エンジンのノッキングを抑える「流れの力」を解明

- 経験則に科学的裏付け、より正確な予測モデル構築へ -

2026/01/23

発表のポイント

  • 混合気の流れの影響が強いほど、ガソリンエンジン内の異常燃焼(ノッキング)が回避され、ノッキング耐性が強化されることを明らかにしました。
  • 2023年に発表した理論に基づいて、実際のエンジン内の複雑な流れ条件下でのノッキング予測への道を開きました。

概要

自動車用ガソリンエンジンの熱効率向上を妨げる異常燃焼をノッキングといいます。実際のエンジン内部では、燃料と空気の混合気の複雑な流動がノッキングの発生に影響を与えることが経験的に知られていました。しかし、このような混合気の流れがノッキングにどのように作用するのか、その仕組みは十分に解明されていませんでした。

東北大学流体科学研究所の角田陽大学院生、森井雄飛准教授、丸田薫教授らの研究チームは、流れ場が火炎に作用する条件下で数値シミュレーションを行い、2023年に発見した「火炎からの激しい遷移現象」の臨界条件が変化することを明らかにしました。流れ場の影響が強いほどこの遷移現象が起きる温度が上昇し、結果としてノッキングが発生しにくくなる可能性が示唆されました。

本成果は、実際のエンジン内の複雑な流れ条件を考慮したノッキング予測理論の構築に向けた重要な一歩となります。

本研究成果は、2025年12月30日付で流体物理学の専門誌Physics of Fluids に掲載されました。

研究の背景

自動車用ガソリンエンジンでは、熱効率を高めようとすると「ノッキング(注1)」と呼ばれる異常燃焼が発生しやすくなります。ノッキングはエンジンの損傷を招く恐れがあるため、これを避けながら効率を向上させることがエンジン開発における重要な課題となっています。

本研究チームは2023 年 8 月 29 日にプレスリリースした研究で「火炎からの激しい遷移現象」(Explosive transition of deflagration)を発見し、火炎が存在できなくなる特別な温度条件がノッキング発生と密接に関連していることを明らかにしました(注2)。しかし、この理論は静止した混合気中の火炎を対象としており、実際のエンジン内部で生じる複雑な混合気の流れの影響は考慮されていませんでした。

実際のエンジン内では、ピストンの運動などによって混合気が激しく流動しています。この流れ場がノッキングの発生を抑制する効果があることは経験的に知られていましたが、その物理的なメカニズムは十分に解明されていませんでした。

今回の取り組み

本研究では、エンジン内の流れ場が火炎に作用する状況を再現するため、「対向流火炎」と呼ばれる構成を用いた数値シミュレーションを行いました。対向流火炎では、向かい合う二つのバーナから予混合気が流出します。バーナ間に火炎が形成され、流れの強さを系統的に調査できます。

シミュレーションの結果、流れ場の影響が強くなるほど、火炎からの激しい遷移現象が発生する臨界温度が上昇することがわかりました(図1)。これは、流れの影響下では、より高い温度条件でないとこの遷移現象が起きないことを意味しています。つまり、流れの存在がノッキングの発生を抑制する方向に働くことが、示唆されました。

今後の展開

これまで、エンジン開発の現場では経験的に「流れがノッキングを抑える」ことが知られていましたが、なぜそうなるかは明確ではありませんでした。本研究は、この経験則に対して理論的な裏付けを与えるものです。

従来のノッキング予測は、主に燃料の化学的性質や温度・圧力条件に基づいて行われてきました。しかし本研究により、流れ場の影響も予測に組み込む可能性が示唆されました。これは、より正確なノッキング予測モデルの構築に向けた重要な知見です。


図1. (a)流入温度と燃焼速度の関係。(b)流れ場の影響を代表する伸長率に応じた、黄色と白色の領域の境界で表される火炎からの激しい遷移現象の臨界条件変化。伸長率が上昇するほど(流れ場の影響が強くなるほど)臨界条件は高温に遷移し、流れの存在がノッキングの発生を抑制する方向に働くことが、示唆されている。

謝辞

本研究はJSPS科研費JP19KK0097およびJP24KJ0401の助成を受けたものです。

用語説明

(注1)ノッキング

ガソリンエンジンで発生する異常燃焼。ピストンや、点火プラグから伝播した火炎による圧縮のため、未燃状態の混合気が自己着火する現象。エンジンの破壊を招くこともある。

(注2)火炎からの激しい遷移現象

極端に高温な条件では燃焼化学反応が起こる火炎が、「火炎」として存在できなくなる現象。2023年に本研究チームが発見。

参考リンク

2023年8月29日東北大学プレスリリース
 熱効率向上の弊害、ノッキングの謎に迫る理論構築に成功
 ─着火と火炎の等価性理論を構築、定量予測が可能に!?─

論文情報

タイトル:Effect of flame stretch on the transition boundary of "explosive transition of deflagration"
著者:Akira Tsunoda*, Youhi Morii, Kaoru Maruta
*責任著者:東北大学流体科学研究所 大学院生 角田 陽(大学院工学研究科)
掲載誌:Physics of Fluids
DOI:10.1063/5.0303088

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学流体科学研究所 教授・所長 丸田 薫
TEL:022-217-5296
Email:maruta@ifs.tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学流体科学研究所 国際研究戦略室 広報担当
TEL:022-217-5873
Email:ifs-koho@grp.tohoku.ac.jp
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
Email:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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