従来困難だったコンクリート内部の3D可視化に成功

- 周波数自動可変型超音波技術で老朽化インフラ点検に革新 -

2026/01/28

【工学研究科研究者情報】
大学院工学研究科材料システム工学専攻 教授 小原 良和
研究室ウェブサイト

発表のポイント

  • コンクリートの内部欠陥を3次元で映像化できる超音波(注1)計測技術の新方式を開発しました。
  • 既報の3次元超音波映像法PLUS(注2)(以下、PLUS)技術をさらに発展させ、検査対象に応じて最適周波数を自動で選択できる新システムを実現しました。
  • 本成果は、トンネル、橋梁、高速道路などの老朽化が進むコンクリートインフラの安全性・信頼性の評価・向上に貢献します。

概要

構造物内部の欠陥を非破壊で評価する技術は、老朽化が進むインフラの維持管理に不可欠です。内部欠陥の検査には超音波が広く用いられ、近年は医療分野で開発された超音波フェーズドアレイ(注3)の工業利用も進んでいます。しかし、コンクリートは超音波の減衰が極めて大きく、既存の超音波フェーズドアレイ装置では内部を計測できないという課題がありました。

東北大学大学院工学研究科の小原良和教授、藤川裕翔大学院生らの研究グループは、米国ロスアラモス国立研究所との国際共同研究により、これまで開発してきた圧電探触子送信(注4)とレーザ受信による超多素子2次元マトリクスアレイ(注5)を組み合わせたPLUSを発展させ、検査対象に応じて最適周波数を自動で選択する広帯域送受信システムを融合した「周波数自動可変型PLUS」を開発しました。その結果、多様なコンクリート内部の欠陥を3次元で可視化することに成功しました(図1)。本成果は、老朽化コンクリートインフラの危険箇所の特定に大きく貢献する技術です。

本研究成果は1月28日(米国時間)に、応用物理学分野の学術誌Applied Physics Lettersに掲載されました。また、Featured Articleに選ばれました。

研究の背景

トンネル、橋梁、高速道路などのコンクリート構造物では、老朽化による事故が国内外で多発しています。外観からは分からない内部剥離や空洞が事故原因となる場合も多いものの、目視検査は表面のみ、打音検査も浅い範囲しか評価できません。一方、最新の非破壊超音波検査法として、医療分野で発展した超音波フェーズドアレイの工業利用が進み、内部欠陥を映像化する技術も普及してきました。しかし、コンクリートは超音波の減衰率が極めて大きいため、金属材料向けの超音波フェーズドアレイではコンクリート構造体内部の映像化が困難であり、非破壊検査分野における最難関課題とされてきました。

研究グループはこれまで、圧電探触子とレーザドップラ振動計(注6)を組み合わせた3次元映像法PLUSを開発し(金属材料で実証)、高減衰材料への適用拡大に取り組んできました。

今回の取り組み

本研究では、これまで発展させてきたPLUS技術(圧電探触子送信と超多点レーザ受信による3次元映像法)を基盤に、広帯域超音波送受信と周波数自動最適化機能を融合する新たな取り組みを進めました。圧電探触子は強力な広帯域超音波を送信でき、レーザドップラ振動計は幅広い周波数を非接触で取得できるため、減衰の影響を受けた超音波の最適な周波数帯を自動選択して計測できます。これにより、減衰特性が材料ごとに異なる高減衰のコンクリートにも柔軟に対応できる「周波数自動可変型PLUS」を実現しました(図2)。

さらに、受信レーザのスキャン点数を任意に増やすことが可能なPLUSの特長を活かし、従来の2次元圧電マトリクスアレイ探触子の限界(約256素子)を大幅に上回る数千素子規模の2次元マトリクスアレイを構築できます。これにより、高密度受信と広帯域送受信の融合による高分解能3次元映像化が可能となりました。本研究では、この手法を用いて、モルタルや炭素繊維強化コンクリートにおける剥離やき裂状欠陥(スリット)の3次元可視化に成功しています(図3)。

今後の展開

今回開発した「周波数自動可変型PLUS」により、老朽化コンクリートインフラ内部の欠陥を3次元的に把握できるようになり、従来の外観検査では困難であった危険箇所の特定が可能になります。経済的・環境的制約から全構造物の更新が現実的でない状況において、危険箇所を優先して補修できるため、維持管理の効率化に大きく寄与します。

本技術は、トンネル、橋梁、高速道路などの老朽化コンクリートインフラの安全性・信頼性を高め、持続可能な社会の実現に貢献することが期待されます。


図1. 老朽化コンクリートインフラ(トンネル、橋梁、高速道路など)で問題となる内部欠陥(剥離)を本研究で開発した3次元超音波映像法PLUS(左)で映像化した結果(右)

図2. 多様な高減衰コンクリート構造物の内部を3Dで可視化できる「周波数自動可変型PLUS」の概念図

図3. 高減衰のモルタルや炭素繊維強化コンクリートにおける剥離(上)および、き裂状欠陥(下)の3次元可視化の結果

謝辞

本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金(JP19K20910、JP21H04592、JP22K18745、JP25H00789、JP25K21693)および科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業(JPMJFR2023)の支援により行われました。

用語説明

(注1)超音波

人の耳では聞こえない高い周波数(20 kHz以上)の音。周波数が高いほど直進性に優れるが、減衰の影響も大きくなる。金属材料ではMHz領域(106 Hzオーダー)の周波数が利用される。

(注2)3次元超音波映像法PLUS

Piezoelectric and Laser Ultrasonic System。
圧電探触子による超音波送信と、レーザドップラ振動計による非接触・多点受信を組み合わせた、研究グループ独自の3次元超音波映像法。
本研究グループは既報として以下の成果を発表している。
2020年9月23日プレスリリース「材料内部の欠陥を3次元で可視化できる高分解能超音波映像法を開発」
2022年5月26日プレスリリース「安全・安心な社会のための超音波検査のき裂測定精度向上に新指針」

(注3)超音波フェーズドアレイ

複数の素子を持つアレイ型超音波センサとその制御器を組み合わせ、電子スキャンにより内部を映像化する技術。医療分野で開発され、近年では工業分野への普及も進みつつある。

(注4)圧電探触子送信

電圧をかけると、伸び縮みする圧電材料から構成される超音波センサ。圧電材料に高周波の電圧信号を加えることで、超音波を送信できる。

(注5)2次元マトリクスアレイ

正方形の圧電素子を2次元的に並べた複数素子を持つ超音波センサ。

(注6)レーザドップラ振動計

レーザ光のドップラ効果(波の発生源が移動する、あるいは観測者が移動することで観測される周波数が変化する現象)を利用することで、レーザが照射された局所領域の振動情報を非接触で計測できる装置。

論文情報

タイトル:Auto-frequency-adaptive 3D ultrasonic phased-array imaging system for highly attenuative materials
著者:Yuto Fujikawa, Yoshikazu Ohara, and Timothy J. Ulrich
*責任著者:東北大学大学院工学研究科 教授 小原 良和
掲載誌:Applied Physics Letters
DOI:10.1063/5.0291949
   Applied Physics Lettersの News にも掲載されました

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学大学院工学研究科材料システム工学専攻 教授 小原 良和
TEL:022-795-7358
Email:y-ohara@tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
Email:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
ニュース

ニュース

ページの先頭へ