線状降水帯による集中豪雨を人為的に分散
- 雲への種まき「シーディング」の数値実験 -
2026/03/18
研究者ウェブサイト
発表のポイント
- 線状降水帯をもたらす積乱雲に、雲の種(ドライアイスなど)をまくことで、豪雨の集中を弱められる可能性を確認しました。
- 2014年の広島豪雨をもとに、スーパーコンピューターで線状降水帯(注1)を再現し、雲への種まき効果を数値実験にて検証しました。
- 様々な条件を比較した結果、最適な条件では豪雨を風下に分散させ、豪雨域の3時間雨量を平均11.5%、最大32%減少させ得ることが示されました。
- このメカニズムを分析し、大量の雲の種をまくことで雨粒の成長が抑えられるオーバーシーディング(注2)効果が働くことを明らかにしました。
- 必要な雲の種の量をドライアイス量に換算し、実施に向けた現実性やコスト面を評価しました。
- 気候変動により激甚化する豪雨への新たな対策技術の科学的基盤となる成果です。
概要
線状降水帯による集中豪雨は近年深刻な水害を引き起こしています。東北大学大学院工学研究科の平賀優介助教とJacqueline Mbugua特任助教は、千葉大学の小槻峻司教授、法政大学の鈴木善晴教授、カリフォルニア大学のShu-Hua Chen教授、富山大学の安永数明教授、濱田篤准教授、京都大学の舩冨卓哉教授らとの共同研究により、豪雨の集中を緩和し、被害を軽減できる可能性を検討しました。2014年の広島豪雨を対象にスーパーコンピューターで線状降水帯を再現し、発達する雲に大量のドライアイスなどをまく数値実験を実施しました。その結果、一定条件下で、豪雨域の3時間雨量が平均11.5%、最大32%減少し、降雨が風下へ分散する傾向が数値計算により確認されました。さらに分析を進めたところ、大量の雲の種をまくことで雨粒の成長が抑えられるオーバーシーディング効果が働いたことを明らかにしました。また、実施の現実性やコスト面についても評価しました。本成果は、内閣府ムーンショット目標8が掲げる豪雨制御による安全安心な社会の実現に向けた科学的基盤となることが期待されます。
本成果は、2026年3月11日(現地時間)付けで、科学誌Natural Hazards and Earth System Sciencesにオンライン掲載されました。
研究の背景
近年、気候変動の影響により世界各地で極端な豪雨が増加し、日本でも線状降水帯による集中豪雨が毎年のように発生しています。こうした状況を受け、内閣府ムーンショット目標8では、2050年までに激甚化する豪雨を制御し、極端風水害の脅威から解放された安全・安心な社会の実現を目指しています。
本研究では、その実現に向けた技術の一つとして、豪雨をもたらす積乱雲に大量の雲の種(ドライアイスなど)を投入するオーバーシーディングに着目し、線状降水帯による豪雨の集中を緩和できるかをスーパーコンピューターによる数値実験で検証しました。
雲に種をまく技術は一般にクラウドシーディング(注3)と呼ばれ、これまで主に雨量を増やす目的で世界各地で行われてきました。本研究ではその物理的なメカニズムに着目し、あえて多量の種をまくことで雨粒の成長を抑え、降雨を風下へ分散させるという発想により、集中豪雨の緩和を目指しました。
今回の取り組み
本研究では、2014年8月に発生し甚大な被害をもたらした広島豪雨を対象に、スーパーコンピューター上で気象モデルWRF(Weather Research and Forecasting model)(注4)を用いて線状降水帯を高解像度で再現しました(図1)。再現性を確認したうえで、スーパーコンピューターにより発達中の積乱雲に大量の氷のもと(ドライアイスなどに相当)を人工的に投入するクラウドシーディング数値実験を行いました。
実験では、どの高度で種をまくと効果が大きいかを比較するとともに、風上側へ段階的に範囲を広げて雨量の変化を詳しく分析しました。その結果、地上約7~8km付近に広い範囲で種をまいた場合に最も効果が大きく、豪雨域の3時間雨量が平均11.5%、最大32%減少しました(図2)。
さらに、多量の種まきによって雲の上部に多数の小さな氷粒が生じ、水蒸気が消費されることで雨粒の成長が抑えられ、雨が風下へ分散する仕組みを明らかにしました(図3)。また、必要な物質量をドライアイス量に換算して試算したところ、小型ビジネスジェットの積載能力に収まる規模であることを確認しました。一方で、保管・輸送方法や飛行中の散布手法など、実際の運用に向けた技術的課題については、今後さらに検討が必要です。
今後の展開
本研究で数値実験により実証したオーバーシーディング技術は、組織化した積乱雲からなる線状降水帯に対して特に有効性が期待され、集中豪雨被害の緩和に向けた新たな対策技術の科学的基盤となる成果です。本技術は、大雨を無理に抑え込むのではなく、降雨を広く分散させ集中化を緩和し、災害リスクの軽減を図る新しいアプローチです。
今後は、シーディング物質の輸送や拡散をより現実的に再現するモデルの開発や、複数の線状降水帯事例を対象とした検証を進めることで、技術の有効性と再現性をさらに精査していきます。
将来的には、予測技術や観測システムとの連携を強化し、気象を予測するだけでなく制御する技術体系の確立を通じて、極端風水害の脅威から解放された社会の実現を目指します。

図1. 気象モデルWRFを用いた2014年広島の線状降水帯の再現計算。
(a) モデルの計算範囲; (b) 再現された線状降水帯の3次元構造; (c) 気象庁解析雨量による3時間積算雨量; (d) WRFによりシミュレーションされた3時間積算雨量

図2. シーディングによる線状降水帯の降雨量の変化。
(a) シーディングなしの3時間積算雨量; (b) シーディング時の3時間積算雨量; (c) (b)-(a)の降雨量の差; (d) シーディングによる雲氷混合比の差の鉛直分布
謝辞
本研究は、JSTムーンショット型研究開発事業(JPMJMS2389)の支援を受けたものです。本研究は、学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点(JHPCN)、および、革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の支援を受けたものです(課題番号: jh250020)。掲載論文は、「東北大学2025年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業」の支援を受けました。
用語説明
(注1)線状降水帯
積乱雲が帯状に次々と発生・発達し、同じ場所に強い雨を降らせ続けることで大雨をもたらす現象。
(注2)オーバーシーディング
雲に非常に多くの氷のもと(雲の種)をまくことで氷粒を過剰に増やし、その結果、水蒸気が多数の粒に分散し雨粒が十分に成長できなくなる現象。
(注3)クラウドシーディング
ドライアイスやヨウ化銀などの雲の種を雲に散布し、氷粒や水滴の形成を促して雨や雪を降らせやすくする技術。
(注4)WRF(Weather Research and Forecasting model)
大気の流れや雲・雨の発生を数値計算で再現・予測するために世界中で利用されている気象シミュレーションモデル。
論文情報
著者:Yusuke Hiraga, Jacqueline Muthoni Mbugua, Shunji Kotsuki, Yoshiharu Suzuki, Shu-Hua Chen, Atsushi Hamada, Kazuaki Yasunaga, and Takuya Funatomi
*責任著者:東北大学大学院工学研究科土木工学専攻 助教 平賀 優介
掲載誌:Natural Hazards and Earth System Sciences
DOI: 10.5194/nhess-26-1287-2026
