腸内の“かき混ぜ”(ぜん動)が栄養吸収を左右
- 炎症性腸疾患などにおける吸収低下の理解に道筋 -
2026/02/05
研究室ウェブサイト
発表のポイント
- 腸内のかき混ぜは、ぜん動(注1)によって腸内に流れ(輸送)を生み出し、栄養を腸壁の近くまで運んでいることを示しました。
- ゼブラフィッシュ幼生を用いて、腸の動き・腸内の流れ・栄養吸収を直接可視化し、吸収量が腸内の流れの強さで定量的に説明できることを明らかにしました。
- 炎症時にはかき混ぜが弱まり腸内の流れが停滞し、栄養が届きにくくなり吸収が低下すること、健康な状態と炎症状態のデータが同じ関係で整理できることを示しました。
概要
栄養が腸から吸収されるためには、栄養分子が腸壁の近くまで運ばれ、そこで取り込まれる必要があります。腸は自ら動くぜん動によって内容物を混ぜたり流したりし、内容物の運ばれ方を調整していると考えられますが、その仕組みと吸収との関係は十分に解明されていませんでした。
東北大学大学院工学研究科の菊地謙次准教授らの研究グループは、体が透明で観察に適したゼブラフィッシュ幼生を用い、腸の動き(ぜん動)、腸内の流れ、栄養の吸収を同時に測定しました。
その結果、腸の「かき混ぜ」が腸内の流れを左右し、栄養が腸壁まで届きやすくなることで吸収量が変化することが分かりました。また、炎症が起きると腸の形や動きが変化して流れが弱まり、吸収が低下することも示されました。
本研究により、炎症時の吸収低下を、腸壁の機能だけでなく、腸内での「流れ(輸送)」の弱まりとして捉え直し、定量的に説明できる道筋が示されました。
本研究成果は、2026年2月3日(米国時間)に流体科学分野の専門誌Physics of Fluidsにオンライン掲載されました。
研究の背景
腸の病気や炎症が起こると、栄養がうまく吸収されなくなる「吸収不良(注2)」が問題となります。炎症時には腸の動きが弱くなることが知られていましたが、その変化が栄養吸収にどのように関係しているのかについては、十分に理解されていませんでした。
栄養が腸から吸収されるためには、腸の動きによって腸内に「流れ」や「混ざり」が生じ、栄養分子が腸壁の近くまで運ばれる必要があります。しかし、生きた腸の中では、腸の動き、腸内の流れ、そして栄養吸収が同時に変化し、互いに影響し合います。そのため、腸の動きだけ、あるいは吸収だけを個別に測定しても、「腸の動きが流れを生み、その結果として吸収が変化する」という一連の関係を、同じ条件下で定量的に検証することが困難でした。このことが、炎症時の腸の運動低下と吸収不良との関係が十分に理解されてこなかった一因と考えられます。
今回の取り組み
本研究では、体が透明で顕微鏡観察に適したゼブラフィッシュ幼生をモデル生物として用い、腸の動き、腸内の流れ、栄養吸収を同時に測定できる実験系を構築しました。
腸の動きについては、腸の収縮頻度や大きさを解析することで、ぜん動の強さを定量しました。腸内の流れについては、腸内に導入した微小粒子を追跡することで、その流れの強さを評価しました。また、栄養吸収については、蛍光で標識したグルコースを摂取させ、腸壁を通過した後に胆のうに集まる性質を利用して、体内に取り込まれた量を定量しました。さらに、腸の動きと腸内の流れの情報を統合し、腸内でどの程度「かき混ぜ」が生じているかを表す指標を導入しました。この指標を用いることで、腸の動きがどのように流れを生み、その流れが栄養吸収にどのようにつながるのかを、一つの枠組みで整理しました。
その結果、腸の運動を一時的に強める処置を行うと、腸内の流れが強まり、グルコース吸収量も増加することが分かりました。一方、炎症を起こした状態では、腸の形(ひだ)や腸の動きが変化し、腸内の流れが弱くなり、栄養分子が腸壁の近くまで運ばれにくくなることで、吸収量が低下することが示されました。さらに、健康な状態と炎症状態のいずれにおいても、栄養吸収量は「腸の動きが生み出すかき混ぜの強さ」によって共通の関係として整理できることが明らかになりました。これらの結果は、炎症時の吸収低下を、腸壁そのものの吸収機能の低下としてだけでなく、腸の動きによって腸内の栄養輸送が弱まることで生じる現象として捉え直せることを、定量的に示しています。
今後の展開
本成果は、腸の動きだけでなく、それによって生じる流れに注目することで、吸収不良を理解する新しい視点を提供します。将来的には、炎症性腸疾患などにおける栄養吸収低下の理解を深めるとともに、栄養素や薬剤をどのように腸に届けると吸収されやすいかを考える上での設計指針につながることが期待されます。

図1. ゼブラフィッシュ幼生(モデル生物:生命現象を研究するために選ばれた共通の生物)の通常時(図1A)と腸炎症誘発時における腸の形状計測(図1B・C)と腸運動による腸内の流動性ペクレ数(腸の活発度)と腸壁から吸収されたグルコースの吸収量シャーウッド数(栄養吸収度)との関係(図1D)。栄養吸収度は腸内流動性の二乗に比例して増加する関係を定量的に解明。
謝辞
本研究は、科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業(JPMJFR2024)、JSPS科学研究費助成事業(JP21H04999, JP19H02059, JP21H05306, JP21H05308)、および同 次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)(JPMJSP2114)の支援を受けて行われました。
論文情報
著者:Jiawei Huang, Keiko Numayama-Tsuruta, Takuji Ishikawa, Kenji Kikuchi*
*責任著者:東北大学大学院工学研究科 准教授 菊地 謙次
掲載誌:Physics of Fluids
DOI:10.1063/5.0311805
※ 実験動物に関する倫理的配慮について
本研究では、動物の苦痛の軽減、使用数の減少、代替法の活用(3R:Refinement, Reduction, Replacement)の原則に留意し実験を行っています。
お問合せ先
東北大学大学院工学研究科ファインメカニクス専攻/東北大学高等研究機構
准教授(東北大学ディスティングイッシュトリサーチャー) 菊地 謙次
Email:k.kikuchi@tohoku.ac.jp
