により製造され、主に甘味料として用いられているC4の糖アルコールです。また、将来発酵の原料や方法の開発により大規模化や低コスト化も見込まれています。エリスリトールは酸触媒を用いて脱水することで効率よく1,4-アンヒドロエリスリトールに変換できることが知られています。しかし、エリスリトールおよび1,4-アンヒドロエリスリトールはそれ以上の選択的な化学変換が難しく、化学工業原料としてはほとんど着目されていませんでした。

今回開発した反応系では、主たる活性金属であるレニウムに助触媒であるパラジウムを添加し、酸化セリウムに担持した触媒を用います。1,4-アンヒドロエリスリトールの1,4-ジオキサン溶液に触媒を加え、数十気圧の水素で加圧して140~180℃に加温し反応を行い、99%以上の収率でTHFを得ました。従来知られていた均一系レニウム触媒では、水素以外の高価な還元剤を用いており、反応速度や触媒回転数も最大で本反応系の1桁下と十分とはいえないものでした。本反応系で用いる触媒は、活性が優れている上に、固体であり濾過で容易に回収でき、微量の付着有機物を焼成除去することで活性低下なく再使用が可能で、触媒金属使用量を最小限に抑えることができます。生成するTHFは溶媒やポリエーテル樹脂の原料として用いられている有用化成品で、現在石油を原料に世界で年数十万トン製造されています。
本反応は隣接する2個のOH基を同時に水素化分解し除去するもので、他のバイオマス由来糖質の変換にも適用できます。例えば、炭素数が奇数の糖アルコール(C3グリセリン、C5キシリトール)からはOH基1個のアルコール類が得られます(収率87%以上)。炭素数が偶数の糖アルコール(C4エリスリトール、C6ソルビトール)からは反応時間を適切に選ぶことでOH基が2個残ったジオール類を収率85%以上で得ることができます。
本研究によるバイオマス由来化合物変換は、石油代替プロセスとしてその使用量削減と二酸化炭素排出削減に寄与すると考えられます。今後、株式会社ダイセルとともに参画している東北大学レアメタル・グリーンイノベーション研究開発センターを拠点とし、実用化に向けたプロセス全体の改良と、触媒に使用する希少金属の使用量削減に取り組んでいきます。