3Dプリンティングで炭素繊維強化プラスチックとチタン合金の接着剤不要な直接接合に成功
- 軽量化を進める航空機や自動車材料などへの適用拡大に期待 -
2025/02/21
発表のポイント
概要
航空宇宙産業や自動車産業を中心に、環境負荷の低減や生産効率の向上を目的としてアディティブマニュファクチャリング(AM)の活用が進んでいます。特に、構造部材の軽量化を実現しAMの付加価値を高めるには、3D積層造形技術を利用した炭素繊維強化プラスチック(CFRP)と金属とのマルチマテリアル化(注3)が重要な課題となります。
東北大学大学院工学研究科の白須圭一准教授らの研究グループは、従来必要とされていた接着層を要さず、3Dプリンタの印刷ベッドに搭載したホットプレートを活用することで、熱融着による金属基板とCFRPの強固な直接接合を実現しました。本技術により、接着剤を使用せずに強固な接合が可能となり、製造コストの削減や環境負荷の低減が期待されます。
本研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の官民による若手研究者発掘支援事業「データ科学を活用したマルチマテリアル・アディティブマニュファクチャリング技術開発」の成果であり、2025年2月5日に専門誌Advanced Engineering Materialsに掲載されました。
研究の背景
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の品質向上により、自動車や航空機をはじめとする輸送機のマルチマテリアル化が進んでいます。特に航空機では、軽量化のためにCFRPだけでなく、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、アルミニウム合金、チタン合金といった様々な材料が組み合わされています。こうした異種材料の組み合わせによるハイブリッド化を推進するために、3Dプリンタを活用したアディティブマニュファクチャリング(AM)技術への関心が高まっています。
これまで研究グループは、表面に円柱状突起を3D造形した金属基板に熱硬化性CFRPを直接圧着した接合体を作製し、従来の接着剤による接合と同等以上のせん断接着強度(20.6 MPa)を実現することに成功しています(注4)。研究グループは、より進んだマルチマテリアルAMの実現を目指して、さらに研究を進めてきました。
今回の取り組み
本研究では、ホットプレートを組み込んだ3Dプリンタを用いて(図(a))、短炭素繊維(注5)と熱可塑性樹脂のポリアミド6からなるCFRP(短繊維CFRTP(Carbon Fiber Reinforced Thermoplastics:熱可塑性CFRP)と表記)をチタン合金基板に直接接合する新しい手法を開発しました。従来は接着剤が必要でしたが、本手法ではチタン合金基板上に短繊維CFRPを積層造形と同時に熱融着させることができるため、より強固な接合が実現できます。引張せん断試験では、最大で27.3 MPaの引張せん断強度を達成しました。また、有限要素解析(注6)を用いて、接着界面の応力分布と破壊メカニズムを明らかにしています。これらの実験および解析結果に基づき、3Dプリンタを用いた短繊維CFRPの三次元構造の作製が可能であることを実証しました(図(b))。
さらに、短繊維CFRPを融着層とすることにより、その上に連続炭素繊維(注7)とポリアミド6からなるCFRP(連続繊維CFRTPと表記)を積層できることも確認しました(図(c))。これらの技術の発展により、金属基板上に任意の形状の短繊維CFRPを直接3D造形しながら、その表層を連続繊維CFRTPで補強することも可能となり、航空機・自動車産業に限らずCFRPの適用拡大が期待されます。
今後の展開
本技術により、接着剤を使用せずに金属とCFRPを直接接合できるため、製造コストの削減や環境負荷の低減が期待されます。さらに、連続繊維CFRPを用いた多層構造の作製にも成功しており、より高度な複合材料開発への応用が可能であることを示しました。今後は、曲面基板への適用や接合の耐久性評価を進めることで、さらなる実用化に向けた研究を目指します。本技術は、異種材料を用いたマルチマテリアル分野のブレークスルーとなり、産業界への広範な貢献が期待されます。

図1. 実験結果の概要:(a) ホットプレートを組み込んだ3Dプリンタを用いたチタン合金基板上への短繊維CFRPの積層。(b) チタン合金基板上に融着・積層したフック形状構造物の耐荷重試験の様子。CFRP/チタン合金基板間のはく離は起こらず、フック部の根元で破断していることから、強固な接合が実現されていることが確認できる。(c) 短繊維CFRP(融着層)の上に積層した連続繊維CFRP。
謝辞
本成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の官民による若手研究者発掘支援事業(JPNP20004)およびJSPS科研費(JP23K03585)の助成を受けたものです。また、本研究成果に関する論文は、「東北大学2024年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業」の支援を受けました。
用語説明
(注1)炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic: CFRP)
強化材としての炭素繊維と、母材となる樹脂から構成される複合材料で、軽量でありながら高い剛性と強度を発揮する。母材樹脂の種類によって、熱硬化性CFRP(化学反応により一度硬化すると再加工ができず、優れた耐熱性や耐薬品性を有する)と、熱可塑性CFRP(加熱することで樹脂が軟化し再成形が可能なため、加工性に優れ、リサイクルや再利用がしやすい)に大別されるが、本研究では熱可塑性CFRPを3D造形した。
(注2)アディティブマニュファクチャリング(AM)
材料を切削などで除去して部材を製造する従来の方法に対し、材料を積層あるいは付加して製造する方法。3Dプリンタによる造形も含まれる。
(注3)マルチマテリアル化
異なる機能や特性を有する材料を適材適所で組み合わることで、部材の高機能化、多機能化を図ること。
(注4)これまでの研究成果
2022年5月26日付 東北大学プレスリリース『接着剤無しでCFRP/チタン合金の高強度接合を実現 - 金属3D造形による金属表面構造制御により界面はく離を抑制』
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2022/05/press20220526-03-cfrp.html
(注5)短炭素繊維
数百ミクロンから数ミリメートル程度の長さの炭素繊維であり、熱可塑性樹脂に分散させることで、熱可塑性CFRPを作ることができる。長炭素繊維(通常、数センチメートル以上の長さ)や連続炭素繊維(注7)と比較すると、成形加工が容易であり、3Dプリンタによる積層造形にも適しているため、複雑な形状の部品製造や異種材料との接合に適用しやすい。
(注6)有限要素解析
複雑な構造物や材料の応力・変形・熱伝導などを数値的にシミュレーションする手法であり、工学設計や材料評価に広く活用されている。
(注7)連続炭素繊維
繊維が途切れることなく連続して存在する炭素繊維であり、高い強度と剛性を有する。
論文情報
著者: Keiichi Shirasu*, Takeru Mizuno and Hironori Tohmyoh
*責任著者: 東北大学大学院工学研究科ファインメカニクス専攻 准教授 白須圭一
掲載誌: Advanced Engineering Materials
DOI: 10.1002/adem.202402221
お問合せ先
東北大学大学院工学研究科ファインメカニクス専攻 准教授 白須 圭一
TEL:022-795-4026
E-mail:keiichi.shirasu.c1@tohoku.ac.jp