アルミニウム合金の腐食の起点を特定するための新手法を開発

- 高耐食アルミニウム部材の設計指針の構築に貢献 -

2026/01/21

【工学研究科研究者情報】
大学院工学研究科知能デバイス材料学専攻 助教 西本 昌史
研究者ウェブサイト

発表のポイント

  • 塩化ナトリウム水溶液中でのアルミニウム合金の腐食に関してpHの緩衝作用(注1)とリアルタイム光学顕微鏡観察により、発生する孔食(注2)の起点を特定するための新手法を開発しました。
  • pHの緩衝作用によりアルミニウム合金表面の金属間化合物(注3)周囲の変色と腐食生成物の沈殿を抑制することで、孔食発生部位を判別できます。
  • 本手法により高耐食アルミニウム合金の開発を促進することが期待されます。

概要

アルミニウム(Al)合金は軽量でリサイクル性に優れることから、自動車などの輸送機器に広く用いられています。近年、電動化の進展により車体が重くなる傾向がある自動車では、軽量なAl合金の利用拡大が期待されています。一方で、使用範囲が広がるほど、さまざまな環境下で長く使える「錆びにくさ(耐食性)」の向上が欠かせません。しかし、Al合金は微細組織が複雑なため、腐食の起点を特定することが困難でした。

東北大学大学院工学研究科の竹内開人大学院生、西本昌史助教、武藤泉教授は、pHの変化を緩和する作用(緩衝作用)をもつ塩化ナトリウム水溶液中で、Al合金表面を光学顕微鏡によりリアルタイムに観察し、孔食の起点を特定する手法を開発しました。この方法では、pHの緩衝作用によって金属間化合物粒子の変色や腐食生成物の堆積を防ぎ、孔食が発生した部分を見分けることができます。この手法を用いて、ダイカスト(注4)用Al合金ADC12(Al-12%Si-2%Cu)における孔食の起点を正確に特定し、その初期進展の様子を明らかにすることに成功しました。

本成果は、2026年1月20日(現地時間)に電気化学に関する学術誌Journal of The Electrochemical Societyのオンライン版で公開されました。

研究の背景

Al合金は軽量でリサイクル性に優れることから、軽量化のため自動車など輸送機器に広く用いられています。なかでも、ダイカスト用Al合金ADC12は、複雑な形状の部品を大量に製造できるという利点から、自動車のエンジンやサスペンション、トランスミッションなど幅広い部品に用いられています。さらに近年では、ADC12が3Dプリンターによる積層造形にも利用できることが示されており、その適用範囲の拡大が期待されています。その一方で、さらなる実用化に向けては、長期的な使用に耐えうる耐食性の向上が求められています。

ダイカスト用Al合金ADC12(Al–12%Si–2%Cu)の凝固組織は主に、Alが濃化した初晶、Al–Si共晶、最終凝固部(注5)から構成され、最終凝固部には銅(Cu)をはじめ、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)などの不純物元素が濃縮しており、凝固過程でAl2Cuなどの金属間化合物が多数形成されます。こうした凝固組織内の電気化学的な不均一性が、孔食の発生に関与していると考えられています。このため、これまでにもAl合金の表面を光学顕微鏡や電子顕微鏡などで観察し、孔食の起点を推察する試みが行われてきました。しかし、表面に多数存在する金属間化合物粒子は酸素の影響で変色しやすく、さらに腐食生成物の付着によって起点の識別が妨げられるため、ダイカスト用Al合金における孔食の起点はこれまで正確な推定はできていませんでした。

今回の取り組み

東北大学大学院工学研究科の竹内開人大学院生、西本昌史助教、武藤泉教授の研究チームは、ダイカスト用Al合金ADC12(Al–12%Si–2%Cu)を対象に、塩化ナトリウムを含むホウ酸-四ホウ酸ナトリウム緩衝液中で腐食試験を行いながら、Al合金の表面を光学顕微鏡でリアルタイムに観察することで、孔食の起点を正確に特定する手法を開発しました。pHの緩衝作用をもつこの溶液を用いることで、金属間化合物粒子上でのアルカリ化を防ぎ、変色を抑制できます。さらに、腐食生成物の堆積も少ないため、孔食が発生した部分を鮮明に観察することが可能となりました。

