高いひずみ検出感度を示すナノグラニュラー材料を開発

- 高感度・省電力かつ高密度集積が可能なひずみゲージの実現に期待 -

2025/11/11

発表のポイント

  • ナノメートルサイズの金属粒子が絶縁体セラミックス中に分散したナノグラニュラー材料(注1)が、広く利用されている金属箔ひずみゲージ(注2)の約5倍の高いひずみ検出感度を示すことを発見。原理も解明しました。
  • ナノグラニュラー材料の高い電気抵抗率により、金属箔ひずみゲージと比べてひずみ受感部の1/10000以下の小型化や、省電力化が可能です。
  • 省電力かつ力学情報をきめ細やかに検出する新しいひずみセンシングデバイスとして、幅広い用途でIoT社会の発展に貢献することが期待。

概要

物体の変形(ひずみ)を電気信号として検出するひずみゲージは、土木や医療など非常に多くの分野で利用されています。ひずみゲージの高感度化・小型化・省電力化はIoT社会の高度化にとって重要な課題です。

東北大学学際科学フロンティア研究所の増本博教授らの研究グループは、電磁材料研究所、東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)、理化学研究所との共同研究により、金属ナノ粒子が絶縁体中に分散したナノグラニュラー材料が、現在広く利用されている金属箔ひずみゲージと比べ、約5倍の大きいゲージ率(注3)と約107倍の高い電気抵抗率を示すことを発見しました。また、この大きいゲージ率が、ナノ粒子間で起こる電子のトンネル伝導(注4)と、ひずみによるナノ複合構造の変化に起因することを明らかにしました。

この新しい材料を用いることで、省電力かつひずみ受感部が1/10000以下に小型化された高感度ひずみゲージを作製できます。ひずみゲージを集積化することで高密度な力学情報の検出が可能になります。これにより、ロボティクスで人間に近いきめ細やかな動作制御が可能になるなど、新たな有用な用途が開発されることが期待できます。

本成果は2025年11月10日付で科学誌Scientific Reportsに掲載されました。

研究の背景

物体中のひずみといった力学情報を電気抵抗の変化として検出できるひずみゲージは、土木や医療、農業、機械など様々な分野で応用されています。ひずみゲージはゲージ率が大きいほど高感度であり、また、電気抵抗率が高いほど小型化・省電力化に有利です。現在最も広く用いられているのは低コストかつ扱いやすい金属箔ひずみゲージですが、ゲージ率が小さく電気抵抗率も低いため、高感度化や小型化・省電力化が難しいという課題があります。

ナノグラニュラー材料は、ナノメートルサイズの金属粒子が絶縁体セラミックス中に均一に分散した特徴的な構造を有する薄膜材料です(図1a)。物性の異なる2つの相がナノ状態で混在するため、金属と絶縁体の含有比率の違いによってさまざまな物性を示します。金属が多い組成では金属特有の物性が、絶縁体が多い組成では高電気抵抗率や光透過特性が期待されます。さらに、中間領域では両相の機能が複合した多機能性が期待できます。従来は強磁性金属と透明絶縁体を組み合わせることで磁気・電気・光学特性が研究されてきました。

ナノグラニュラー材料の物性は組成以外にもナノ粒子の大きさや形状、ナノ粒子間距離などの内部構造によって変化するため、ひずみを加えることで内部構造が変化し、物性が大きく変化することが期待できます。つまり、電気抵抗がひずみによって大きく変化することが期待できます。さらに、ナノグラニュラー材料は工業的に用いられるスパッタ法で容易に作製でき、再現性や耐熱性にも優れるなど、実用性の高い材料であると言えます。

今回の取り組み

東北大学学際科学フロンティア研究所の内山智元大学院生、王誠特任助教、増本博教授、電磁材料研究所の長谷川唯技術員、小林伸聖研究主監、東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の高橋三郎学術研究員、理化学研究所創発物性科学研究センターの前川禎通客員主管研究員らの研究グループは、ナノスケールの金属粒子を絶縁体中に分散させたナノグラニュラー薄膜が、従来の金属箔ひずみゲージの約5倍の大きいゲージ率(図2)と約107倍の高い電気抵抗率を有する新しいひずみゲージ材料となることを発見しました。

今回の研究では、金属としてコバルト(Co)、絶縁体としてフッ化マグネシウム(MgF2(注5)のターゲットを用いたスパッタ法によりナノグラニュラー薄膜を作製しました。フッ素はCoよりもMgと化合しやすいため、膜中ではCoナノ粒子とMgF2マトリックスは完全に分離して存在します。これにより、電子は薄膜中を金属伝導ではなく、MgF2マトリックスによって隔てられたCoナノ粒子間をトンネル伝導することで移動します(図1b)。理論的解析によって、この薄膜の大きいゲージ率が、ひずみによってCoナノ粒子ではなくMgF2マトリックスのみが変形するという変形機構(図1c)、およびそれによる電子のトンネル伝導の変化に起因して発現することを解明しました。

