老朽化と人口減少に直面する下水道の最適解を導く

- 集中ベストミックスを算出する新たな手法を開発 -

2025/12/19

【工学研究科研究者情報】
大学院工学研究科土木工学専攻 助教 大石 若菜
研究室ウェブサイト

発表のポイント

  • 人口減少社会を見据え、下水道の集中型と分散型の最適な組み合わせを定量的に導くことができる新たな枠組みを提案しました。
  • 費用・温室効果ガス排出量・バイオガス回収量を統合的に評価し、費用と環境負荷を同時に低減できることを明らかにしました。
  • 本成果は、安全性と快適性を維持しつつ、持続可能で高効率な下水処理システムの構築に資するものです。

概要

埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故は、暮らしを支える基盤である上下水道インフラが老朽化により危機的な状況にあることを浮き彫りにしました。施設の老朽化が進む一方で人口減少が加速する将来において、誰一人取り残さずに上下水道サービスを維持するためには、従来の“大規模集中型”の仕組みだけに依存せず、地域の人口規模に応じて“集中型”と“分散型”の汚水処理技術を柔軟に組み合わせたシステムを実装していくことが求められます。さらに、公衆衛生の向上、浸水防止、水質保全に加え、脱炭素社会への貢献など、多様な社会的要請にも対応する必要があります。

東北大学大学院工学研究科の大石若菜助教、水谷大二郎准教授らは、スウェーデン農業科学大学(Swedish University of Agricultural Sciences)との共同研究により、既存の大規模下水道インフラの縮小(ダウンサイジング)と分散型技術の導入を組み合わせた最適な「集中分散ベストミックス」を導出する新たな数理モデルを構築しました。

本研究は、人口減少社会における下水道インフラ更新のあり方を世界に先駆けて示したものであり、長期的な人口動態を見据えた計画的なダウンサイジングと数理的根拠に基づく技術選択により、日常生活における安全性と快適性を維持しつつ、高効率かつ全体最適化された下水処理システム構築に資する成果です。

本成果は12月11日に、水分野の学術誌Water Researchに掲載されました。

研究の背景

大規模な集中型下水道インフラは、一定以上の人口密度がある地域でこそ効率的に機能するという特徴があります(図1)。このため、人口減少が進む地域では、現行の規模を維持したまま既存インフラを更新し続けることが難しくなると予想されます。一方、過疎地域や山間部では、従来より浄化槽などの戸別分散型技術が生活環境の改善に寄与してきました。

人口減少社会における下水道インフラ更新では、将来の人口動態を踏まえ、大規模施設の計画的な縮小を進めるとともに、人口密度が高い地域では集中処理を継続し、人口が少ない地域では個別処理へ移行することで、安全性と快適性に関して求められる水準を確保しつつ投資負担を軽減できる可能性があります。加えて、近年は世界的な課題として、下水処理に伴う温室効果ガス排出量の削減や資源循環の促進といった持続可能性への要請が高まっており、経済面だけでなく環境面からもシステムの再構築が求められています。一方で、将来に向けて上下水道インフラをどのように再構築すべきか、集中型と分散型をどのように組み合わせることが最適なのかを定量的に評価する方法論は、これまで確立されていませんでした。

今回の取り組み

本研究では、人口減少が進む社会において、集合処理(下水道)と個別処理(浄化槽)の最適な組み合わせ「ベストミックス」を定量的に算出するための数理最適化モデルを新たに開発しました(図2)。このモデルでは、既存の下水道を更生して維持する場合と、廃止して浄化槽へ転換する場合の双方を対象とし、更新後50年間にわたる更新工事費や維持管理費、温室効果ガス排出量を最小化しつつ、バイオガス回収量を最大化する条件を同時に満たす最適解を求めています。

費用や温室効果ガス排出量、バイオガス回収量は下水処理施設の処理規模に依存し、その処理規模は処理人口と処理区域面積によって決まります。そこで本研究では、区域全体の費用・温室効果ガス・バイオガス回収量を、処理対象人口および処理区域面積をパラメータとする目的関数を設定しました。また、解析対象域を250 mメッシュに分割し、各メッシュに「下水道」または「浄化槽」を割り当てる操作変数を設定しました。そして、解空間の中からより良い解を段階的に絞り込む疑似アニーリング法(最適解を効率的に探索する計算手法)を用いて、最適な組み合わせの探索を行いました。