本研究では、通常の塩化ナトリウム水溶液と、pHの緩衝作用をもつ塩化ナトリウム水溶液(ホウ酸-四ホウ酸ナトリウム緩衝液)で腐食試験を行いました。緩衝作用のない塩化ナトリウム水溶液に浸漬した場合、表面に多数存在する金属間化合物粒子が変色します(図1a)。孔食が発生すると、その付近で水素ガスの気泡が生じ、さらに腐食生成物が堆積します。気泡の位置から孔食の発生を推察することはできますが、変色が著しいため、起点を正確に特定することは困難でした。

一方、開発した手法では、塩化ナトリウムを含むホウ酸-四ホウ酸ナトリウム緩衝液を使用することで、金属間化合物粒子の変色が抑えられます(図1b)。さらに、孔食の発生にともなう水素ガスの気泡が確認された後も、腐食生成物の堆積が少なく、孔食の発生部位を明瞭に観察できることを実証しました。

孔食の発生部位を、走査型透過電子顕微鏡およびエネルギー分散型X線分光法で詳細に分析した結果、孔食の起点は最終凝固部に位置することを突き止めました(図2)。発生した孔食は、Alとケイ素(Si)の共晶組織(注6)の界面に沿って内部へ侵食が進行しており、この界面が孔食の進展経路として機能することも確認されました。また、合金表面に無数に存在する最終凝固部のすべてが起点となるわけではなく、ごく一部の最終凝固部のみが起点となることも明らかになりました。この合金における孔食の起点の分布密度は、1 mm2あたり約50箇所であり、特定の化学組成や金属組織をもつ部分に限って、孔食が発生することを示唆しています。

今後の展開

本研究で開発した緩衝溶液中におけるリアルタイム光学顕微鏡観察の手法は、ダイカスト用Al合金に限らず、他のAl合金の孔食発生メカニズムの解明にも応用が可能です。金属組織と孔食発生挙動との因果関係を明らかにすることで、耐食性を効率的に高めるための材料設計指針を導くことができ、高耐食性Al合金の開発を通じて、自動車部品などの長寿命化にもつながることが期待されます。


図1. (a)塩化ナトリウム水溶液(pHの緩衝作用無し)中でのAl合金表面の光学顕微鏡写真。時間の経過とともに金属間化合物粒子が変色し、腐食生成物が堆積する様子が示されている。(b)塩化ナトリウムを含むホウ酸-四ホウ酸ナトリウム緩衝液(pHの緩衝作用あり)中でのAl合金表面の光学顕微鏡写真。金属間化合物粒子の変色と腐食生成物の堆積が抑制され、孔食の発生した部分が明瞭に観察されている。

図2. 本研究で開発した手法により発見した孔食の起点の断面の走査型透過電子顕微鏡写真およびエネルギー分散型X線分光法による元素マップ。

謝辞

本研究は、科学技術振興機構JST科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業(JPMJFS2102)、日本学術振興会JSPS科研費(JP21K18804、JP22H00254、JP25K01540)、公益財団法人軽金属奨学会の助成を受けて行われました。

用語説明

(注1)緩衝作用

溶液のpHを一定に維持しようとする作用。

(注2)孔食

塩化物イオン(Cl)などの侵食性化学種の作用により、金属表面に局部的な電池ができ、電気化学反応で孔状の小さな腐食が生じる現象。

(注3)金属間化合物

二種類以上の金属元素が特定の割合で結合して形成される化合物。

(注4)ダイカスト

溶けた金属を金型に高速・高圧で注入し、複雑な形状の製品を短時間で大量生産する鋳造技術。

(注5)最終凝固部

溶けた金属が冷却されて凝固する際に、最後に固体になる部分。

(注6)共晶組織

液体が凝固する際に、二種類以上の異なる成分の固体に分離してできる組織。

論文情報

タイトル: Identification of Submicron-Sized Sites Causing Localized Corrosion Initiation and Growth in Die-Cast Al–Si–Cu Alloy
著者: Kaito Takeuchi*1, Masashi Nishimoto*2, Izumi Muto
*責任著者: *1 東北大学大学院工学研究科 大学院生 竹内 開人
      *2 東北大学大学院工学研究科 助教 西本 昌史
掲載誌: Journal of The Electrochemical Society
DOI: 10.1149/1945-7111/ae3647

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学大学院工学研究科 助教 西本 昌史
TEL:022-795-7299
Email:masashi.nishimoto.b8@tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
Email:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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