今後の展開

本研究の成果は従来の金属箔ひずみゲージと比べて約5倍の大きいゲージ率と約107倍の高い電気抵抗率を示す材料を開発したことです。本研究の成果を発展させることによりひずみセンシングデバイスの高感度化および小型化・集積化・省電力化が可能となります。増本教授は本研究成果の社会における活用について「高解像度で力学情報を把握することが可能となり、人間に近いきめ細やかな動作制御の実現など、IoT社会の発展につながる新しい有用な用途への応用が期待できます」と展望を語っています。


図1. a:Co26Mg18F56ナノグラニュラー薄膜の高分解能透過電子顕微鏡像。暗い粒子状の部分がCoナノ粒子で、明るい部分がMgF2マトリックスです。
b:ナノグラニュラー薄膜中での電子のトンネル伝導の模式図。電子は絶縁体をトンネルすることでナノ粒子間を伝導します。
c:ナノグラニュラー薄膜に引張ひずみを加えたときの微細構造変化の模式図。図中のsは粒子間距離、dは粒子径です。s0d0はひずみが加わっていないときの粒子間距離と粒径です。ナノ粒子(d)は変形せず、ナノ粒子間のマトリックス(s)のみが変形することで、大きな電気抵抗の変化が起きます。

図2. Co26Mg18F56ナノグラニュラー薄膜(厚さ340ナノメートル)の電気抵抗とひずみの関係。丸印は実験値で実線は理論値。薄膜の電気抵抗は引張ひずみによって増加し、圧縮ひずみによって減少しました。ゲージ率は10.09、電気抵抗率は3.02×107 µΩ·mであり、従来の金属箔ひずみゲージの約5倍のゲージ率と約107倍の電気抵抗率を実現しました。

謝辞

本研究はJSPS科研費(課題番号JP23K26371、JP24H00388、JP24KJ0362、JP24K00576)の助成を受けて行われました。本研究の一部は、文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ」事業(課題番号:JPMXP1224TU0157)の支援を受けて行われました。

用語説明

(注1)ナノグラニュラー材料

「ナノ」とは、10億分の1(10-9)を表す単位の接頭語で、1ナノメートル(nm)は10億分の1メートル。「ナノグラニュラー材料」とは、母相(マトリックス)中にナノサイズの微小な粒子が分散した材料。本研究で用いたナノグラニュラー材料は、金属相のコバルト粒子を、母相のマグネシウムフッ化物(MgF2)中に分散させた材料であり、この材料の基本特許は2010年に電磁材料研究所から出願されている(特願2010-214360)。

(注2)金属箔ひずみゲージ

金属をフィルム上に蛇行パターンとして形成したひずみゲージ。

(注3)ゲージ率

材料のひずみ検出感度の指標。材料にひずみを加えると電気抵抗が変化する。その時の電気抵抗の変化率と加えたひずみの比のことをゲージ率と呼ぶ。金属箔ひずみゲージのゲージ率はおおよそ2であるため、ひずみが0.01%加わったときの電気抵抗変化率は0.02%となる。

(注4)トンネル伝導

厚さ1ナノメートル前後の薄い絶縁体相によって2相の金属相が隔てられているとき、量子力学的効果によって電子が薄い絶縁体層をすり抜けて片方の金属相からもう片方の金属相へと移動する。このような伝導形態をトンネル伝導と呼ぶ。この現象は絶縁体相が厚いときは起こらず、電子は金属相の間を移動することができない。ナノグラニュラー薄膜では、電子は薄膜中に存在する非常に多くの金属ナノ粒子/絶縁体/金属ナノ粒子の間をトンネル伝導する。

(注5)フッ化マグネシウム

ナノグラニュラー材料に用いられるセラミックス絶縁体として、化学的・熱的に安定な窒化物、酸化物、およびフッ化物がある。その中でもフッ化マグネシウムは、バンドギャップが大きく絶縁性が高いという特徴を示す。

論文情報

タイトル: High-sensitive mechanical response in metal–insulator nanogranular films with large gauge factor
著者: Tomoharu Uchiyama, Wang Chen, Yui Hasegawa, Nobukiyo Kobayashi, Hiroshi Masumoto*, Saburo Takahashi, Sadamichi Maekawa
*責任著者: 東北大学学際科学フロンティア研究所 教授 増本博
掲載誌: Scientific Reports
DOI: 10.1038/s41598-025-24084-7

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学学際科学フロンティア研究所 教授 増本 博(ますもと ひろし)
TEL:022-795-4405
E-mail:hiromasu@fris.tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学学際科学フロンティア研究所 企画部
藤原 英明
TEL:022-795-5259
E-mail:hideaki@fris.tohoku.ac.jp
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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