その結果、現状のシステムを維持した場合には、老朽化施設の更新費用が大きくなり、50年間の総費用が最も高くなることが明らかになりました。また、人口規模が縮小することで、1世帯当たりの費用負担も増加する傾向が示されました(図3)。一方で、すべての世帯を浄化槽へ転換した場合には総費用は大幅に抑えられるものの、各戸での処理に伴う温室効果ガス排出量が増加し、環境負荷が高くなることが明らかとなりました。これに対し、数理最適化により導出した「集中分散ベストミックス」を適用した場合には、費用と環境負荷の双方を同時に低減できることが示され、両者のトレードオフが解消される可能性が示唆されました。

本研究は、人口減少社会における下水道インフラ更新のあり方を世界に先駆けて定量的に示したものであり、長期的な人口動態を見据えた計画的なダウンサイジングと数理最適解に基づく技術選択により、日常生活における安全性と快適性に関する水準を維持しながら、高効率かつ全体最適化された下水処理システム構築に資する成果です。

今後の展開

戦後の日本国内で大規模に整備された上下水道インフラは、いま更新期を迎えています。人口が増加し続け、エネルギーや資源の制約が小さかった時代には、水を集中的に浄水し配水する中央集権的なシステムが最も効率的で、他に有力な選択肢はほぼ存在しませんでした。

しかし現在では、エネルギー制約が顕在化する一方、運転に必要な電源を含め、自律分散型の浄水や水利用を実現する技術が普及しつつあります。これにより、小規模分散型システムを地域の実情に応じて積極的に導入することが、現実的な選択肢となっています。

本研究で構築した数理最適化モデルの枠組みは、目的関数を個々の技術特性に合わせて拡張・改変することで、下水処理システムのみならず、水道システムにも適用可能です。これにより、人口減少社会にふさわしい持続可能な上下水道インフラの設計と更新計画に貢献できることが期待されます。


図1. 世帯あたりの更新・維持管理費用と世帯密度の関係。個別処理と集合処理の交点は、両システムの費用が均衡する世帯密度である。均衡点よりも低い世帯密度では個別処理、均衡点よりも高い世帯密度では集合処理が経済的であることを示しており、「下水道を更新する上での世帯密度の目安」と解釈できる。この図から、下水道の更新には、人口減少率が高いほど施設使用開始時点において高い世帯密度が必要であることがわかる。

図2. 世帯分布と人口減少率に基づき導出された下水道と浄化槽の最適配置。4 km四方のエリアを対象とし、更新後1年目の人口(50,176人)が毎年0.5%ずつ減少する状況を想定した。

図3. 更新・維持管理費用および温室効果ガス排出量について、集中分散ベストミックスと単一システム(「全世帯分、下水道を維持した場合」および「全世帯が浄化槽に切り替えた場合」)を比較した結果。グレイの線は、人口の減少しない将来に向けて集合処理を維持した場合の推定値であり、この線を越えた分が人口減少により生じうる想定外の経済的・環境的負担に相当する。

謝辞

本研究は、クボタ若手研究者のための次世代の水道研究奨励制度、および内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期「スマートインフラマネジメントシステムの構築」JPJ012187(研究推進法人:土木研究所)によって実施されました。

論文情報

タイトル: Adapting Sanitation Systems to Demographic Transitions: Optimizing Hybrid Configurations of Sewered and Non-Sewered Solutions
著者: Wakana Oishi*, Daijiro Mizutani, Yuto Nakazato, Jennifer McConville, Daisuke Sano
*責任著者: 東北大学大学院工学研究科 助教 大石若菜
掲載誌: Water Research
DOI: 10.1016/j.watres.2025.125135

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学大学院工学研究科 助教 大石 若菜
Email:wakana.oishi.d1@tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
Email:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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